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その13.夜の街へ

「……という訳でフリアエさん、魔法で人探しって出来ませんか?」


 アシュレイの行方が知れなくなっている事について、俺はフリアエに相談することにした。


「それは……難しいかも」

「ダンジョンで俺がはぐれた時、見つけてくれましたよね」

「あれは、あなたの特殊なスキルや、ダンジョンの特殊な地形、他にも色々な要因が噛み合って特定出来たこと。どこにいるかもわからない、一度しか面識のない子を探すとなると……厳しい」


 フリアエが申し訳なさそうに俯く。


「じゃあ、勇者の第一候補と呼ばれていた人はどうでしょうか? 彼女もアシュレイと一緒にいたって噂があって……」

「一度も会ったことのない人は、もっと難しい」

「そうなんですね……」

「力になれなくてごめんなさい。その子のこと、心配?」


 アシュレイは俺にとって、今の生活に導いてくれた恩人のような相手だ。

 そんな彼が何か大変なことに巻き込まれていたらと思うと。


「心配です、俺に出来ることは少ないってわかってはいるんですが」

「マリオンには、皆がいる。わたしも、いる」

「え?」

「頼られてうれしい。わたしに出来ることがないか、考えてみる」

「フリアエさん、ありがとうございます」

「うーん……せめて魔力の痕跡とか、やっぱり何か手がかりは必要」


 手がかりか。

 こういう時はやっぱり足を使って探すんだろうな。


「目撃証言があった場所に行ってみたいと思うんですが、その……こんな時間ですが、ついて来てくれますか?」

「わかった。じゃあ団長に二人分の外出許可を取ってくる」


 そう言ってすぐ行動するフリアエが頼もしい。

 フリアエのおかげか、許可はスムーズに出たので俺たちは夜の大通りを歩く。

 市場はしんと静まり返っているが、酒場通りは賑やかだ。


 月明りを浴びながら、フリアエはぽつりと言った。


「マリオンは、わたしのことを怖がらないんだね」

「怖い? どうしてですか」

「やっぱり街を歩いてると、わたしのこと、バケモノって言う人もいる」

「……酷いこと言う奴もいますね。知らない人の言うことなんて気にすることないですよ」

「わたしも、最初はそう思った。……でも」


 フリアエの声が小さくなる。


「もしかしたら、騎士団のみんなにも怖がられてるのかも」

「ええ!? そんな事ないですよ」

「でも……ジークってひとに、この前すごく怯えられて避けられたような気がする」


 言われて思い当たる。アシュレイが確かこんなことを言っていた。


『キミの留守中にお友達に会ったよ! 彼、女性と話すのが苦手みたいであわあわしてて面白かった』


 なら原因はそれだろう。


「あいつは女性と話すと緊張しちゃうだけです。フリアエさんのせいじゃないですよ」

「……そうなの? だったら、良かった」

「フリアエさん、通りすがりのやな奴らの言葉なんて忘れて……って難しいことかもしれないですけど、とにかく俺は怖いなんて全然思いませんから」

「ありがとう、マリオン。……そう言ってくれて、安心する」


 フリアエはほっと胸を撫で下ろした。


「アーティファクトの所持者になったこと、後悔してます?」

「ううん。そういうわけじゃない。ただ……いっぱい魔法を使えたら、強くなれたら、意味のある何者かになれると思ってた。でも、実際には、みんなに怖がられるだけなのかもって。怖くなった」

