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14章 魔の巣窟  12

 夕食を終えて部屋に戻り、ベッドの上で横になっていると、不意に扉がノックされた。


「どうぞ」と声をかけると、入ってきたのはなんとリューシャ少年だった。しかも一人のようで、さすがにそれはマズいのではないかと思ってしまう。彼はこの館の中でも常に護衛がついている身なのだ。


「すみません、ソウシさんと少しお話をしたいのですが」


「それは構いませんが……お一人ではよろしくないのでは?」


 と俺が指摘すると、リューシャ少年はいたずらっ子のように舌を出した。


「護衛がいると話しづらいんです。ソウシさんの冒険のお話が聞きたいだけですから」


「それほど面白い話もありませんが……、こちらへどうぞ」


 部屋に備え付けの椅子を勧めると、リューシャ少年は少し楽しそうにそこに座った。


 もしかしたら冒険者の部屋に忍び込んで話を聞くとか、彼にしてみればちょっとした冒険のつもりなのかもしれない。なにしろ彼は王子なのである。


「なんのお話をいたしましょうか?」


「まずは『黄昏の眷族』との戦いの話が聞きたいです。それからこの領地にも出るかもしれないという『悪魔』についても」


「かしこまりました。ではまず『黄昏の眷族』から――」


 ということでなるべく脚色をしないように注意しながら、『黄昏の眷族』と『悪魔』との戦いの話を詳しく語って聞かせた。


 話を聞く少年の目は好奇心でキラキラと輝いているように見えた。おそらくそれが彼の本来の性向なのだろう。はじめて会った時からしっかりした少年だとは感じるところであったが、それとは別人のような今の雰囲気に、俺は少し微笑ましくなると同時に彼の置かれた状況に同情を禁じ得なかった。


 話が終わるとリューシャ少年はふぅと息を吐いた。


「ソウシさんは神話に出てくる英雄のような活躍をされているんですね。そんな強い人に助けてもらったなんて、まるで僕も神話の登場人物になったような気がします」


「戦いの話だけ聞くとそう思われるかもしれませんが、私など実際は見ての通り一介の地味な冒険者に過ぎませんよ。ただパーティの仲間は違うのですが」


「女性ばかりだとおっしゃっていましたね。女性でも冒険者になればソウシさんのようにモンスターと戦うことができるようになるんですか?」


「はい。私の仲間もとても強い娘たちばかりです。力なら私が一番でしょうが、動きが素早かったり魔法を使ったりと得意な分野が違いますからね。それぞれの長所を生かし短所を補い合って戦う感じです」


 俺がそう言うと、リューシャ少年はふと少し遠い目をした。


「仲間と協力しながら前に進んでいく、そういうのはとても素敵だと思います。僕もそんな人間になりたいんです。でもまだ力もなくて。王城は抜け出したもののそれ以上はどうしようもなくて。ダンケンさんやソウシさんがいなかったら結局捕まって城に戻されていたでしょう。そんな自分が悔しいんです」


「リューシャ様はご立派ですね。私など同じ年の時は大人の世話になって当然と考えていましたよ」


「でも思っているだけですから。今度の戦いも僕自身はなにもできないんだと思うと、ソウシさんが戦に参加してくれるのも心苦しくて」


 少年の言葉にむしろこちらのほうが心苦しいくらいであるが、それを言っても彼の心は晴れないだろう。


「さきほど適材適所と申しましたが、それはリューシャ様や侯爵閣下についても同じなのです。私は戦うしか能のない身ですから戦うなら先頭に立ちますし、リューシャ様は国民の希望となる方ですからその存在を保つことが第一の責務となるでしょう。むしろリューシャ様には戦いの後にこそ大変な仕事が待っているのですから、今はなにもすることがないくらいでいいのです」


「それも冒険者のように補い合う関係だということですか?」


「その通りだと思います。結局は国そのものが一つのパーティみたいなものなのかもしれませんね」


 戦に尻ごみしてた人間がなんとも偉そうなことを言っているものだ。さっきから羞恥心がチクチクと刺激されて非常に苦しく、顔に出さないようにするのが精一杯なほどである。


 なぜいきなり悩める王子様の人生相談みたいな流れになってしまったのだろう。こういうのは侯爵にでもやっておいてもらいたいものだが……ああそうか、彼女が忙しいから俺のところに来たわけか。


 ちょっと重い雰囲気になってしまったので、俺は『アイテムボックス』から先日手に入れた『毒耐性+3』の指輪を取り出した。


「先ほどリューシャ様には戦いの後が大変だと申し上げましたが、これがその助けになるかもしれません。受け取っていただけませんか?」


「えっ!? これは……?」


「先日このラーガンツ領のダンジョンで手に入れたものです。『毒耐性』というスキルがついているものなんですが、私もパーティのメンバーも全員『毒耐性』スキルは得ていまして、持っていてもあまり意味がないのです。もしかしたらすでにお持ちかもしれませんが……」


「いえ、魔法効果のついた装飾品はすべて取り上げられてしまったんです。しかしよろしいのですか、高価なものだと聞いていますが」


「幸い私のパーティはお金には困ることがまったくないので問題ありません。むしろ今お持ちでないのでしたらぜひとも身につけておいた方がいいでしょう。その方が侯爵閣下の心労も減るかと思います」


 正直なところ「あなたは毒を盛られる可能性があります」と言っているようなものなのだが、リューシャ少年はそこはもう慣れているらしく特に嫌な顔もしなかった。


「確かにそうですね。今はご厚意に甘えさせていただきます。ですがソウシさんに受けた御恩はきっとお返ししますので」


「それは期待させていただきましょう。褒美を頂戴するためにも私も戦いには全力を尽くしますよ」


「ソウシさんの戦いぶりを近くで見てみたいですね。侯爵が許さないと思うけど」


 そう言った時のリューシャ少年は、部屋に入ってきたときのあどけない顔に戻っていた。途中妙な話になってしまったがなんとか元に戻って良かった。俺の部屋から深刻そうな顔で彼が出ていったら、その後が怖いことになっただろうしな。

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