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15章 邂逅  05

 翌日朝ギルドに行くと、シズナのCランク昇格がマリアネより告げられた。


「いくらなんでも早すぎないかのう。さすがにCランクはまだ実力的にも早いと思うのじゃが」


 意外と謙虚、というか冷静なシズナの言葉に少し驚きつつ、俺も同じ意見だったのでマリアネに目配せをしたところ、


「実はこれは条件付きの昇格です。条件は『ソールの導き』の一員として活動すること、つまりシズナさん一人ではまだDランクです。かなりの特例措置ですが、私がグランドマスターにお願いをしたところ了承されました」


「ふうむ。もしやわらわがCランク扱いになると『ソールの導き』にとって有利になることがあるということじゃな?」


「その通りです。DランクのメンバーがいるとBクラスのダンジョンは入れないものですから」


「なるほどのう。確かにそれはわらわも気になっておったのじゃ。そういうことであれば謹んで昇格をお受けしようかの」


 ギルドの規則で、入れるダンジョンはパーティメンバーの最低ランクの一つ上のクラスのダンジョンまでとなっている。いくつかのトラブルを避けるための規則なのだが、『ソールの導き』ならそのトラブルは起きないという判断だろう。


「ソウシさま、それではこの街のBクラスのダンジョンにも入るのですね?」

 

「そうだな。エルフの奥里に早く行きたい気持ちもあるが、優先するのは俺たちが強くなることだ。明日褒賞をいただいて明後日から入ろうと思う。どうだろうか?」


「賛成っ!」


 ラーニが即答し、スフェーニアとシズナも「参りましょう」「望むところなのじゃ」ということで決定となる。


「マリアネも申請してくれて助かった。これで動きやすくなったよ」


「お役に立てたようならなによりです。私もBクラスダンジョンは楽しみですね」


 マリアネの存在が大きいのは言うまでもないが、今回の措置に関してはグランドマスターの思惑があることも忘れてはならないだろう。特例措置はありがたいが、その分我々には何かが期待されているということでもある。リーダーとしては気にはしておいた方がいいだろうな。




 翌日はメンバー全員ができるだけ上等な服を着て『精霊大社』へと向かった。


『精霊大社』では大巫女ミオナ様と巫女のセイナが迎えてくれた。


 まずは応接の間で今回の褒賞についての確認を行い、その後『奥の院』と呼ばれる場所に移動する。


『奥の院』は朱塗りの太い丸柱が並ぶ学校の体育館ほどもある大きな部屋で、最奥部には神社の社のようなものが鎮座していた。


 その『奥の院』にて褒賞の儀はつつがなく行われた。


 もちろんオーズ国での上位階級である神官50人程が参列しての儀式であり、これによって俺たち『ソールの導き』がこの国でも格別の扱いとなることが正式に認められたことになる。


 さすがにオーズ国に関してはそれだけのことをやったという認識はある。しかし功績の半分は『悪運』スキルによるものだという感覚もあり、俺としては多少の座りの悪さもあった。


 なお褒賞は『勲特等精霊大綬章』というオーズ国では最上位の勲章と、国宝の一つである『精霊大樹の苗』、そして1億ロム相当の金貨……というか小判が下賜された。


 さて褒賞の儀が終わり、俺たちは応接の間へと戻ってきた。


 テーブルの上には神官が運んできた『精霊大樹の苗』の実物がある。『精霊大樹の苗』というのは一見すると金でできた木の苗であった。


 それを遠慮なく眺めていたラーニだが、ちょんちょんとつついてみて首をひねった。


「確かにキレイだけど、これって金でできた置物じゃないの?」


「いやいや、この苗はこう見えて生きているのじゃ。然るべき土地に植えると成長して『精霊大樹』という大きな木になると言われておる」


「大きな金の木になるってこと?」


「伝承では見た目は普通の木のようだと言われておるのう。ただ『精霊大樹』には『精霊獣』さまが集まるそうなのじゃ。その結果としてその周りの土地が大いに肥えると言われておる」


 なるほどあの『精霊獣』こと『ガルーダモス』が何匹か集まれば、その鱗粉によって土地が豊かになるのだろう。それが本当なら面白いファンタジーアイテムではある。


「ふ~ん。でも『然るべき土地』がどこにあるのか分からないと意味なくない?」


「将来的にソウシさまが治める場所がその『然るべき土地』になるのだと思います。大巫女様もそう考えたからこそこちらをソウシ様にお渡ししたのでしょう」


 フレイニルがまた俺に妙な属性をつけようとする。俺は領地をもらうとかそんな気など毛頭ないのだが。


「領地を治めるかどうかはともかく、将来もし家でも建てて住むことになったらそこに植えてみるか」


「ソウシさま、その時は私もソウシさまの家に住みたく思います」


「私も一緒に住んでいいよね?」


「私も是非、ソウシさんの家で生活をしたいと思います」


「ギルドのある街に建ててください。そうすれば私もご一緒できます」


「住むならオーズがお勧めじゃぞ。食べ物も美味いしのう。もちろんわらわも一緒じゃ」


「は……? あ、ああ、もちろん構わないが……」


 ちょっとした冗談のつもりだったのだが、メンバーの反応が早すぎてちょっと驚いてしまった。まあ家族みたいなものだと言っている以上ダメという話もない。もっともフレイニル以外のメンバーは半分冗談なのだろうが。


