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14章 魔の巣窟  02

 その洞窟はダンジョンでもないはずなのに微妙に明るかった。岩肌に光を発するコケのようなものがぽつぽつと付着しているのだが、それが結構な光量を持っているのだ。


 20分ほど進んだだろうか、奥から気配が近づいてくる。現れたのは外にいたのと同じ虫型悪魔だが、身体が一回り大きく頭部が二つある。上位種といったところか。


 万一仲間を呼ぶなんてことをされると面倒なので、俺もダッシュして接近する。何本か氷の槍を受けとめつつそのまま突っ込み、盾を頭部に叩きつけた。


 グシャッという感触と共に『悪魔』が吹き飛ぶ。もちろんそのまま黒い粒子に変わっていく。


「やっぱりこの盾自体が武器になるな」


 あの暴走悪魔を倒した時にも感じたことだが、『不動不倒の城壁』はそれ自体凶悪な武器であった。スキルでの上乗せを考えると、体当たりだけで10トンダンプとの衝突以上の威力があるだろう。


 魔石を回収してさらに奥に進む。洞窟に分岐はなく、多少曲がりがあるほかは一本道である。


 何体目かの『悪魔』を爆散させたとき、不思議なことに気が付いた。


 少し先にある洞窟の岩肌が妙にツルツルしているのである。近づいて見てみると、どうも人工的に整形された跡のようにも見える。


 一応可能性の1つとしては考えていたが、まさか文明のようなものがこの先にあるのだろうか。


 完全に平面に整形されている床の上を歩いていくと、耳に奇妙な音が聞こえてきた。多くの()()()が動いている足音のようなものである。


 前方に光が見える。光るコケが大量に生えている空間があるようだ。『気配察知』にはかなり多くの……100体以上の反応がある。おびただしい数の『悪魔』がその先の広い空間に集まっているようだ。


 俺は忍び足でその空間の手前まで歩いていく。今『悪魔』と鉢合わせすると最悪なことになりそうだが、幸いそうはならなかった。


 通路の終端、広い空間への入り口にたどりつく。気配の様子からすると、その先の空間は下側に大きく開けているようだ。つまり今いる通路は広い空間の天井付近につながっているらしい。


 俺は姿勢を低くして、頭だけを出してその広い空間を上から覗き込んでみた。


「これは……」


 予想はしていたとはいえ、なかなかに衝撃的な光景がそこに広がっていた。


 その空間の底までは30メートルくらいあるだろうか、広さはサッカー場の倍ほどもある。岩山の中に広がる空間としては異常に広い。もちろん周囲は完全に人工的に平面に整形されていて、誰がどう見ても自然の産物たる空間ではない。


 そしてその底は、一面がピンク色……つまりおびただしい数の『悪魔』たちがうごめいていた。多いのは先程まで討伐してきた虫型だが、以前トルソンで戦った大型のクモ型も5体ほど確認できる。明らかにここは『悪魔』達の巣であった。


 しかしそれだけならある意味予想通りで、そこまで驚くものではなかった。


 問題はその空間の奥の壁に、奇妙な構造物が設置されていたことだ。


 それはどことなく巨大な女性の像のように見えた。パッと見は土偶と埴輪をかけ合わせたような、なんとなく既視感を覚えるような、それでも初めて見る姿の像である。


 高さは30メートルほどもあるだろうか。その身体は大の字になって壁に貼りついている。そしてその股間から足の間にかけての部分の壁面は、ガラスのような透明な光沢を持っていた。いかにもその部分に特別な何かがありそうな雰囲気である。


 俺は息を飲んでしばらくその空間を見ていた。と、巨大な像の股下部分、ガラスに見えた壁面が急に液体のように波うち始めた。


 そしてその波が一瞬おさまったかと思うと、再度大きく壁面が膨らんで、その膨張が頂点に達したところでニュルッという感じでピンク色の物体……『悪魔』が飛び出してきた。


「あれは……あそこから『悪魔』が生まれているとかそういうことか?」


 しばらく見ていたが、さらにもう一体が出てきたところで確信する。どうやらあれは『悪魔』を生み出す設備のようだ。ファンタジー的には『召喚』しているという線もあるが、どちらにしてもあれが『悪魔』を出現させているのは間違いないだろう。


 とすれば破壊しておくべきだろうか……と一瞬考えるが、今俺がやらないとならないのはまず観察を続けることだろう。あれを破壊したらさらなる問題が生まれてしまった、なんてことも起こらないとは限らない。


 さらにしばらく見ていると、『悪魔』たちがギギッ、ギギッと金属的な声を一斉に上げ始めた。広い空間に耳障りな声が充満していく。


 そしてその声のボルテージが上がっていき最高潮に達した時、いきなりすべての『悪魔』が壁を登り始めた。


 もちろん奴らが向かってくるのは俺がいる通路である。


 しまった……と思った時はもう遅かった。あっという間に『悪魔』はこの通路に入り口に殺到し、そして――


「なんだ……?」


 無数の『悪魔』たちは盾を構えた俺を完全に無視して、通路を出口の方に向かって走って行った。何匹かが盾に足を取られて倒れるが、後から走ってくる『悪魔』はそれらを踏み潰しながら進んでいく。俺があ然としているうちに、1分足らずですべての『悪魔』が通り過ぎていった。


「なにが起きるのか見た方がいいか」


 『悪魔』がいなくなった隙に部屋を調べるのもいいが、今は動きがある方を優先的に探るべきだろう。


 俺はそう判断し、『悪魔』たちの後を追って通路を走り出した。

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