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その11.新しい時代

 ダンジョンから戻った翌日。

 俺は王様と対面していた。


「鑑定士の少年よ」

「はい……」


 謁見の間に呼ばれ、いざ王様が来ると緊張感が尋常じゃない。

 と言うかなんで俺が一人で呼ばれることになったんだ!?

 城までついてきてくれた団長は、先に別室に呼ばれて行ったし。


「其方が第二王女ヴェルヴェットと共に、王家の宝を目覚めさせたと申すか」

「はい、その……行きがかり上というか」


 国の王を努めるだけあって、目の前の人物は堂々たる威厳を放っていた。

 そんな相手に回答するのは本当に緊張する。

 俺が怖々と口を開くと王様は柔らかく笑った。


「我が愚女が、世話をかけたな。宝へと至るには、少年の善意と協力がなければ成し得ぬことだったというではないか」

「あ、え、はい……」

「王家の宝、グルヴェイグが目覚めるのは実に二百年ぶりとのことだ。その時代を知る者はもう居らず、儂も伝説のように捉えていた」


 あの精霊、そんなに貴重な存在だったのか。


「実に目出度い。彼女が目覚める王の代は栄えるとの言い伝えがあるのだ」

「そ、そうなんですか?」

「少年、グルヴェイグが城に現れた時の我らの擾乱ぶりを、お前にも見せてやりたかったぞ」


 そう言って王様が豪快に笑ったので、俺は呆気に取られた。


「祭りだ祭りだ。グルヴェイグの顕現を祝して、祝祭の儀を執り行う事とする」


 当のグルヴェイグは王女と武者修行行くとか行ってなかったっけ……。

 祭られる精霊不在だけどいいのか、それは。


「それにしても少年よ、其方は鑑定士の素質を持ちながら随分と謙虚なのだな」

「え?」

「鑑定士という者は、生まれながらの才を盾に、傲慢に振る舞う者ばかりと思っていた。儂は鑑定士の在り方を見直したぞ」

「えっと、それは……ギルドの事でしょうか?」


 この国の鑑定士ギルドの評判の悪さは散々耳にしていた。


「まさにそれよ。鑑定の力無くしてダンジョン事業は成り立たぬのを良い事に、鑑定士共は年々つけ上がり、遂には貴族と結託して政治に口を出す始末」


 それは……大変だな。極端な話、鑑定士ギルドが鑑定をボイコットしたらこの国のアイテム事業は終わっちゃうかもしれないもんな……。


「しかし、其方がギルドの外から暴れ回って、この王都の流通を大いに引っ掻き回してくれた」

「それ……って。駄目なことだったでしょうか……まさか罪に問われるとか」

「とんでもないことよ! いや清々しい!」


 王様はまた豪快に笑った。


「鑑定士共をつけ上がらせてしまったのは、我が乱政の致すところ。しかし、其方によって救いの手が差し伸べられた」

「え? 救い? 俺がですか!?」

「グルヴェイグの復活の立役者となった其方を、新しく設立する鑑定士機関の要としたい」


 は!?

 待ってくれ。理解が追い付かない。

 国営の新しい鑑定士組織の重要な役割を、俺が!!??


「ちょ、ちょっ、ちょっと待ってください!!」

「どうした。今さら謙遜するか」

「いえ、そういうことではなく……! 無理とかそういうのを置いといても、鑑定士機関を新しくしても、根本的には変わらないと思うんですが!」

「……ほう。どういった意図でそのようなことを?」


 お……王様に反論とか、何をやってるんだ俺は!?

