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その4.多忙と休暇

 それからはしばらく、とにかく忙しい日々が続いた。


「マリオン、いつもありがとよ!」

「お前に選んでもらった鎧のおかげで怪我が少なくなったぜ!」

「また頼む! マリオン!」

「マリオン!」


 気づけば俺は屈強な騎士や冒険者たちの間で救世主のような存在になっていた。

 

「つ、つかれた……」


 ありがたいことだが、やる事が多すぎて夜は寝具にぐったり突っ伏し動けなくなることが多い。


 ここ紫の騎士団はダンジョンからのアイテム採取を主に請け負っている騎士団だった。

 そのため持ち込まれるアイテムの量が尋常じゃなく多いのだ。


 紫の騎士団は、ギルドへの輸送を完全に打ち切ったわけではないが、団の運用するアイテムはいま大半が俺の手に委ねられている。


 集められたアイテムの中から効果が優秀なものを選り分け、危険度の高いエリア任務に就いている者から優先的に装備を割り振っていく。

 騎士団で利用しきれない分は、冒険者組合へ譲る。

 呪いや強いデメリット効果を持ったものは教会へ供養をお願いする。


 だいぶ紫の騎士団が得をする仕組みではないかと思うのだが、「俺らがいままで雑に扱われてきた境遇を思えばこれくらい当然っすよ」とのことだった。

 国益のためにアイテムを集める目的で、ダンジョンの危険地帯に命懸けで挑む彼らには今まで十分な装備が保証されていなかったのだ。


 これまで、貴重な装備品は使われることなく貴族のコレクションや財産になっていたり、他国に流れていたりしたらしい。理由はそっちの方が金になるから。

 国を運営するというのは大変なのだろう。資金が必要となればやむを得ないのかもしれない。


 でも現状は、アイテムの流通に関わる資金は年々、ギルド関係者が私腹を肥やすための蓄えとなっているらしいし。


 それにこうしてダンジョンに潜る騎士たちの士気を間近で見て、アツい感謝の言葉に日々触れていると、俺のしていることが彼らの力になっているなら良いかなとも思う。


「とはいえ、最近働きすぎでは……? さすがに休みも欲しい」


 そんな風に思い始めていた頃、俺のもとに訪問者が現れた。


「どうもー、ひさしぶり」

「アシュレイ?」

「すごいじゃんキミ。立派になっちゃって」

「それは……アシュレイのおかげでもあるから」

 

 事実、彼の思いつきがなかったら今の俺の立場は無かっただろう。

 アシュレイは嬉しそうに笑った。

 今日の彼はスリット付きのタイトワンピースに拳法家のようなスパッツと、冒険者に近い装いをしている。結われた髪にはシンプルなリボンが飾られていた。


「今日の装備は敏捷性優先なのか? そのリボンは他の装備の効果を高めるためのものか。アイテムの組み合わせがいいな」

「顔見てすぐ鑑定始まるの怖いんだけど!?」


 しまった。せっかくの休憩時間にもつい鑑定能力を使ってしまうのは仕事馬鹿への一歩になっていないだろうか。


「とにかく、今日は息抜きしようよ。ガラードのおっちゃんにも許可取って来たし」

「え? 許可? なんの?」

「休暇の許可。しっかりと休ませてほしいって逆にこっちが頼まれちゃった」


 休暇!?

 ありがたいサプライズに全身の筋肉がほっと緩む。


「い、いいのか!?」

「もちろーん。ガラードのおっちゃん心配してたよ。たまにはガッツリ休まないと」

「おっちゃん……」


 あの団長のことをおっちゃん呼びとは。

 貴族っていうのは、団長より立場が上なのか? まだまだ謎が多い奴だ。


「じゃあ行こ、道具屋見て服屋見て市場見て、何か食べよ」

「休みとは?」


 休めるなら今の俺はどっちかというと一日中寝てたいんだが。


「いいじゃん、絶対楽しいよ」


 アシュレイに押し切られ、俺たちはパンドレアの中心部に向かったのだった。


 ■


「それでどうなのよ? 最近は」

「いや……とにかく忙しくて……」


 大通りを歩きながら世間話をする。俺は紫の騎士団での仕事をアシュレイに語った。


「すごいじゃん、活躍してて」

「ありがたいけど、さすがに俺一人では無理がある仕事量というか……」

「まあ規模が大きいことをするには、人手は必要だよねえ」


 今は俺一人が団での鑑定を請け負っていて、他に鑑定スキルを持った者がいない。

 鑑定の能力というのは、本人の生まれ持った資質に大きく依存しているから、誰かに教えて将来的な人手を増やしていくといった手段も取りづらいのだ。


「鑑定スキルを持った人が増えれば、ダンジョン攻略ももっと便利になるのにね」

「まあ、簡単に教えられるものでもないから……」

「そうなの? 魔法職には魔導書とかがあるよ。あんな感じに書物からスキル取得出来ないの?」

「そう言われると、鑑定能力も魔法に近いから、仕組み的には出来そうではあるのか?」


 でもどうやって?

 俺は鑑定は出来るけど魔法学についてはさっぱりだぞ。


「ところで、あれから色々鑑定してきたんでしょ? 何か珍しいものとかあった?」

「珍しいものって……例えば? そう言えば前もそんなことを気にしてなかったか?」

「んん、ちょっとね」


 アシュレイは何かを言うのを迷っているようだった。


「そうだ。今日はキミがいるし、普段行けないお店にも行ってみようかな」

「なんの店だ?」

「裏路地の道具屋。ちょっと治安が悪い場所ではあるんだけど、掘り出し物とかあるかもしれないでしょ?」


 大丈夫なんだろうか、そんな場所。万が一絡まれたら俺は何も出来ないんだが。

 まあ道具屋に寄るくらいならそんなに危険なこともないか?


「ふへへ、お嬢ちゃん可愛いじゃねえか」


 なんて思っていたついさっきまでの俺が呑気だった。

 いかにもチンピラといった風貌の男たちが三人、俺たちを取り囲んでいる。


「俺らと遊んでくれよ」

「無理無理。見てわかんないの? デート中だよ」

「デートだあ?」


 アシュレイは軽口を叩きながら俺の腕を引いて、チンピラの集団を通り過ぎようとする。


「そりゃいいや、人の女を奪う方が楽しゴハアアアッ!」

「ボクNTRきらーい」


 アシュレイが見事な蹴りでチンピラの顎先を蹴り上げていた。


「この女! グハアッ!」

「アニキ!? ドワハァッ!」


 残りの二人のチンピラも蹴り技で地面に沈めるアシュレイ。

 ……いやこれ、俺がついてくる必要あったか?

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