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その10.未知の宝

 扉の向こうから、澄んで美しい声がする。声の主は笑っていた。


「入るよ」


 ベルが扉へと入っていったので、俺も後に続く。

 そこには巨大な玉座があった。


「ふああ……この世界に顕現(けんげん)するのも久々じゃのう」


 玉座の前には、女性の姿をした何者かが、しどけなく膝を抱えた状態で浮かんでいた。

 長く伸びた髪の間からは金色の枝のような、角のようなものが生えている。


「あ……あんたが王家に伝わる宝だって言うの!?」

「その通りじゃ。われら王家の宝は、訪れたものの資質によってその姿を変える」

「どういうこと?」

「ふははは。わらわが現れたということは、おぬし、よっぽど問題児なのじゃな」


 自称王家の宝はふわりと空中で一回転し、直立の姿勢で浮かび両手を広げた。


「あたしが問題児ですって?」

「左様。勇ある者には力を、心優しき者には守護を。そして王族としての器が足らぬ者には試練を。それが、われら王家の宝の使命よ」

「じゃあ、つまりあんたは……」

「わらわはグルヴェイグ、試練を司る宝ぞ」


 ベルはグルヴェイグを見上げ、睨んだ。


「冗談じゃない! 試練なんてやってられるもんか!」

「ほう、面白い冗談を言う」


 グルヴェイグは無色透明の小瓶を取り出すと、おもむろに空中に放り投げた。

 するとたちまちベルの体が縮み始め、小瓶に吸い込まれていく。


「ちょ、ちょっと、なによこれ、なッ、」


 完全に小瓶に吸い込まれてしまうとベルの声は聞こえなくなり、小瓶の内側から激しくガラスを叩く仕草と必死に口をパクパクしている様子が見える。


「案ずるでない、わらわがみっちりと鍛え上げてやろうぞ」


 グルヴェイグが小瓶を舐める。その顔はどこか恍惚に満ちていた。


「わらわは、生意気で美しい人間が好みでのう……」


 ……ええと。状況を整理しよう。

 王家の宝を見つけたかと思ったら一瞬でその宝に王女様が囚われた。

 王女様のことはまあいいとして、目の前に浮いているこの存在はなんなんだ?

 本当に宝、だっていうのか?


「ん? 他にも人間がおったのか。おぬしは王の血ではないな」


 グルヴェイグがようやく俺の存在に気づく。


「……ふむ。しかし数奇な力を宿しているものよ。人の身で過ぎたる力を持っていては苦労するだろう」

「なんの……ことでしょうか」

「おぬしの、宝の本質を見抜く能力のことじゃ」

「え?」

「どうじゃ? わらわのことが見えるかえ?」


 そう言われて俺は身構えた。咄嗟に術式を探る。

 グルヴェイグ。三柱の精霊が宿る一つの宝。王家の血によって封印が解かれれば、その者を主と認め使命を果たす。


「なんと! そこまで見えておるとは。感心、感心」

「あの……俺は鑑定士なので」

「というと?」

「生まれつき、見えるんです。アイテムの効果が」

「ふは、そのような者は珍しくないが、おぬしに関しては能力が度を越えているのう」


 グルヴェイグは愉快そうに笑っている。


「まずは己の力を自覚するのじゃ。過剰な力は身を滅ぼすからの」

「過剰なんですか……? この能力は」

「無自覚は罪じゃぞ。力を持って生まれた者には、力を使う責任が伴う。この王家の娘もそうだがな」

「責任と言われても……」

「問おう、おぬしはその力を何のために使うのじゃ?」


 俺の力。

 昔から鑑定しか取り柄がなくて、だから早く鑑定士ギルドに入って認められたくて。

 それは叶わなかったけど、代わりに、俺のことを認めてくれる人に出会った。

 鑑定の仕事が楽しく感じたのも、そこで働く事が居心地が良かったから。

 

「俺の力で出来ることがあるなら……俺のことを認めてくれた人のために、使いたいです」


 そう告げると、グルヴェイグの表情が柔らかく緩んだ気がした。


「それに、俺に力があるなんて言ってくれるけど、このダンジョンからもどうやって出ようって思ってるくらい無力だし、帰ったら帰ったで暗殺されかけたりもしてて、俺一人ではホントに何も出来なすぎてる状況で」


 力を持っていると言われて手放しに喜べないのは、まだまだ俺に出来ないことの方がはるかに多いから。

 今だって、騎士団からはぐれて皆に迷惑をかけていないだろうか?


 そう思った時、激しい耳鳴りのような音がして目の前の空間が真っ二つに切り裂かれた。


「マリオン……!!」

「え!? フリアエさん!?」

「大丈夫だった!? ケガは!? みんな心配してる」

「あ、ありがとう……? 俺は無事……です」


 フリアエの突然の出現に、グルヴェイグは目と口を大きく見開いて驚愕した。


「な、なんじゃその娘は! どこから入ってきた!?」

「探知魔法と解析魔法と転移魔法を組み合わせてマリオンのところへ転移してきた。即興で編み出したから時間がかかっちゃった」

「ば、ばかな……!? ここは王家の者しか入れぬ隠し部屋じゃぞ!? ついさっき考えたばかりの魔法で簡単に転移されてたまるものか……!!」


 フリアエって、やっぱり魔法に関しては天才なんだな……。


「近頃の人間は恐ろしいものよ……。まあよい、わらわの使命はこの王女に試練を与え鍛え上げることじゃ。おぬしらのことは、しばし放念するとしよう。では、達者でな」

「あの、どこへ?」

「なあに、王に軽く挨拶した後に、武者修行の旅にでも向かうとするかの」


 小瓶の中のベルが何やらわめいているようだが、その声はさっぱり聞こえなかった。


「わたしたちも戻ろう。マリオンが無事ってはやく知らせたい」

「……こういう時、どんな顔して戻ったらいいんですかね」

「なに言ってるの。無事な姿を見れただけで、みんな喜ぶよ」


 フリアエの言った通り、転移魔法であっという間に団舎に戻った俺は騎士団の暑苦しい歓待を受けることになった。それはとても気恥ずかしかったが嬉しかった。


 騎士団の方も首尾よくアーティファクトらしき宝を持ち帰ってきており、俺としてはすぐにでも鑑定をして良かったのだが。

 疲れているだろうという事であっという間に自室に押し込められ暖かい布団をかけられてしまった。

 そんなのすぐ眠気が来てしまう……。おやすみ……。

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