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その2.評判を知る

 結論から言って、翌日はギルドに辿り着けなかった。


「よっ。こないだはどうも」

「……ああ! 呪いのリボンの少年か」


 ギルドへと向かう道中、待ち伏せされていたからだ。

 昨日見たばかりのその顔を思い出すまでに少しの沈黙があったのは、早くギルドの試験にリベンジしたいという気持ちで頭がいっぱいになっていたからだった。


「なにそれ、可愛くない覚え方だなあ。かわいいリボンのアシュレイ様とか、もっとあるじゃん」

「リボン……今日のリボンは魔力増幅の効果があるんだな。特に強化魔法に更なるバフがかかりそうだ。品質も申し分ないし貴重なアイテムなんだろう」

「そうだけど、怖い怖い。そこまで人の身に着けてる物まじまじ見る? しかもめっちゃ当たってるし」


 当たってるのか。やっぱり俺の鑑定は間違ってないんだなとちょっと嬉しい。


「まあ、鑑定士だから」

「鑑定士ってみんなこうなの……?」

「ところで、どうしてこんなところに?」


 アシュレイはにっこりと笑った。

 今日はいかにも令嬢というドレスではなく、簡素なマスタード色のワンピースと同色のリボンで装っている。

 男性と言われなければ品のいい町娘に見える。


 そんな彼が俺に何の用かと不思議に思っていると、一通の封筒が手渡された。


「昨日、お礼言いそびれたじゃん。助けてもらって何もしないだなんてボクの貴族としてのプライドが傷つくの。受け取って」

「中身……お金じゃないか」

「うん。助けてくれたお礼」


 見返りを気にして助けたわけではないとはいえ、物理的なお礼はやっぱり嬉しい。


「ありがとう。大事に生活費に充てさせてもらうよ……って貴族?」

「なに? 今さら?」

「いや……年下だと思ってつい敬語を使ってなかったなって……」

 

 村では年上には敬語、それ以外には砕けた口調というシンプルな使い分けだったし。

 貴族という身分に馴染みがないのもあって何も考えず喋ってしまっていた。


「好きに喋ったらいいよ。べつに喋り方で話す内容までは変わんないでしょ」

「ならこのままでいいか」

「即決されるとそれはそれで複雑」


 アシュレイはむうっと眉をひそめた。が、すぐにふっと表情を緩める。


「とにかく、昨日はありがとね。それと……キミは珍しいアイテムを見る機会って多かったりする?」

「いや……俺は最近この街に引っ越してきたばかりで。珍しいアイテムがどうかしたのか?」

「ううん。ちょっと探し物をね。気にしないで」

「そうか、なら俺は行くよ。鑑定士ギルドの試験を受けないといけないんだ」


 失格になったばかりです、とは、なんとなく体裁が悪くて言えなかった。


「鑑定士ギルド? あー……あそこはあんまり評判がね……」

「え? 国営の組織だろ?」

「そうなんだけどね……」


 鑑定士ギルドの話が出た途端、歯切れが悪くなるアシュレイ。

 なんだ? 気になるじゃないか。


「どんな評判があるんだ? 教えてくれ、アシュレイ」

「うーん……せっかくの若者の熱意を削ぐのは心苦しいんだけど」


 年下の子供が何か言ってるぞ。


「仕方ないからアシュレイ先生の『パンドレア王国アイテム事業講座』、始めますよ~」


 アシュレイは近くにあったベンチに腰を下ろした。俺もその隣に移動しアシュレイが話すのに耳を傾ける。


「まず、パンドレア王国には入るたびに構造を変える神秘のダンジョンがあります」


 パンドレアは小さな国だが、南側の領地に広大なダンジョンを有している。

 ダンジョンからは未知のアイテムが冒険者の手で日々採取され、その資源によってパンドレアの経済や文化は成り立っているという。


「でね、このアイテムっていうのが、ダンジョンから拾った時点ではまったく効果が未知なわけ」

「そこで鑑定の出番か」

「そうそう。国営の鑑定士ギルド発行の鑑定書があって、はじめてアイテムは流通が可能になる」

「というと?」

「要はギルドを通さないと拾ったアイテム売ったり買ったりできないってこと」


 なるほど。

 よくわからないけど、なんか不便そうじゃないか?


「自分で鑑定できたら別だけど、鑑定スキル持ってる冒険者って滅多にいないし。詳しい鑑定はどうしてもプロに頼む必要がある。適当に使ったら呪われました、じゃ洒落にならないし」

「ふんふん」

「でね、そんな限られた立場だから、鑑定士ギルドはどんどん力持っちゃってね……貴族とかも抱き込んで、鑑定の手数料をどんどん吊り上げてるから、冒険者とか商人たちのヒンシュクを買ってるって状況」


 命懸けでダンジョンに潜ってアイテムを手に入れるのは冒険者なのにな。

 鑑定士の方が立場が強いのか。


「だからね、過激な冒険者の間で……ギルドへの粛清運動が計画されてるとかの噂も聞いたかな」


 さらっと物騒なことを聞いてしまった。

 俺はそんな恨まれてる組織に所属しようとしてたのか?


「状況はわかったけど……でも現状、鑑定士としてやっていくにはギルドに認定されなきゃいけないだろ?」

「そうやってギルドが鑑定士を独占するから現状が出来たとも言えるねえ」


 アシュレイは勢いよく立ち上がった。


「それでね、ボク思ったんだよね。ギルドの駒なんかになるより、キミがもっと活躍できる方法」

「それはなんだ?」

「ボクにしてくれたこと、あれをやりまくったらいいんだよ」


 ん?

 通りすがりにアイテムの効果を見て助けたことを言ってるのか?


「変な効果を持ってるアイテムを、知らずに身に着けてる人を助けるの。そのアイテムをつけてたら不幸になるぞ! とか言って」

「いやそれ、一歩間違えたら不審者にならないか?」

「なんで? 悪意があってやってるわけじゃないじゃん」


 善意だとしても押し売りしたらそれは厄介な奴認定されるだろ。


「だーいじょうぶ。街ではフツーだから」

「そうなのか?」

「うん。むしろトレンド。かっけえかっけえ」


 そう言われたら村出身の俺としては弱い。


「ならやってみるか!」

「焚きつけておいてなんだけど、キミはもう少し周りを疑おうよ……」

「なんだ?」

「ううん、なんでも」


 そしてアシュレイは、こういうのは形からだよねとか何とか言って預言者風のローブを買ってくれた。

 重たい布の塊で、特に特殊効果はなさそうだ。でも雰囲気出てていいな。

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