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その3.鑑定する

 深くローブを纏い占い師風の姿になった俺は、街ゆく人々を観察していく。


 ダンジョンの街だけあって冒険者は多く、様々な装備を身に着けた人たちが行き交っているが、変わった術式はなかなか感知できない。


 強いて言えばあの宿屋の玄関で掃除をしている少女。

 身に着けているスカートから魔力が漏れている。おそらく、着用者の魔力を奪う装備だが、魔力の漏れが非常にゆっくりすぎて不便を感じないレベルであるほど効果は弱い。

 それでも長い間身に着けていたら魔力疲労を起こすかもしれないし、まずはあの装備を指摘してみようか。


「あの」

「はい、なんでしょうか」

「そのスカートは脱いだほうがいいと思います」


 ……


「殴られた」

「キミはバカなの?」


 遠くから様子を見守ってくれていたアシュレイが冷たい目でこちらを見ている。


「もー最低。次にみっともないことしたらボク帰るからね」

「ごめん。悪かった。あの子にもめちゃくちゃ謝って意図はわかってもらえたし。アイテムの効果は半信半疑だったけどな」

「ん~……まあ、ものは経験、どんどん行ってらっしゃーい」


 そして俺はアイテムの効果が意図せず悪く作用しているような人を選んで声をかけていく。


「あの、あなたは最近くしゃみや皮膚の痒みでお悩みではないでしょうか」

「どうしてわかるんですか!?」

「そして犬を飼っておられますか」

「そ、そうです……!」

「ではそのバンダナは犬の前では使用しないことをお勧めします。おそらくそのアイテムが原因なので」

「おお…!?」


 高い魔力強化効果を持つ代わりに、装備者を犬アレルギーにするバンダナ。


「おーい。起きてくださーい」

「なあんだあ!? 酒のお代わりか?」

「じゃなくて……いいや、ちょっと失礼しますよ」

「うお!? さっきまでの酔いがどっか行ったぞ?」

「このブーツを履いている時は、お酒は飲まない方がいいですよ」


 炎耐性を付与する代わりに泥酔状態が長引きやすくなるブーツ。


 いや、思った以上に不便な効果のアイテム多いな。

 でも発動条件をきちんと把握していれば問題はないから、次からは対処して取り扱えるだろう。


 特に驚いたのは、


「ちょっ……! そこのあなた!」

「な、なんですか!?」

「今すぐペンダントを外してください。爆発しますよ」

「は!?」

「いいから!」

「そう言えばちょっとだけ首元が熱いような……う、うわわわわっ」

「早く!」


 装備して食事を10回行うと爆発するという巧妙な呪いの術式がかけられたペンダントだった。


「は、は、は、外れました」

「ボクに任せて」


 齧りかけの串焼きを取り落とした男が、震える手でペンダントを差し出す。

 背後から飛び出してきたアシュレイがペンダントを奪うと宙に放り投げ、そのままワンピースの裾を翻して空中高くに蹴り上げた。

 美しい蹴り技だった。


 遥か頭上で爆発音が鳴り響き、野次馬が何事かと集まってくる。


 ■


「マリオンどの! この度は誠にありがとうございました!」

「「ありがとうございました!!」」


 目の前で数人の男たちが仁王立ちになって、一斉に拳で己の胸をどんと叩いている。


「いや……そんな大したことは」

「しておりますよ! 我が息子を助けていただいて、一生の感謝を尽くしても尽くしきれません」

「息子さん無事で何よりでした」


 呪いのペンダントから助けた相手は、どうやら有力な騎士一族の息子だったらしい。

 あの爆発の後、あっという間に噂は街中を駆け巡って、気づけばこうして彼らの夕食の席に呼ばれていた。


 ちなみにアシュレイは「門限があるから今日は帰るね! 楽しかった!」と笑顔で去っていったためこの場にはいない。


 それにしてもアシュレイの時といい騎士の息子といい、呪いのアイテムが結構世の中に出回ってることが怖いんだが。


「あなたがいなければ、息子は何が何だかわからないまま命を落としていたでしょう。しかし呪いのペンダントとは……」

「許せませんね、団長。ギルドの嫌がらせもここまで来るとは!」

「何ですって? ギルドの?」

「あ、いや失礼。こら、客人の前だぞ」


