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その7.騎士団の騒ぎ

 何か重たいものがドサっと倒れるような音で目が覚めた。

 眠たい頭を起こして近くにあった明かりを点ける。


 紫の騎士団で、俺は一人部屋を与えられている。

 仕事が忙しいので夜眠るだけの場所になってしまっていて、部屋はいつも殺風景だ。


「おはよっすマリオンさん!」

「……!?」


 そんな殺風景な室内に、よく一緒に食事をとる仲の若手騎士ジークがいた。

 彼は、知らない黒装束の男をシーツで締めあげグルグル巻きにしていた。


「見て見て。マリオンさん暗殺されかかってたっすよ」

「は!?」


 聞けば彼は今日の夜警当番で、怪しい人影が俺の部屋に向かっていたから後をつけて返り討ちにしたのだと言う。


「いやーやばいっすね。んじゃ、オレはこいつ引き渡してくるんで、おやすみっす」


 呑気に笑いながら侵入者をしょっ引いていくジーク。


「はい……?」


 当然そのまま眠れるわけもなく、俺はジークの後を追いかけていって数名の夜警当番に部屋を見守ってもらうよう頼んだのだった。


 ■


「それで、今週に入って何回、命を狙われたの?」

「俺が知ってるだけで4回ですね……」


 最近の俺はというと、アーティファクトを鑑定してからというもの、珍しいアイテムに当たった時の脳汁が出る感覚が忘れられなくて。

 ますます鑑定作業にのめり込む日々を送っていたのだが、同時にめちゃくちゃ暗殺されかけていた。


「すごいですマリオン様!」

「暗殺されかけた回数は偉人の誇りでもあります!」

「素晴らしい記録の伸ばしっぷり!」


 いや全然嬉しくないが……。こいつら戦いに身を置きすぎて価値観バグってないだろうか。

 隣で食事をとるフリアエも「わたしも最近あった」と頷いている。どうなってるんだこの街の治安は。


「しかし、こちらも相手に一泡吹かせてやりたいところ!」

「犯人一味を草の根分けても探しだし、一族を根絶やしにしてやりましょうぞ!」


 食堂の騎士たちは、いきり立っていた。

 気持ちは嬉しいが、一族根絶やしとかそんなことはしなくていい。むしろするな。

 というか、そんなことがまかり通ったら脳筋を通り越して暴漢集団だぞ。それでいいのか騎士団。


「静まれ、早まるでない」


 入口から現れたガラード団長は眉間にたっぷりと皺を作っていた。

 なんというか、この騎士団、団長の負担が大きすぎないだろうか。


「マリオンどのを襲った首謀者の裏は取れている。ギルド派閥の貴族だ」

「「ギルドの野郎!!」」

「静まっておれ」


 ガラード団長は朗々と声を張り上げた。


「暗殺などという手段に出たという事は、向こうも追い詰められているということだろう」

「え!?」

「今や鑑定士ギルドは失墜しつつある。マリオンどのの活躍でな」


 俺ですか!?

 ひたすら鑑定に夢中で社会情勢とか全く気にしていなかったんだが……。


 俺が一度は目指したギルドがいつの間にかそんなことになっていたとは。


「えっと……なんでですか?」

「上位互換の存在が現れたら淘汰されていくのは自然な事よ」

「上位互換……って」


「うおおおお!」

「さすがはマリオン様!」

「ギルドの連中が束になっても叶わぬ仕事ぶり、すごすぎるぜ!」


 は!?

 いやいやいや、さすがにそんなわけないだろ。俺一人の力が鑑定士ギルド全体に影響を及ぼすってどんなバタフライエフェクトが起きたらそうなるんだ。


「マリオンどのに鑑定していただいたアイテムのうち、希少品は国へ献上し、有益な武具は騎士団内で活用。騎士団内で使用しきれないアイテムはそれぞれ必要とする市場へ卸したかったが、現状はギルドの鑑定書がないと売り買いができない」

「おお……」

「そこで先行投資として冒険者組合へ寄付という形で有益なアイテムを譲ったところ、我が騎士団から直接アイテムを買いたいという冒険者が急増。市場からも騎士団からの直接の仕入れを希望する声が急増。今のギルドの仕組みが邪魔と考える動きが一気に広まることとなる」


 要するに、冒険者や市場に完全に見放されて、ギルド無力化しちゃったんですか。

 そんなあっさり!?


「ギルドへの不満の火種は元からあったが、そこへ火をつけたのはマリオンどのの働きだ」

「はい!?」

「たった一人でこれほど正確に、桁違いな数のアイテムの鑑定が出来るとは……私はマリオンどのを過小評価していたようだ」

「いや……あの」

「マリオンどののおかげで、この度の流通革命は成り立ったのだ」


 革命はちょっと大袈裟なんじゃないか……?

 俺は団内でひたすらアイテムの鑑定をしていただけで、言われても全然実感がないし……!


「いやいやいや、それで一生暗殺される生活送ってたら割に合わないんですが!?」

「案ずるな。我らも現状を黙って見過ごすつもりは毛頭ない」

「「殴り込みですか団長!」」

「静まっておれ」


 ガラード団長は一枚の羊皮紙を取り出した。


「民衆の支持は我らにある。ならば、あともう一押し。王がギルドに巣食う貴族を排除し、現ギルドの体制を変えざるを得ない大義名分を打ち立てよう」

「というと……?」

「王のためにギルドが出来なかった事を、我らがすれば良いだけのことだ。候補は色々あるが……現時点で最も叶いそうなものは『神宝』の献上だろうな」

「神宝……アーティファクト?」


 フリアエがびくりと肩を跳ねさせる。


「その通り。これは冒険者組合から提供された情報だが……」


 ガラード団長は次のような情報を語った。


 一流の冒険者パーティが、ダンジョンを深く潜った先に、途方もない力を感じる祠を発見した。

 そのパーティには探索魔法に優れた者がいて、祠の先に未知の宝の気配を察知した。

 しかし同時におぞましく強大な敵の気配もあったので、止むを得ず退散した。


「彼らは転移魔法をその地に残したとのこと。我が騎士団の力をもってすれば、祠の攻略も可能であると思い、転移先の鍵を譲り受けたのだ」

「なるほど!」

「なら、そこに神宝を取りに行くまで!」

「おおおおおっ!」


 騎士たちが一斉に盛り上がっている。

 まあ、無尽蔵に魔法が使えるフリアエも一緒なら危険はないだろうし、攻略に行くのは良いことなんじゃないだろうか。

 俺も、また伝説のアーティファクトを拝めるのならこの手で鑑定してみたい気持ちもあるし。


 それにしても、フリアエのアーティファクトを渡すとか、フリアエごと王に差し出すなんて流れにはならなくて良かった。

 見捨てられたくないと弱音を吐いたフリアエのことだ、そんな事になったらきっと傷ついてしまうだろう。


 無事に新たなアーティファクトが見つかるといいな。


「……しかし、懸念もある。我らのみでは、肝心の神宝がどのような代物であるか、見分けられない可能性があるのだ」


 ん?

 完全に他人事を決め込んでいた俺に、団長の強い視線が飛んでくる。


「マリオンどの、未知の宝の気配があるという祠に同行してくれまいか」

「……え?」


 俺、ダンジョンの中はおろか、外観すら生で見たことないんですが。

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