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その18.その後、パンドレア王国の人々

――元・勇者第一候補メイユールと勇者ソニア――


 辺境の村に、一人の少女が訪れる。


「メイユール。元気そうじゃない」

「あら? ソニアさん?」

「っていうかあなたね、ちょっと目立ち過ぎじゃない!? 王都に行ったらこの村の噂で持ち切りだったんだけど」

「ふふ、大丈夫ですよ。今のわたしは謎の農家Xですから。それよりソニアさんが、どうしてここへ?」

「……あんたの作った野菜を食べてみたくなったの」

「うれしい! ちょうど自信作があるんです。このおいもは村でも大好評で……」


 楽しげに野菜を取り出すメイユールに、ソニアの顔にも微笑みが浮かぶ。


「ふふ。あんた、変わったね」

「そうですか? 日々、農業に用心棒にと、意外と身体が鈍る暇もないですよ」

「ふうん。じゃあ久々に手合わせしてみる?」

「望むところです!」


 ……


「……ッはあ、は……ギリ勝てた……」

「さ、さすが勇者様、お強い、です……くやしい……」

「あんたねえ……鈍ってないにも程ってモンがあるでしょうが……」


 満身創痍で寝転がる二人の視線がぶつかる。


「……そういえば」

「?」

「髪型。変えたのですね。もしかして、わたしとお揃いですか?」

「た……たまたま被っただけだからッッ!!」



 ―王家の秘宝・グルヴェイグと第二王女ヴェルヴェット


 浮遊する魔弾を、少女が必死に躱している。


「ほらほら、この程度の攻撃も避けられないでどうするのじゃ」

「し、ぬっ、しぬって……ば……!!」

「……ふむ。成長を考えれば上出来かの。ようやった、ヴェルヴェット」


 地面に倒れ伏したヴェルヴェットが勢いよく吼える。


「あたしは! 何度も言ってるけど! 王女に武力とか魔力とか要らないからっ!」

「力だけでなく、おぬしには王族としてあらゆる素質が欠けておるでのう……」

「くっ……! 絶っっ対この旅から逃げ出して、パパの縁談なんかアテにせずにイケメン捕まえて溺愛されて困るくらいの愛され生活してやるんだから……!」


 グルヴェイグはふと首を傾げる。


「しかし、おぬしが度々言う、いけめんとは何なのじゃ?」

「今まで知らなかったの!? イケメンっていうのは顔が良くて性格も良くて近くにいるだけで元気が湧いてくる男のこと!」

「男のことじゃったか。性別で認識が変わるとは人間とは不思議よのう。……ほれ、こういう事か?」


 グルヴェイグがパチンと指を鳴らす。

 そこには凛々しい男性の姿をした精霊が浮かんでいた。


「姿など、わらわにとっては可変だというのに。まこと人間は分からん」

「えっ…………ええ~~~~っっ!!??」



――紫の騎士団、団長ガラードと若騎士ジーク――


 団舎の一室で、騎士たちが寛いでいる。


「は~~……平和っすねえ……あ、団長も休憩っすか?」

「ああ、少し食事を取りにな。それにしても、騎士とは思えぬ気の緩みよ……」

「すいませんす! でもここ、騎士以外も所属してるから、もうゲンミツには騎士団じゃなくないすか?」

「ふは、そこを突いてくるか。昔は色々な冒険者がいたのだよ」

「昔?」

「ああ。王から騎士の名誉を授かるより、ずっと昔のことだ」


 ガラード団長は懐かしげに瞳を細めた。


「……あの頃の私は無茶をして色々なものを失った。若い世代には、私のような痛みを通ってほしくはない」

「ん? なんて言いました、団長?」

「気にするな、ただの独り言だ」

「承知っす! ……そうだ! 団長聞いてくださいよ、マリオンさんにか、か、彼女が出来たかもしれないっす……!」

「本当だろうか? ジークの話は早とちりが多いのでな……」

「本当だと思うっす~~! よく一緒にいるみたいだし! オレもどうしたら彼女できますかね? 団長は奥さんとどうやって出会ったんすか~~っ!?」

