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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第五章 悪役令嬢は絡まれたくない
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熱烈すぎる愛の告白

 ノエルを床に転がしたまま、クリフもディーンもミリアもさっさと椅子に戻った。3人ともノエルの方を見向きもしない。

 

 (だ、大丈夫なのか?) 


 「父から来た手紙の話に戻るよ」


 クリフは何事も無かったように、話を再開する。私はノエルの事を気にしつつも、クリフの方へ顔を戻した。 


 「モーガン先生・・・サグレメッサ・モーガンは、前にアリアナ嬢には話したけど、今はデンゼル公爵の第二夫人だ。父親はヘクター・モーガン侯爵。10年程前、財政省で働いていたのだが、皇国の金品を着服したとして、爵位を剥奪されている」


 「良くある話ですわね」


 ミリアが冷え切った声でそう言った。


 (ま、まだ怒ってる?)


 ついでにお茶も冷めていたので、私はステラに入れ直してくれるように頼んだ。


 「話としては、よくある事だが、その方法が珍しい。モーガン侯爵は犯罪に精神魔術を使ったんだ。魔術で職員を操り、皇帝陛下の財産に手を付けた」


 「こっわー!よくやるわね」


 ジョーは新しいお茶を飲みながら、次のケーキに手を伸ばした。


 「魔力を封じる魔法具も、何らかの方法で外されていたらしいよ。まぁ一番言いたいのは、モーガン家は精神魔力を持つ血筋だって事だ」


「モーガン先生が精神魔力を持っていても、不思議では無いと言う事ですね・・・」


 精神魔術を使えるかどうかは、魔力の量や質には関係なく、多くは遺伝によるものらしい。少しずつだが色んな事象が繋がって来た。


 「精神魔術を解く方法については、分からないのでしょうか?」


 正直、それが一番気になった。


 「その事についても父の手紙に書いてあったよ。まず精神魔術というのは基本、魔力の強い者から弱い者にしか、かける事は出来ないんだ」


 「えっ、そうなのですか?」


 それは少し安心材料だ。ここに居る皆は魔力がかなり強いから、比較的安全ということになる。ただし私とノエル以外だけど・・・


 (ノエルも魔力低いって言ってたからなぁ。・・・でもさ、相手が相当強い・・・例えばディーンやクリフくらいの魔力を持ってたら、ミリアやジョーも操られてしまうって事だよね。まぁ、そのクラスの使い手はなかなか居ないだろうけど・・・ん?)


 私は一番ヤバい人物を思い出してしまった。


 (いた・・・いるよ一人!ライナス・イーサン・ベルフォート!・・・あいつなら世界中の人間を操れる・・・)


 そう思ってゾッとした。だけど私は無理矢理その考えを、頭から押しのけた。


 (今はあいつは関係ない!それにイーサンはゲーム設定では、そんな事に興味は無かったはず)


 私はクリフの話に意識を戻した。ちゃんと聞いとかなくちゃ。


 「ただし相手が相当疲れているか、魔力が消耗している時は、相手の能力が高くても術をかける事ができるらしいよ。ノエルとグローシア嬢に無茶苦茶な補習をさせたのは、そのせいかもな。グローシア嬢がモーガン先生のお茶会に行かなくて良かったよ」


 「わたくしは疲れていたとしても、精神魔術などにはかかりません!」


 グローシアは自分をノエルと一緒にするなと言いたいようだった。


 「精神魔術はかけられた者の感情を増幅したり、または減少させたりもできる。つまり悪意や好意を操れるって事だ。術者の能力が高ければ、全く思っていなかった事を考えさせたり、操り人形の様に何も考えさせないようにしたりできるらしい。また深く眠らせたり、記憶を失わせたり、幻覚を見せる事も可能だってさ」


 「悪人が使えば、恐ろしい事になりますね。だから魔法具で封じる様になったのですね」


 「そうだろうな」


 私以外の皆もクリフの話を聞いている内に、思っていたよりも今起きている事態が深刻である事に気付き始めたようだ。表情に真剣さが増してきている。


 クリフは目の前に指を3本立てた。


 「精神魔術を解く方法は3つある。一つ目は術をかけた本人が解術する事だ」


 「それは無理ですわね・・・」


 レティが残念そうにつぶやいた。


 「二つ目は闇魔術で、精神魔術を無効にする事。闇の魔力は全ての魔力を飲み込むからな」


 「そんなのもっと無理ですわ。闇の魔力を持つ者なんて、なかなか見つけられないですもの!」


 ミリアの口調が少し苛立っている。冷たく当たってはいたが、やっぱりノエルの事を心配しているのだろう。クリフが宥める様に彼女に両手を向けた。


 「焦るなよ。もう一つの方法がある」


 「なんですか?」


 全員がクリフの言葉を待った。


 「光の魔力だよ」


 「え?」


 皆が一斉にリリーを振り向いた。


 「光の魔力・・・」


 呟いたリリーにクリフが頷いた。


 「そうだ。光の魔力による聖魔術。これが精神魔術を浄化させるらしい。ただし精神魔術をかけた術者よりも、魔力が高くないと浄化は難しいみたいだけど・・・どうする、リリー?やってみるかい?」


