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13章 オーズへ  09

 翌日朝、俺たちは宿を出て冒険者ギルドへと向かった。


 もちろんシズナも一緒である。結局彼女はあの後問題なくパーティに迎えられ、晴れて『ソールの導き』の一員となった。彼女はどうやらミオナ様からオーズ国内で俺たちを案内する役もおおせつかったらしい。今は彼女を先頭にして通りを歩いている。


 オーズ国の建物は木造が主で、その建物の様式や街並みは日本の江戸時代のそれをほうふつとさせる。住人の服装も和装っぽく、俺としては江戸時代の街並みを模したテーマパークを歩いているような錯覚に陥る。


 ギルドの建物も同じ様式の3階建てであった。入ると中はヴァーミリアン国の王都本部ギルドなみの広さがあった。冒険者の数は多少少ない気もするが、それでも200人はいるだろう。


 マリアネは早速奥へと向かった。俺たちが掲示板の方に行こうとすると以前聞いた声に呼び止められた。


「ようソウシさん、面白いところで会うね」


 そこにいたのは虎獣人の美女カルマだった。大剣を背負った冒険者で、Bランクパーティ『酔虎』のリーダーだ。王都で会って以来だから顔を合わせるのは20日ぶりくらいだろうか。


「カルマさんでしたね、お久しぶりです。王都からオーズまでいらっしゃったんですね」


「ああ、ヴァーミリアンのダンジョンは近場のものは全部入っちまったからね。依頼がてらちょっとこっちまで足を伸ばしてみたのさ」


「あの山を越えてこられたのですか?」


「もちろんさ。っていうかソウシさんは違うのかい?」


「私たちは飛んできたんだよねっ!」


 俺の脇からラーニが前に出てきて、カルマの前で胸を張る。ちょっと張り合っている感なのが微笑ましい。


「飛んできた? ああ、もしかして噂になってる『精霊獣』さまとやらに乗ってきた冒険者ってのはラーニたちの話なのかい」


「そうそうそれ。前に助けたら恩返しで乗せてくれたの。すごいでしょ」


 ラーニの自慢を聞いてカルマは急に真顔になり、急に声を小さくした。


「すごいっていうかメチャクチャデカい噂になってるからね。あんまり大声で言わない方がいいかもしれないよ。『精霊女王』さまの遣いだとか言われてるから」


「本当ですか? じゃあなるべく知られないようにした方がいいかもしれませんね」


 と言っても多分大巫女様から褒賞かなにかをいただいたら知られてしまう気もする。しかし今回に関しては本当に大したことをやっていないのだ。それで有名になるのはどうにもいたたまれない。


「ふ~ん、じゃああんまり言わないようにしよ。あっ、マリアネが戻ってきたみたい」


 ラーニの言う通り奥の部屋からマリアネが戻ってきた。


「『精霊大社』のほうからシズナさんが到着したという報告が入りましたので、依頼は正式に完了となりました。報酬はすでに各人のカードへ支払われています」


「ありがとう。今日は訓練場を下見して街にでるか」


「私は少しこちらで仕事をします。皆さんで楽しんできてください」


「分かった。マリアネにはなにか似合いそうな服を買っておくよ。楽しみにしててくれ」


「ありがとうございます。ソウシさんのプレゼント、心待ちにしています」


「あ……ああ」


 俺が言葉に詰まったのは、礼を言うマリアネがニコッと笑ったからである。いつも無表情なだけにそのギャップは相当なものだった。


 俺がそれ以上反応できないでいると、マリアネはそのまま奥の部屋に去っていった。見送ってから皆の方を振り返ると、シズナを除く3人の視線がちょっと湿っているような……。


「ソウシさま、私にも似合う服も選んでくださいませんか」


「ソウシ、今のはちょっとマズいんじゃないかな~。私のも選んでねっ」


「ソウシさん、私もソウシさんの選んだ服を着てみたいと思います」


「いやそれは構わないが……。あまり俺のセンスには期待しないでくれよ」


 3人の謎の圧にたじろいでいると、シズナは「ははあ、なるほどそういうことかのう」と言って頷いた。近くで見ていたカルマも「強い男は大変だねえ」と笑っている。


 マリアネだけ仕事なのは後ろめたいので服を買うと言ったのだが、別の土産にしたほうが良かったのだろうか。よく考えたら服を買うなんて日本じゃ絶対に言わなかったはずだ。どうも咄嗟(とっさ)のことで距離感をミスった気がするな。今後気を付けるとしよう。




