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幕間1.マリオンとアシュレイ、花舞う祝祭にて

前回のエピローグ~新章までのおまけ的な小話です。

「キャアーーッ!!」

「な、なんだ!?」


 女性の叫び声が大通りに響いた。

 パンドレアの街は現在、祝祭の期間で、大通りは普段以上の賑わいを見せていた。


「ど、泥棒よ! 派手なマントの男がわたくしの宝石を奪って逃げましたわ!」

「あいつだ……! 待て!」

「くそ! 捕まるかよ!」


 どよめく群衆の間を掻き分けて、派手な赤色のマントの男が逃げる。

 男を捕まえようと、何人かの冒険者が大通りから飛び出して後を追う。

 しかし、男は容赦なく爆発魔法を使った。


「うああっ!?」


 低威力の魔法で被害は少なかったが、冒険者たちは軽く背後に吹き飛ばされる。

 騒ぐ群衆の中から、続いて一人の人物が飛び出した。

 花飾りのついたリボンを靡かせ、ドレスの間から鋭く蹴り出した脚で男を止めようとする。


「破あっ!」

「ち……っ!」

「んあー、避けられたかあ」


 間一髪で蹴りを避けた男はもつれるようにして隣の路地へ身を隠した。


「追うよマリオン!」

「待てって、アシュレイ」


 後を追いかけるのは花のドレスで着飾った人物と深くローブを被った人物だった。 


「行き止まりだ、酒場しかないよ」

「なら、酒場を探してみるか」


 二人が酒場に足を踏み入れると、そこは多くの客で混雑していた。

 

「あらら……お祭りだからいっぱい人がいるよ」

「大丈夫、わかると思う」

「ほんと?」


 ローブの人物、マリオンは迷わずに一人の人物を指差した。

 それは長テーブル席の端に座った男だった。


「え、ほんとにあの人? さっき見た泥棒は金髪に赤のマントだったけど、あの人は全然違うよ?」

「確かにそうだけど、逆にそれ以外の装飾品は全て同じなんだ」

「え?」

「イヤリング、ベルト、ブーツ……その他にも。泥棒の男がつけていた物と同一の品を、あの男は付けている。たまたま同じ効果のアイテムの組み合わせを装備している男……という可能性もあるが、確率的にそんな偶然は少ないだろうな」

「……それ、やっぱり『鑑定』でわかったの?」

「ああ。逃げる泥棒の身に着けているものと、酒場にいる全員の装備を鑑定した」

「さらっと言うけど普通は一瞬でそんな事できないんだよなあ……」


 花飾りのドレスの人物、アシュレイは珍しいものを見る目つきで肩をすくめた。

 そして真っ直ぐに指摘された人物のもとへと歩いていく。


「お、おまえ!?」

「さっきはボクの蹴りを躱してくれて、どーも」

「な……うそだ、変装を解いたのに、なぜ、こんなに大勢の中から俺がわかった!?」

「なんでだろうねえ」


 アシュレイははぐらかすように笑みを浮かべ、マリオンを誇らしげに見た。


「殴られてから警備隊のとこに突き出されるのと、大人しく警備隊のとこまでお散歩するの、どっちがいい?」

「舐めやがって!」


 今にも飛びかかりそうな勢いで立ち上がった男の頬をアシュレイが平手打ちする。


「ぐえっ!?」


 男はあっさり床に尻もちをつく。

 テーブルにいた周りの客たちが、なんだなんだと距離を取る。


「ち……ちくしょう! あのバケモノが悪いんだ! あいつさえパーティに戻ってきていれば、俺がこんな惨めな生活をすることはなかったんだ!」

「バケモノ……?」

「今は魔帝とか言われてチヤホヤされてる女だよ!」


 マリオンとアシュレイが顔を見合わせる。

 男が恨み言をぶつけている相手は、二人の共通の知り合いだった。


「フリアエさん、最悪なパーティにいたんだな……」

「縁が切れて良かったよね、ほんと」

「何をごちゃごちゃ言ってやがる!」


 立ち上がって捨て身で突っ込んでくる男の肩へ、アシュレイはひらりと飛び乗る。

 そのまま肩を蹴り上げて背後へ移動し着地した。男はバランスを崩し、進行方向へ向かってたたらを踏んだ。


 アシュレイの全身が淡く光る。身体強化魔法の光だった。

 ドレスの裾を翻して大きく前に踏み込んだかと思えば、いきり立って振り向こうとしている男の脇腹を勢いよく蹴り上げた。


 情けない呻き声を上げて酒場の床に倒れ込む男を見た客たちが、わらわらと集まってくる。

 男の胸元から転がり出た宝石の箱を拾い上げて、アシュレイは野次馬に向かって微笑みを作った。


「この人泥棒だよ、警備の人呼んでくれる?」

 

 ■


「いやー、しかしキミといると刺激的なことばっかり起きるねえ。さすが革命児」

「褒められてるのかそれは……? できれば祝祭の期間は団舎に閉じこもってたいんだが……」

「えー、お祭りを満喫しないのはもったいないじゃん。まだまだ遊ぶよ」

「……これ以上事件に巻き込まれないことを祈っとく」


 軽やかな足取りの後を、満更でもない歩調が追う。

 そして二人は賑やかな大通りへと戻っていくのであった。

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