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その9.未知のダンジョン2

 解錠した扉の奥へと、足を踏み入れる。


「さあ、次は何が出てくる? モンスター以外でお願いね!」


 ベルが隣で杖をぶんぶんと振り回している。俺に当たりそうだからやめてほしいが、彼女なりに不安を紛らわせているのだろうか。

 慣れないダンジョンで強がっているのか、もともと意地っ張りな性格なのか、何とも言えないところだ。


 長い廊下を進んだ先で、再び開けた部屋に出た。

 

「転移陣は……なさそうか」


 そもそもここって、何の遺跡なんだ?

 たまたま入れたから進んできてしまったが、危険がないといいんだが。


「今度は扉が三つあるみたい」

「鍵はかかっていなさそうですね」

「あ、壁になにか書いてある……えーっと?」


 ~

 ひとつは「求める場所に行ける」扉

 ひとつは「ひと月のあいだ遺跡から出られなくなる」扉

 ひとつは「入口へ戻る」扉


 まずは、扉をひとつ選べ

 選んだ後、進む扉を選び直すことが出来る

 ~


「どういうこと? じゃあ試しに右で」


 即断しないでほしい。

 ひと月のあいだ遺跡から出られなくなる選択肢が混じってるっていうのに。

 なんの蓄えもない俺たちがこんな所にいたら、ひと月も経たず死ぬんだが。


 ベルが右の扉を指差すと、真ん中の扉がひとりでに開く。

 同時に、壁の文字が書き変わった。


 ~

 進むべき扉をひとつ選べ

 選べば、扉の効果は即座に発動する

 ~


 開いた扉の奥の景色には見覚えがあった。


「これ、さっき通ってきた入口じゃない?」

「じゃあ真ん中の扉が入口に戻る扉ですね。そこを選んだらとりあえずこの遺跡からは安全に出られそうですが」

「……あたし、求める場所に行ける扉が気になる」

「まじですか……」


 ベルの瞳が強気に光った。


「何かの書物で似たようなものを読んだことがあるの! こういう時は、選択を変えた方が当たりやすいってね」

「待ってください。それより鑑定の方が確実です」

「ええ!?」


 さっきも扉の術式を読めたので、思ったのだ。仕掛け扉も分類的にはアイテムのようなもので、俺に効果が読めるんじゃないかって。


「右の扉が、求める場所に行ける扉のようです」

「だからなんでわかるのっっ!? というかあたしの知識の意味は!?」


 鑑定の結果なんだから、何でと言われても困る。


「ああでも、さっきも意味わからないけどアタリの鍵見つかったし……信じる! 右の扉!」


 ベルが叫ぶと、辺りは光に包まれる。

 予想外の脱出方法だったけど、これでやっとダンジョンから出られるのか。

 ……と、俺は安心しきっていたが、転移した場所は引き続き遺跡内の廊下だった。


「……あれ?」

「……はは。あんた、本当に凄い」


 ベルが笑っている。扉を間違えたのか?まさか。効果はしっかり見えていたはずなのに。


「そんな顔しないでよ。ちゃんとあたしが求める場所に辿り着いたってだけ」


 その瞳は廊下の先の扉を真っ直ぐに見つめていた。


「ベルさん……? 何を言って」

「安心して。王宮関係者ってのは嘘じゃないし、あなたに危害を加えるつもりもない。あたしの都合に巻き込んじゃったのは申し訳ないけど、なりふり構っていられなかったからね」

「目的は何なんです?」

「ついてきて。すぐにわかるから」


 ベルはつけていた指輪を外した。そして、扉のくぼみに嵌め込む。

 光が射して、扉に描かれている模様が明らかになる。

 王家の紋章だった。


「あははっ……! この遺跡に王家にしか使えない宝があるって噂は本当だったんだ!」


 王家の宝?

 どういうことだ?

 それに、なぜこの人がその扉を開けられる?


「ここまで連れてきてくれたお礼に教えてあげる。あたしは第二王女のヴェルヴェット」


 ベルは妖しく微笑んだ。


「……いや、王女様がこんなところで何してるんです……?」

「もっと驚きなさいよっ! そんで余計なお世話だし!」


 悔しそうに地団太を踏むベルからは、王族の威厳はとても感じられない。


「一応、経緯を聞いてもいいですか?」

「パパが……王様があたしじゃなくて妹を隣国にお嫁にやるって言うから! 第二王女のあたしを差し置いてよ!? あり得ないでしょ!」

「はあ……」

「で、パパに詰め寄ったら、それならダンジョンから貴重なアイテムを持ち帰った王女を選ぶ、って言ったの! 妹が一声かければ王宮の騎士団を動かせるっていうのに、あたしは……あたしに勝ち目があると思って!?」


 要するに人望対決で土俵にも立てなかったってことか。


「そしたら、紫の騎士団とかいう叩き上げ連中の集まりがすごく貴重なアイテムを取りに行くって噂を聞いたから、なんとか無理矢理あたしに協力してもらおうと考えたの。転移魔法に割り込んで、この遺跡の座標にみんなで飛んでもらうつもりだった。そうして騎士団にここが目的のアイテムのある場所って思い込ませて攻略させて、あたしはラクして遺跡の奥まで進めたらなーってね」


 迷惑な話だな……。まず、騎士団とはぐれたのはこいつのせいだったのか。

 こいつ、見知らぬ場所に飛ばされて慌ててたんじゃなくて、騎士団ごと転移できなかったことに焦ってたんだな……。


「結果、一緒に飛ばせたのはあんただけだったけど、遺跡突破できちゃったしアタリ引けて幸運ってことだね、あたし」


 そんな事情だったら絶対協力してなかったんだが!?


「……ほほう」


 不意に、ベルのものではない女性の声が響いた。

 その声は扉の奥から聞こえてくる。


「おぬしが王家の血筋に連なる者か? 遠路はるばるご苦労なことよ」

「だ、だれ!?」

「ははっ、わらわこそが、おぬしの求めていた宝じゃよ」


 こっちに寄って見てみい、と扉の奥の声は笑っていた。

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