 そんな話をしていると、大巫女のミオナ様と、巫女でシズナの妹のセイナが部屋に入ってきた。2人はゆったりとした所作で歩いてくると、俺たちの正面に座った。


「ソウシ殿、この度は御足労をおかけいたしました。此度の褒賞もソウシ殿たちの功績に十分応えられたとは思えぬのですが、こちらの『精霊大樹の苗』はきっとソウシ殿のお役に立つことと思いますのでご海容くだされ」


「国宝までいただいて足りないということはございません。しかしミオナ様が役に立つとおっしゃるのはなにか理由がおありなのでしょうか?」


「その通りでございます。少し前に『精霊女王』様からの啓示がございまして、オーズを救いし無双の勇士にこの苗を渡すよう仰せつかったのです」


「そのようなことが……」


 俺が頷いていると、ミオナ様の隣に座っていたセイナが少し身を乗り出してきた。


「その、実はわたくしも同じ啓示を受けたのです。母上が同じ啓示を受けたということで、2人で話し合って間違いなくソウシ様のことだということになったのでございます」


「畏れ多いことです。ですがそのようなお話があるのであれば、こちらの苗はいずれどこかに植えよということでしょうね。それまでは大切に保管しておきます」


「はい、わたくしもその通りだと思います。そしてその時には『精霊大樹の苗』はきっとソウシ様のお力になると信じています」


「お心遣いありがとうございます。もし『精霊大樹』が育つようなことがあればセイナ様も是非見にいらっしゃってください」


「はい是非!」


 とさらに身を乗りだしてくるセイナ。普段の態度は大人顔負けの落ち着きぶりだが、やはり年齢相応の表情をされるとホッとする。


 『精霊大樹の苗』の話が一段落したところで、大巫女ミオナ様が居ずまいを正した。


「ところでソウシ殿、例の『異界の門』の話、そしてメカリナン国の話を詳しくお教えいただきたいのですが、よろしいですかの」


「かしこまりました。すべてお話しいたします」


 俺がそう言うと、ミオナ様の指示で書記役の神官が2名入ってくる。


 その前で、俺はあったことを一通り伝えた。ミオナ様が特に興味を持ったのは隣国メカリナンの王位交代の話であった。ジゼルファ王になってからさまざまな圧力を受けていたこともあり、オーズ国にとってはその王が変わるというのは非常に大きな話である。


「なるほど、かの国にもそのような事情があったとはの。国王が変わったという話は聞いてはいたのですが、その後メカリナン国から来る冒険者が妙に口が堅くて情報が入ってこなかったのです。しかしそれも冒険者そのものがメカリナンの手の者であったというなら納得ですのう」


「先代のジゼルファ王はいろいろと禁じ手に近い策を弄していたようです。新たに王位に立つリューシャ王子と、その後ろ盾になるラーガンツ侯爵は道理の分かる方たちだと思いますので、今後オーズに対する行動もよい方に変わってくるでしょう」


「ならばいいのですが。それにメカリナンにさらわれた者たちもおりますでのう。やはりこちらもメカリナン国にはなんらかの働きかけをせぬとならぬかもしれませんの」


「そうですね。リューシャ王子は他国からさらってきた奴隷などは解放するとおっしゃっていましたので、受け入れる用意などは必要かと」


「わかりもうした。しかしソウシ殿のお力によってメカリナン国が変化し、さらわれたオーズの民が帰ってくるとなればさらにソウシ殿への恩が深まりますの。先に話を聞いておくべきでありました」


「いえそれは本当に偶然というか成り行きですから……。すでに宿のことといい、ミオナ様にはよくしていただいておりますのでお気遣いなくお願いいたします」


「そうはおっしゃられるが……。そのあたりは今後の動向によって対応をさせていただこうかのう。ところでソウシ殿たちは今後どうされるおつもりか?」


「明日からBクラスダンジョンに入ります。そこを踏破したのちはヴァーミリアン国からエルフの里に向かう予定です」


「オーズを離れてしまうのは残念な限りです。もちろんその旅にはシズナも同行するのでしょうかの?」


 ミオナ様の目つきが意味ありげなのは、前に言われた「シズナを側に置いて欲しい」という話が関わっているからだろう。それに関しては一応断った体にはなっているはずだが。


「もちろんです。彼女は『ソールの導き』にはなくてはならないメンバーですので」


 俺がそう答えるとミオナ様は満足そうな顔をした。まだ諦めていないということだろうが、そこは気付かないふりをして流す。下手に反応するとこちらも藪蛇になりそうだ。


 それより俺としては、セイナが羨ましそうな顔をしている方が気になった。次期大巫女ということではあるが、彼女も姉シズナ同様外の世界に憧れているのかもしれない。

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