 口を滑らせたらしい若い騎士の男を、団長と呼ばれた壮年の騎士が一喝する。


「大丈夫ですよ。俺はギルドの鑑定士ではないので」

「なんと……そんなに素晴らしいお力を持っておられるのに?」

「はい。試験を受けるためにこの街に来たばかりですが、ギルドの悪い噂を聞いてしまって少し迷っていたところだったんです」


 迷うもなにもギルド側は既に俺を失格にしているんだけど。


「左様でございましたか。これは……素晴らしい巡り合わせなのかもしれませぬ」

「え?」

「マリオンどの、よろしければ我々のためにそのお力を貸していただけませんか」


 壮年の騎士は威厳のある眼差しで俺を見た。


「私は紫の騎士団長ガラード。現鑑定士ギルドの体制に異を唱える国民の一人です」

「異を唱える……って。もしかして粛清運動の!?」

「そんなところまで噂になっていたのですか」


 食卓に集まっている若い騎士たちがざわざわと騒ぎ出した。


「みな静まっておれ。誤解のないように言っておくが、粛清は我らの本意ではない」

「でも団長!」

「ギルドの横暴を許しちゃおけませんよ!」

「あの守銭奴集団め!」

「国の敵だ!」

「そうだそうだ!」

「静まっておれと言うのに」


 中でも特に若そうな騎士が、飲み干したジョッキで勢いよくテーブルを叩いた。


「俺たちにとってアイテムは戦いでの生死を分ける大事なものっす。それをギルドは独り占めして、自分たちにだけ都合のいいように売り捌くことしか考えてない。戦う俺らのことは何もわかってないんすよ」


 剥き出しの腕には生々しい傷跡があり、彼が置かれている戦いの激しさを窺い知ることができた。


「うむ……このように、我ら紫の騎士団と、それにほとんどの冒険者組合の間で鑑定士ギルドに対する不満は日々高まっておるのです」


 なんか、厄介なタイミングで鑑定士になりたいなんて思っちゃったな。

 どのみち鑑定以外に何の取り柄もない俺は、この力一本でやっていくしかないんだけども。


「そこでマリオンどのにお願いしたい」

「はい!?」

「彼らの不満を解消するために、我が団で鑑定の任を請け負ってくれませんか」

「えっと……それはどういう」

「彼らの持ち込むアイテムを鑑定していただくだけで構いません。もちろん鑑定料に加え、必要とあらば団舎に部屋と食事を用意させます」


 衣食住完備の鑑定の仕事!?

 しかも騎士団の庇護付きという、破格の待遇なんじゃないかこれ。


「俺でいいんですか」

「マリオンどのの実力を疑うことはございません。息子の無事がその証明です」

「我ら紫の騎士団は、実力こそが全てっすからね!」


 なぜか視界の端で若い騎士がドヤ顔をしているがそれは置いといて。

 

「団員や冒険者らはギルドを毛嫌いしております。そのため、出来るなら団専属の鑑定士を置きたい。しかし、我らの任を受ければギルドを敵に回すことになりますし、鑑定士としてもギルドに所属していた方がメリットは大きいため、これまでご縁を見つけられずにおりました」

「なるほど……」

「鑑定士のあなたにこの国で鑑定士ギルドを敵に回せなどと、勝手な事を申しているのは承知しております。しかし、どうか検討していただけませんか」

「はい。いいですよ」

「なんと……! ありがたい。検討していただけると?」

「というか。決めました。やります。鑑定」


 俺が即答すると食卓は一瞬静まり返った。


「うおおおお!」

「俺たちに専属の鑑定士がつくんだ!」

「これで嫌々ギルドの連中に頼まなくてもよくなるぞ!」

「期待してるぜ、メガネの兄ちゃん!」

「静まれお前たち。いやしかし……本当にいま決断してよろしいのですか」

「はい。精いっぱい務めさせていただきます」


 考える間に、俺の頭には街に来てから出会った人たちの顔が浮かんでいた。

 イヤミなギルドの試験官。気が強くて謎めいているけど、俺の鑑定の力に自信をつけさせてくれたアシュレイ。

 そして、俺の能力を信じてくれたガラード団長。と、専属の鑑定士に期待してくれている騒がしい部下の騎士たち。

 どちらに味方したいと思うかは明白だった。

読んで頂きありがとうございます。

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