15章 邂逅 03
『ソールの導き』としては2つめとなるCクラスダンジョンだが、草原の真ん中にあるタイプということで出現するモンスターも獣型、虫型が中心のようだ。
1~5階で現れたのは酸を吐くクモの『アシッドスパイダー』、熱を帯びた角を持つバッタ『フレイムローカスト』、そして巨大蜂の『キラービージェネラル』であった。
ラーニの『疫病神』スキルが絶好調で、特に『フレイムローカスト』は一度に30体も出現するほどだった。しかしここで活躍したのが新たな杖で強化されたフレイニルだ。『範囲拡大』『充填』『聖光』での光のシャワーが非常に強力で、大型バッタをまとめて穴だらけにして殲滅していた。
スフェーニアがそれを見て、
「フレイの攻撃魔法の威力は上位ランクの魔導師の攻撃魔法を上回りますね。私も負けていられません」
と悔しそうにしていた。このダンジョンで彼女用の強力な杖が出ることを祈るばかりである。
ボスはノーマルボスの『ジャイアントワーム』だった。
全長20メートルはあるミミズ型モンスターで、恐ろしく分厚い表皮を持ち、物理・魔法どちらにも高い耐性を持つらしい。ただその分攻撃は体当たりと円形に並んだ牙による噛みつきだけしかなく、俺が頭をおさえ込んでいる間に皆のスキルの標的になってもらった。
特に目を見張ったのがラーニの斬撃だ。『伸刃』スキルのレベルが上がって太さ1.5メートルはありそうな胴をスパスパと輪切りにしていた。
宝箱から出たのは『銀のネックレス』。『矢加速+1』の効果付きだったので迷うことなくスフェーニアのものとなった。
6~10階では曲刀のような角を持つ大型鹿の『ソードディアー』、双頭の大鷲『ツインヘッドイーグル』、そして麻痺毒を持つ大型虎の『パラライズタイガー』が現れた。
『ソードディアー』は『疾駆』スキル持ち、『パラライズタイガー』は『翻身』持ちと嫌らしく、まともに戦うとかなり苦戦しそうであった。
もっとも俺が『誘引』を使うと動きが単調になるので、途中からは流れ作業のように駆逐できるようになる。しかしそればかりやっていたところ、
「なんかソウシがいると立ち回りとか適当になっちゃいそう。それはそれでちょっとマズくない?」
とラーニに鋭い指摘をされたので『誘引』はほどほどにすることにした。
ボスは以前フィールドで遭遇した巨大火トカゲの『サラマンダー』のはずだったが、出てきたのは全身が氷に覆われた大トカゲだった。
「どうやらレアボスのようですね。確か『フリージングリザード』と名付けられていたと思います。氷の槍を多数飛ばしてくるほか、口から冷気のブレスを吐くようです」
マリアネの情報により、いつもの『衝撃波』防御の使用が確定する。
フレイニルの『神の後光』で弱体化した後はスフェーニアの『火属性魔法』などで表面の氷を削っていき、マリアネの『状態異常』で『麻痺』が入って勝負ありとなった。
最後はラーニの『火属性』魔法剣による一撃だったのだが、その前にピンときて『強奪』を使ったところ『フリージングエッジ』というショートソードを得た。『水属性+1』『風属性+1』の効果を持つBランクの武器で、これでマリアネの武器を更新できた。
銀の宝箱からは『妖精の指揮棒』という、楽団の指揮者が持つような細長い指揮棒が出てきた。鑑定すると短杖扱いの武器のようで、『魔力+1』『範囲拡大+1』の効果があるなかなか強力なものだった。もちろんスフェーニアの装備となる。
どうも簡単に武器が手に入りすぎる気もするが、悪いことではないので余計な詮索はするまい。
ともあれ今日はここまでということで、セーフティゾーンで野営をすることになった。
「そういえば忘れてたが、スキルオーブを手に入れていたんだ」
車座になって夕食を食べた後、俺はふと思い出して『アイテムボックス』からスキルオーブを取り出した。
ラーニが反応して身を乗り出してくる。
「あ、久しぶりな気がするね。どんなスキル?」
「『全属性魔法耐性』だそうだ。かなり上位のスキルらしい」
「どこで手に入れたの?」
「『リッチレギオン』が落とした。強力な魔導師系のモンスターだったから、ふさわしいスキルではあるな」
「『全属性魔法耐性』はAランクで得られるスキルですが、非常に珍しいものですね。売れば3億ロムくらいはいくかもしれません」
マリアネの言葉にラーニとシズナが目を丸くする。
「えっ、すごっ!」
「スキルオーブは初めて見るが、そんな値がつくのじゃな」
「それで、誰が使うかなんだが――」
「それはソウシさまが使うべきだと思います。ソウシさまが得たものですし、なにより私たちの盾になってくださっているのですから」
フレイニルの言葉に全員が頷いた。
「賛成~」
「そのとおりだと思います」
「妥当かと」
「当然じゃのう」
「ありがとう。ならば使わせてもらおう」
オーブを握るとスキルを得た感覚がある。なるほどこれは非常に強力なスキルだな。
俺が空のオーブをしまっていると、マリアネが腰の『フリージングエッジ』を抜いて眺めはじめた。氷河の氷のように美しい刃から、ひんやりとした冷気が漂ってくる。
「しかし『強奪』でモンスターからアイテムを奪えるというのは聞いたことがありますが、Cクラスダンジョンの、それもレアボスから奪えるというのは聞いたことがありません。これもソウシさんの力があってのことなのでしょうか?」
「多分そうだな。『アイテムボックス』に手を入れる時に抵抗があるんだが、強いモンスターほどその抵抗が強くなるんだ」
「ソウシさんは簡単に言っていますが、恐らくすさまじい抵抗があるのでしょうね」
マリアネが剣をしまいつつそう言うと、ラーニが身を乗り出してくる。
「宝箱以外から武器とかが手に入るってすごいことだよね。しかも魔法効果付きなんでしょ? 色々手に入れて余ったものを売るだけでもお金持ちになりそう」
「確かにな。ああそういえばメカリナンで新しい指輪を手に入れたから俺がつけてた『俊敏+1』の指輪が余ったんだが、誰かつけるか?」
おっさんがつけてた指輪なんて誰も欲しがらないだろうが……と思いつつ取り出すと、その場に緊張が走った。
5人が目配せをしあっているのだが、まさか押し付け合ってるわけではないと思いたい。
そんな心配をよそに、ラーニが指輪に手を伸ばそうとする。
「『俊敏+1』なら前衛がつけるのがいいんじゃない? 私がつけてみようかな」
「いえ、後衛もいざという時には素早く動くことが要求されますから、必要ないということはありません」
ラーニの手を遮ったのはスフェーニアだった。彼女にしては珍しく声に強い感情がこもっている。
「え~、でもやっぱり私が欲しいかな」
「私も欲しいですね」
そう言って譲らない2人だが、よく見るとフレイニルもマリアネもシズナもちょっと欲しそうな顔をしている。
どうやらおっさんがつけていた指輪でも魔法効果付きなら皆欲しがるものらしい。
「それならくじ引きで決めるか。誰がつけても役には立つだろう」
結局俺の提案でくじ引きになり、なぜか戦闘よりも緊張感のあるくじ引き大会が行われた。
あたりを引いたのはマリアネだったが、普段飄々とした彼女の頬が緩んでいたのでよほど嬉しかったらしい。一方で他の4人はかなりガックリとしていたので、これは早急にアクセサリーも揃えないといけないかもしれない。