 でも、ここまで来たら思っている事を言うしかない。


 現在進行形で暗殺もされかけてるし、ダンジョンで行方不明にもなりかけた。

 村を出た時より、少しだけ怖いもの知らずになっているのかもしれない。


「俺だって、急にそんな役職に就いたら、つけ上がっちゃうかもしれません! 同じことの繰り返しになっちゃいます!」

「そうはならぬよう、其方は王宮で我らが管理する」


 まさかの王宮飼い殺しルート。

 悪くはない未来なのかもしれないけど、それよりも他に思いつくことがあった。

 そもそもそんなルート、俺プレッシャーで潰れちゃうだろうし。

 

「それよりも、誰でも鑑定が出来るようになれば良いんです。鑑定スキルを、魔導書から習得できるようにするとか、そういう方法で。そうすれば鑑定士だけが権力を独占するなんて、なくなるはずです」

「……其方は……何を言っておるのだ?」


 王は長らくの沈黙の後、口を開いた。


「知は独占して当然のもの。それを其方は……誰もが鑑定を出来るようにする、だと?」

「そうなればいいと……思いました」

「そのような世界が実現すれば、其方の才は特異性を失うのだぞ? 鑑定が出来ることは其方の専売特許ではなくなるのだ。それが分かった上で、申しておるのか?」


 人より鑑定が出来るという取り柄を失えば、俺は何も出来ない存在だ。

 だからといって、たった一人で力を抱えてこの先の人生を生きていけるほど、肝が据わってもいない。


 俺は己の未来を想像した。

 ひとつは、王宮に召し抱えられ、鑑定の力を振るいながら一生を国のために捧げる未来。


 もうひとつは、誰もが鑑定が出来るようになった世界で、騎士団のみんなと飯を食ったり、たまにやって来るアシュレイと散歩したり。

 そんなのんびりした未来のイメージが、なぜか鮮明に思い浮かんだ。


「……鑑定スキルの魔導書とやらを、其方は用意できるのか」

「はい!?」

「そのような酔狂に付き合う高位魔導士は、我が国には居ない」

「……それって、もし俺が鑑定スキルの魔導書を作れたら、流通を認めてくれるって事ですか」

「いや。物事には段階があるのだ」


 王はふと、悪戯っぽく笑った。


「そうだな……もしそのような本が数十冊ほどあれば、儂に従順な部下にスキルを取得させ、新たな鑑定士機関の人員にするのも悪くないかもしれぬな」


 食えない王様だ。俺は頑張りますと答えてこの日の謁見はお開きとなった。





 さて、その後の王都のお話。

 まず王宮から祝祭の告示が出て、街中は驚きと興奮で湧き返った。


 それからさほど時間をおかずに、ギルドに寄生して希少なアイテムや鑑定手数料の多くを自らの懐に収めていた貴族が一斉に処分された。一部の古株の鑑定士にも同様の行為が認められたため、これも処分。


 鑑定士ギルドは新体制として作り変えられていく予定で、鑑定手数料の見直しがされ、冒険者や商人たちのこれまでの不満を徐々に解消しようという動きが行われている。


 新たな鑑定士ギルドの人員となった鑑定士たちは、驚くことに全員が最近まで鑑定スキルを全く持たなかったという。

 これは俺とフリアエ(というかほとんどフリアエの力)で開発した鑑定スキルの魔導書によるものだが、その事実を知っているのは俺たちと王宮の限られた関係者しか居ない。


 鑑定スキルの魔導書は、今後は月に決められた数を作成し、王に献上することに決まった。


 現状は王に認められた者か、法外な値段で魔導書を買える財力のある者しか鑑定スキルの魔導書を使う事が出来ないため、誰もが鑑定士になれる時代はまだまだ遠そうだった。


 俺は紫の騎士団で、相変わらず鑑定の仕事をしている。

 旧ギルドでも新ギルドでもない第三勢力として、ある程度自由にやらせてもらっている。


 そのため団長には本当に頭が上がらないほどにお世話になっている。

 紫の騎士団として、ダンジョンのアイテムの回収から鑑定、更には鑑定スキルの魔導書の流通という特殊な立場になった団を纏め上げ、王宮との手続きも色々取り計らってくれている。