 その日はシズナの案内で一日ガルオーズの街を散策した。当然ながらシズナ自身、この国では超がつく有名人であるが、普段から街を出歩いていたらしく騒ぎになるようなこともなかった。いくつかの古い社や庭園などを巡り、買い物をしているとあっという間に1日が過ぎた。


 なお服に関しては浴衣のようなものが売っていて、それをシズナ含めて全員分俺が選ぶことになった。この世界で店頭に既製品の服が並んでいるというのは実は珍しいことなのだが、オーズ国は布と染色に関してはかなり発達しているらしく目移りするほどの種類が揃っていた。一応各人に似合いそうなものを選んだが……全員嬉しそうだったので問題なしと思おう。


 マリアネには黒を基調にしたものを選んで買った。宿で着替えてもらうとなかなかに似合っており、「ありがとうございます」とまたニッコリと微笑んでもらえた。


 その後妙にやる気になったメンバーたちによって部屋が浴衣ファッションショー会場のようになってしまったが、俺としては目の保養になった気はする。


 さて翌日はダンジョン攻略である。マリアネによるとFとDクラスダンジョンが互いに近い位置にあるとのことで、そこを1日で踏破することにする。


 草原にあったFクラスダンジョンはまったく問題にもならず踏破、各自耐性スキルを得た。ちなみにマリアネによると、低ランクのスキルを一通り得てから低クラスダンジョンでスキルを得ると、すでに持っているスキルのレベルが上がるらしい。


 岩場にあったDクラスダンジョンは10階層のものであった。シズナに前に出てもらって経験を積んでもらったが、『精霊』の岩人形がさらに強力になっていた。身長が1.5mほどになっていて前衛としてかなり頼もしい。


 5階は通常の中ボス『グレイブキーパードラゴン』で、宝箱は『身体能力+1』の腕輪だった。バランスを考え今のところレベルの低いシズナに装備をさせた。


 最下層10階も通常のボス『エレメンタルガーディアン』で、フレイニルとスフェーニア、そしてシズナの魔法の乱れ撃ちで倒してもらった。というか前衛が『精霊』含めて5人、後衛が3人は完全にズルである。

 スキルは俺が『翻身(ほんしん)』の下位の『軽業(かるわざ)』で、身体の動きがさらに軽くなった。


 フレイニルはすでに得ている『充填』のレベルが上がったようだ。Dクラスダンジョンで得られるスキルがもうないということだろうか。


 同様にラーニの『安定』、スフェーニアの『充填』、マリアネの『貫通』がレベルアップした。特殊スキルのレベルは上限が20のようだが、そこに達すると上位スキル取得の可能性が高まるのでそういう意味でもレベルアップは重要である。


 シズナは回復魔法である『命属性魔法』の効果を高める『命気』スキルを得た。実は彼女も回復魔法が使えるため『ソールの導き』には回復役が二人いることになる。前衛の俺が怪我と無縁になってきているので贅沢と言えば贅沢な話だ。


 街に戻ってギルドで素材を買い取ってもらい、宿へと向かう。


 その途中の道で30人程の兵士が街の外に向かう姿が見えた。ちなみにオーズ国の兵士は日本の戦国時代の足軽みたいな装備をしていて、俺としてはちょっと興味深い。


「シズナ、彼らはどこへ行くんだ?」


「街の外側に物見櫓が並んでいたのに気付いたと思うのじゃが、あの者らはその交代要員じゃ」


「ああ、なるほど。あの櫓はモンスターの接近などを見張っているんだよな?」


「そうじゃの。野盗などもいないことはないが、ガルオーズに来ることはまずないのう」


「モンスターが近づいてきたら冒険者を呼ぶわけか」


「モンスターがよほど強ければそうなるのう。ただ大抵は『精霊』の力を借りればなんとかなるので問題はないのじゃ」


「そうか、『精霊』が使える者が兵士の中にもいるんだな」


 モンスターに対する備えも国によって微妙に違うのは面白い。せっかく冒険者という立場で旅ができる身分になったのだから、やはりあちこち見て回りたいものだな。

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