「うーん……怖い、って悪い意味だけじゃないと思います」

「どうして?」

「畏敬とかって言うじゃないですか。怖さ混じりの尊敬って感じで、フリアエさんが凄いからこそ、みんなあなたに色んな感情を抱くんだと思います。たぶん」

「……そっか」

「フリアエさんが意味のない存在なんてこと、ないですよ」


 フリアエの唇にかすかに微笑が浮かんだ。


 魔帝と呼ばれるその人は、すごく天才で涼しい顔をしてるけど、本当は繊細で自分に自信がない人なのかな、と思った。


「何より、いつも俺を助けてくれていますし。こうして今も。ありがとうございます」

「……そう言ってくれるあなただから、助けたくなる」


 その横顔は、今度ははっきりと笑みを浮かべていた。


「ん、あの道です。アシュレイと第一候補らしき人の目撃があったのは」


 話しているうちに、目的地に着いたようだ。

 その道はダンジョンと宿屋通りを繋ぐメインルートに繋がる道だった。


「わかった。この辺りを探してみる」

「手分けしましょう」


 何か手がかりが残っていないかと辺りを探索してみる。

 捨てられた空き瓶、靴紐の片方、無数の枯れ葉。

 落ちているものはどれも関係なさそうだが……。


「……リボンだ」


 木の看板から飛び出た釘に、細長い布が引っかかっていた。


「マリオン、魔法の痕跡が見つかった」

「こっちも収穫ありです」


 駆け寄ってくるフリアエと合流する。


「それは?」

「リボンです。これだけで持ち主を特定できるわけじゃないですが……アシュレイは身体強化のリボンを好んで身に着けていたから、可能性はありそうです」

「こっちも、術者はわからないけど……あっちの壁に、近くで回復魔法が放たれた痕跡があった」


 言われて壁を見るが、薄汚れた壁だなと思うだけで全然わからない。

 さすが魔術師だ。


「わたしも、それが身体強化のリボンだって全然わからない。おあいこ」


 フリアエはかすかに口角を上げた。


「それじゃ、同じ術者の魔法の痕跡が近くにないか、探知してみる」

「そんな事ができるんですか!?」

「……アーティファクトのおかげ」


 いや、フリアエが身に着けているアーティファクトはあくまで魔力を無尽蔵にするもの。

 魔法の技術に関してはフリアエ自身が凄いってことになるんだが……。


天網恢恢魔力捜査網(サーチ・フィールド)


 途端、フリアエを中心に、周囲に結界のような魔力波が流れ出す。


「……あった」

「本当ですか!」

「道の向こうへ続いてる。ついてきて」


 そして俺たちはフリアエの辿る魔力の痕跡を頼りに、一軒の建物へと辿り着いた。


「ここって……治療院?」

「にしては、ボロボロですけどね……」


 治療院とは、一般的な回復魔法で治療できない症状の人たちを診る専門の場所だ。

 かろうじて治療院と識別できる看板の文字は剥げていた。

 もし自分が怪我人だったら、絶対ここは選ばないだろうなという外観だった。


「回復魔法の痕跡に、治療院……怪我でもしてるのか?」

「とにかく訪ねてみよう。明かりがついてる」


 錆びた鉄のドアをノックしようとした時、ガチャリと中から音が聞こえた。

 おそらく鍵の解錠される音だった。


「キミたち……なんでここに」


 ドアが開いて、中にいた人物が驚きの表情を浮かべている。

 それはこちらの台詞だと言いたいのを堪え、問いかける。


「無事か、アシュレイ!?」

「う、うん……」


 中から出てきたのは、浮かない表情をしたアシュレイだった。


「探したぞ、何があったんだ?」

「探した? ボクを?」


 どうしてそんなに意外そうな顔をするんだ。まるで自分を探すものなど居ないと、本気で思っているような表情だった。


「心配をかけたなら、ごめんなさい……お詫びに、ボクに答えられることは全部話すよ」

「そうしてくれ。入ってもいいか?」

「うん。ここはボクが昔からお世話になってる場所なんだ」


 聞きたいことや知りたいことは山ほどあった。


「……マリオン。さっきの回復魔法の術者、この子」


 フリアエが隣で囁く。

 アシュレイが回復魔法を使いながらここまで来たのか? 何のために?


「怪我をしてるのか?」

「ううん、ボクは大丈夫。ある人を助けようと思って、それで……」

「ある人?」

「元、勇者第一候補だって名乗ってた。彼女はいま、ここで治療をしてるよ」

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