 間違いなくこの世で一番足を向けて寝られない人だ。


 ちなみに、俺がダンジョンで迷子になっている間に騎士団が持ち帰ったアイテムはアーティファクトではなかった。

 しかし、強い呪い耐性とそこそこの物理や魔法を無効化する効果のある指輪だったため、護身用として俺が持つよう騎士一同から渡されたのだった。


 国は少しずつ変わりつつあるが、俺自身はと言えば、鑑定するアイテムの量が減って質が増えたくらいで、引き続きアイテムの鑑定をしつつ日々を過ごしていた。


 そんな日々の中で、久々にアシュレイが俺を訪ねてきた。


「よっ。すごいじゃん、すっかり革命者だねえ」

「革命者は大袈裟だ……」


 団舎近くのベンチで、屋台のレモネードをストローで吸い上げるアシュレイは上機嫌だった。


「いいないいな、楽しそうだし、ボクも冒険者なっちゃおうかな?」

「え」

「これからは貴族とか、古いだけの存在になっちゃいそうだし、そうなる前に転身するのも結構アリだと思わない?」

「冗談なんだか本気なんだがわからないことを……」

「だって、やっぱ冒険者ってかっこいいじゃん。ボクも活躍してみたーい」


 今日のアシュレイの装備はシンプルなツーピースのドレスと同色の白いリボンだった。どちらも俊敏性を上げる効果があるアイテムのようだ。

 いつも身体強化系の装備を好んでつけているのを見るに、戦闘力は人並みにあるのかもしれない。


「まあ、明日何があるのかわからないから、アシュレイが冒険者になる可能性も否定できないな」

「あはは、たしかに色んなことがあったもんね、キミの周り」

「それもきっかけは、アシュレイのおかげだったな」

「ボク? キミにそう言ってもらえるのは光栄かも」


 あの日ギルドの試験に落ちていなかったら。

 アシュレイに出会わなかったら。

 彼と一緒に団長の息子を救わなかったら。


 これまでの色々が俺の今を変える分岐点だと思うと、今こうしてこの場所にいることがとても幸福なことのように思えた。


「本当に感謝してる。ありがとう、アシュレイ」

「ふふ。良かった。それならさ……ひとつお願い聞いてくれる?」

「なんだ?」


 貴族のアシュレイのお願いを俺が簡単に叶えられるとは思わないが……。


「もし、ボクにこの先困ったことがあった時、なるべく助けてほしいなあ」

「漠然としてるな……」

「だめ?」

「駄目じゃないよ、俺に出来ることがあれば」


 ありがとう、とアシュレイは満面の笑みを浮かべた。


「じゃあ、おやつに何か美味しいもの食べに行こっかあ!」

「たったいま屋台のジュース飲んだばっかりだぞ? そもそも俺、いま仕事の休憩中で」

「オッケー、おっちゃんに許可取ってこよーっと」

「俺の意思は?」

「大丈夫、ボクのおごりだから」

「そういう問題じゃ……いや待てアシュレイ! おい!」


 団長室に向かって一直線に走っていくアシュレイを追いかける。


「あれ、フリアエさん久しぶり! 元気そうだねえ」

「あの時のお嬢様……!? と、マリオン?」

「フリアエさんもまたお喋りしよーね」


 ぽかんとしているフリアエの隣を走り抜けて。


「あっ、騎士クンもお久しぶり」

「おっおおおおおひひひひさしぶり!っすああああ!」


 真っ赤に染まった顔から煙を出しているジークをよそに駆けて。


「今日も我が団は賑やかだな。良い事だ」

「「はい!! 団長!!」」


 そんな俺たちの姿が団舎の窓に映っていた。


 なんだか急に力が抜けて、喉から小さく笑いが漏れた。

 アシュレイが振り返る。

 視線がぶつかる。顔をあわせて、俺たちはひとしきり笑った。

お読みいただきありがとうございます。

ここまでがひとつの区切りとなります。

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