「……休憩時間は終わりだぞ、ジーク」



――魔帝フリアエと闇道具屋――


 少女が控えめに鼻歌を歌いながら、店内の掃除をしている。


「ただいま帰ったぞーー! フリアエ!」

「え……店主? 帰ったの?」

「はは、今はお前が店主だろ? それよりなんだよ、旅から帰ったらアタシの可愛い店が休業中って! 寂しいじゃんか!」

「それは、最近、忙しくしてた……から」

「んん? そうなのか?」


 店内に入って来た女性はまじまじとフリアエを見る。


「でも確かに、なんか前に見た時より顔色よくなった気がするな! いい事でもあったのか?」

「いい事……は、いっぱいあった」

「お、なんだなんだその笑顔は~! 旅の土産話はあとだ、先にそっちを聞かせてくれよ」

「わたし、掃除中……」

「助かる~! って、それは後でアタシもやるから! お喋りが先だよ。美味いお茶とかお菓子とか、いっぱいあるぞ」

「お茶、お菓子……なら、」


 フリアエは腕輪に視線を落とすと、柔らかく微笑んだ。


「一緒に食べたい人たちがいるの。今度、声をかけてもいいと思う?」



――冒険者見習いアシュレイと治療師ローワン――


 狭い治療室にて、二人の人影が言い争っている。


「ローワン先生サイテー! ボクが買ってきた焼き菓子、勝手に全部食べるなんて!」

「食ったらダメなもんなら自分の部屋に置いとけって。目につくとこにあったら食うだろ」

「ホント最低!」

「悪かったよ。代わりに今度なんか美味いもん買ってくる」

「ローワン先生、食に興味ないから買ってくるもののセンス独特すぎるんだよお……」


 アシュレイはむっと頬を膨らませた。


「これで先生に貸し100個くらい溜まったんじゃない?」

「ふ、大天才ローワン様の治療受け放題だな」

「大怪我しないように気をつけまーす」


 ふっと表情を変えて、アシュレイは呟く。


「まあ、真面目に先生の治療受けるとしたら……好きな人が女の子を好きだったら考えよっかなー」

「本当か!? 私以外の実験体……じゃなくて被験者、じゃないサンプルならいつでも歓迎だぞ」

「全部同じ意味じゃん。半分冗談なのに、そんなグイグイ来られたら怖い怖い」


 そう言いつつもすっかり機嫌を直して笑顔を浮かべながら、口には出さずにそっと考える。

 

 あの人、どんな人が好きなんだろうね?



――鑑定士マリオン――


 俺は久々に裏通りの闇道具屋を訪れていた。

 フリアエからお茶とお菓子を取りに来てほしいと声がかかったので、ありがたくいただくことにしたのだった。


 闇道具屋に着いたら、フリアエに店を譲った前店主がいて驚いた。

 軽く挨拶をして、珍しい食べ物の詰まった荷物を受け取って店をあとにする。


 フリアエと他愛ない話をしながら、目的地へ向かう。


 豊かな街並みの中心地には新鑑定士ギルドの建物が聳え立っている。

 晴天の下、遥か遠くに王城が見える。視界の先は果てなく、どこまでも広がっていた。

 俺はこの街で鑑定士として生きていく。きっとこれからも色々な出来事を経験しながら。



 寂れた治療院の看板の前で立ち止まる。

 ノックをすると、扉が勢いよく開いた。


 飛び出して来る明るい歓迎の声を聞きながら、彼と同じ表情で笑っていた。



 <完>

ここまでお読みいただきありがとうございます。


力不足のため本来予定していた文字数を書ききれず、ここでエピローグといたします。

読んで頂いた方には感謝と申し訳ない気持ちでいっぱいです。

本作のキャラクター達はとても好きなのでまたいつか番外編を書く機会や、もしくは次作を書くモチベーションがあれば、反省を踏まえて創作したいです。

ここまでお付き合いいただきましたこと、あらためてお礼申し上げます。

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