12章 王都にて 12
今日の予定を終えた俺たちは、一度宿へと戻ってきていた。
ダンジョンの件は俺の一存で承諾をし、明日美青年騎士ハーシヴィル卿と、魔人美女メルドーザ卿とともに『王家の礎』に入ることになっている。
シズナ嬢の件については一応メンバーの了解をとってからということで、諾否の返答は明日まで待ってもらっている形である。
夕食を取ったあと俺は一度全員を自分の部屋に集めた。
シズナ嬢の件については、全員一致で依頼を受けることに決まった。王家からの依頼なので断りづらいのもあるが、女性陣がシズナ嬢に情が移っていることと噂のオーズ国を見てみたいという好奇心も大きかった。俺自身行ってみたいという気持ちは強い。
ダンジョンの件は入るのが俺一人ということでフレイニルには心配をされ、ラーニには「私も行きたい!」とねだられたが、それ以上揉めることはなかった。
「恥ずかしながら俺は『王家の礎』というダンジョンのことを知らなかったんだが、有名な話なのか?」
俺の言葉に反応したのはマリアネだった。
「そうですね。『王家の礎』を中心に王都が作られているというのは有名な話です。貴重な素材や宝が取れるダンジョンで、入れるのは王家が許可した者だけと言われています。そう言う意味では今回一番の褒賞はソウシさんがそこに入る許可を得たということでしょうね」
「思ったより大きな話だったんだな」
「ええ、ギルドとしても『王家の礎』の情報は少しでも知りたいので、可能ならば戻ってからお話をお聞かせください」
「分かった。口止めされなければ、だけどな」
どうやら俺の知らない『この世界の常識』はまだまだ多くあるようだ。ともあれそんな限定ダンジョンに入れるというのはそれはそれで楽しみではある。
「さてと、じゃあ最後の相談なんだが、実はこの間手に入れた『エリクサー』を王家に献上しようかと思っている」
俺の急な提案に、皆が一瞬驚いた顔をした。
中でも一番目を見開いているのはマリアネだが、そういえば俺たちが『エリクサー』を持っていることは伝えてなかったな。
そんな中、当然のことながらラーニが真っ先に疑問を口にした。
「『エリクサー』を王家に献上するって、なんでそんなことをするの?」
「実は王妃様が重いご病気らしいとトロント氏から話を聞いたんだ。フレイニルは姫君から話は聞かなかったか?」
「はい……馬車の中で少しだけ聞きました。マルガロット姉様がお薬を取りに行って、手に入らなかったとおっしゃっていました。ただ『エリクサー』とはお聞きしていませんでしたが」
「今日国王陛下と話をしに行ったときに話が聞こえてしまったんだが、どうもその『エリクサー』について教会と揉めていたようなんだ。雰囲気としては教会がすでに持っている『エリクサー』を出し渋っている、そんな感じらしい」
俺が声を低めると、スフェーニアが眉を潜めた。
「それは教会側が『エリクサー』を取引材料にして王家になんらかの影響を与えようとしているということでしょうか?」
「国王陛下側もそう受け取っていたようだったな」
「そんな、王妃様のお命を取引に使うなんて……」
フレイニルが悲しそうな顔をするのは当然のことだろう。王家と教会の間にどんな関係が成り立っているのか不明だが、さすがに人の命を質にするような取引は見ていて気持ちのいいものではない。
「マリアネ、俺はまだこの国に来て日が浅いからよく分からないんだが、現国王陛下の市井での評判はどんな感じなんだ?」
「悪いお話はほとんど聞こえてこないと思います。王都のマスターによると冒険者ギルドに対しての理解もあるというお話です。エルフ族の方では?」
「そうですね……。奴隷狩りの取り締まりを強めてもらいたいという話はありますが、それ以外については特にありません」
「獣人族としては仕事がしやすくなったみたいな話はあるかも。ただやっぱり奴隷狩りはね。メカリナンのせいなんだけど、ちょっと南の国境が甘いって感じはあるかな」
「なるほど……」
国境線についてはともかく、それ以外で話がないというなら比較的にいい政治を行ってはいるのだろう。確かに俺が見てきたかぎりでもこの国に悪いイメージはない。
「俺も今日会って話をしたが、国王陛下は良識のある人物だと感じた。パーティにとっても王家とつながりができるというのは悪い話ではないと思うし、特に反対がなければ明日様子を見て『エリクサー』を献上しようと思うんだがどうだろうか」
「私は王妃様のお命が危険というならお渡しすべきだと思います」
「どうせソウシのことだからまたすぐに手に入る気がするし、いいんじゃない?」
「私もソウシさんの意見に賛成します。メカリナンの不穏な動きもありますし、今王家になんらかの動揺がはいることはエルフ族としても避けたいところです」
「ギルドとしては『ソールの導き』が対外的に力を持つことはむしろ望ましいと考えます」
ということでひとまず懸案事項については方向性が決まった。
問題はこれが『ソールの導き』にどういう結果をもたらすかだが、そこはいい方に転がると信じるしかないだろうな。いささか『悪運』氏に誘導されている気もしないではないが……。
明けて翌日、パーティ揃って王城へと向かった。
昨日と同じ控えの間に案内され、女性陣はそこで待機という形になる。どうやら姫君が『ソールの導き』の女性メンバーと交流をもちたいと要望したらしく、恐らくそこでお茶を飲みながらお話をして過ごすことになるのだろう。一応トランプもおいてきたので待つ時間は潰せるはずだ。
一方で俺はレイロット氏に城の奥へと案内された。いくつもの頑丈そうな扉を抜け階段を地下へと降りていくと、石造りの広い地下室へとたどりついた。
そこには宰相のジュリオス氏とハーシヴィル青年、そしてメルドーザ女史が待っていた。
俺の顔を見るとジュリオス氏が一礼をした。
「それでは本日はよろしくお願いします。ハーシヴィル、メルドーザはソウシ殿の能力を測る役目をもっておりますが、基本的にパーティメンバーのような扱いで構いません。必要なら戦いの指示をしてくださって結構です」
「分かりました。ご両人ともよろしくお願いします」
「『トワイライトスレイヤー』たるソウシ殿の技量、しっかりと勉強させてもらいますよ」
ハーシヴィル青年が余裕のある笑みを漏らす。蒼銀の鎧にミスリルの槍という、最初に会った時と同じ装備だ。
「フフフ……、ワタシも楽しませていただくわ。魔法が必要な時は言ってちょうだい」
ミステリアスな雰囲気を漂わせているメルドーザ女史は、黒を基調とした魔女っぽいスタイルだ。開いた胸元とスカートに入った深いスリットのせいでどうにも目のやり場に困る。
俺が『アイテムボックス』からいつものメイスと盾を取り出すと、ハーシヴィル青年以外の3人は少し驚いた顔をした。
ジュリオス氏は頷きながら部屋の奥にある鉄の扉を開けた。その先は暗闇に下りていく階段があるのみである。
「『王家の礎』の地下5階までは慣れているAランクパーティなら2刻(約4時間)で踏破します。5階のボスの部屋までの順路はハーシヴィル、メルドーザどちらも知悉していますので案内をさせてください。ではご武運を」
「ありがとうございます。では参ります」
俺はジュリオス氏、レイロット氏に礼をし、ハーシヴィル青年、メルドーザ女史を供にして、クラスレスダンジョン『王家の礎』に足を踏み入れた。