 リリーの瞳に強い光が宿った。


 「ええ、やらせてください」


 大きく頷いて、彼女は立ち上がった。


 「聖魔術をかける前に、ノエル様にかけた捕縛魔術とシールドを解いてもらえますか?魔術が干渉する可能性があるので」


 リリーは、部屋の隅に転がされているノエルの横に膝をついた。


 「でも、そうしたらまたアリアナ様に向かって行くんじゃないの?」


 ミリアはげんなりした顔で溜息をついた。


 「私とクリフで押さえておこう。パーシヴァルも手伝ってくれ」


 「えー?僕は面白いから、そのまま見てたいけどなぁ」


 ヘラヘラ笑っている彼を見て(こいつめ・・・)と思ったが、意外と素直にパーシヴァルも、ノエルの足を押さえに行った。


 「では、今から俺とディーンが魔術を解く。念のためリリー以外は、少し離れておいてくれ。じゃ、ディーン行くぞ・・・」


 クリフがそう言った途端、捕縛の魔術が解けたのか、ノエルは再び暴れ出した。急いでクリフとディーンが両腕を抱える様に抑えた。パーシヴァルは蹴られそうになりながらも足を押さえている。


 3人がかりで押さえ込まれ起き上がれないと悟ったのか、ノエルは必死で顔だけ持ちあげると真っすぐ私の方を向いて叫んだ。


 「ああ、アリアナっ!僕は君が好きだっ!ディーンやクリフなんかより、ずっとずっと君が好きなんだっ!愛してるんだぁ~!」


 静まり返った部屋に、ノエルの言葉がこだまのように響いた。部屋にいた全員が、彼の魂の叫びに呆気に取られて動きを止める。


 (あ、愛・・・)


 私の頭の中にも、なぜか教会の鐘のような音が響いていた。


 クリフが再びノエルの口を押えようとしたが、ノエルは顔を背けてそれを防ぎ、


 「君だって本当は、僕の事が一番好きなんだっ!僕はちゃんと、あの人からそう聞いたんだもん!だからアリアナ!僕と結婚を、もがっ・・・」


 今度こそクリフがノエルの口を押えた。


 「リリー嬢!早く聖魔術を!」


 ディーンがリリーに向かって叫ぶ。


 ノエルの勢いに気を飲まれていたリリーは、ディーンの声に我に返ったようだった。目を瞑って両手を祈る様に組むと、彼女の内側から銀色に輝く光が広がり始めた。光は段々と大きくなり、やがてノエルの身体をゆっくりと優しく包み込んでいく。


 すると暴れていたノエルの身体から力が抜け、彼はぐにゃりと横たわった。しばらくすると、


 「あっ!見て!」


 ジョーが驚きの声を上げた。ノエルの頭の中から黒い煙の様な物が立ち上ってきたのだ。


 (これが、精神魔術の正体!?)


 黒い煙はどこか禍々しさを感じさせ、思わず後ずさってしまう。だけどその煙はリリーの聖魔術の光の中で小さくなり、やがてゆるゆると消えて行った。


 ノエルは目を閉じたまま、ぐったりと横たわっている。


 「ノエル!」


 ミリアがノエルに駆け寄って、かなり強めにぱんぱんと頬を叩くと、彼は「う~ん、痛い~」と唸りながらゆっくりと目を開けた。


 「ノエル、大丈夫か?」


 クリフが声をかけても、ノエルはまだぽかんとしていたた。だけど頭を動かして、こちらを見て私と目が合ったその途端、彼の顔は紅葉の様に真っ赤に染まった。


 「うわぁぁぁ!!!」


  彼は叫びながらガバッと起き上がると、凄い勢いで私に向かって土下座した。


 「ごごご、ごめんなさい!ぼ、ぼ、ぼ、僕は何ってことを~!!!」


 頭を抱えて身悶えながら、猛烈に謝り始める。


 その様子を見て、ミリアがふーっと溜息をついた。


 「どうやら、正気に戻ったようね・・・」


 ノエルは土下座したまま、「ごめんなさい!」「許してください!」「ワザとじゃないんです!」と謝り続けている。


 私は居たたまれなくなって、慌ててノエルの前に膝を付いて、彼の肩に手を乗せた。


 「だ、大丈夫ですよ、ノエル様は操られてたんです。・・・え~っとノエル様が本気で言ったのでは無いと分かってますから、だからあの・・・お願いですから顔を上げてください」


 それでもノエルは土下座したまま頭を上げない。私は困ってしまって、きょろきょろと皆の顔を見ると、ディーンと目が合った。すると何故かディーンはきゅっと眉を寄せて、私を睨んだ。


 「アリアナ・・・どうして君まで赤くなっているんだい?」


 「えっ?」


 (マジで?)


 私は慌てて顔を隠す様に、両手を前にかざした。そして言い訳を試みる。


 「いえ・・・だって・・・その・・・面と向かって告白されたのは、生まれて初めてでして・・・」


 正直、あそこまで熱烈に好きだと言われたら、さすがにグッと来てしまったのだ、はは・・・。


 するとディーンは私の手を持って、引っ張る様に無理やり立たせてると、突然両肩を掴んだ。


 「痛っ・・・」


 強い力に顔をしかめる私に気付いて無いのか、そのままディーンは私を自分の方に向けさせると、


 「ノエルの告白は精神魔術のせいだ!君だって分かってるだろう!?」


 怒鳴りつける様にそう言った。


 ディーンのあまりの剣幕に肩を掴まれたまま、思わず身を縮める。そして運悪く、丁度同じタイミングで、クラークが「ただいま~」とリビングの扉を開けた。私達の様子を見たクラークの笑顔が凍る。

 

 「・・・」


 「あっちゃ~」と言うジョーの声が聞こえ、パーシヴァルがけらけらと笑い始めた。


 クラークは固まった笑顔のまま凄いスピードで近づくと、ディーンの手から私をもぎ取った。そして土下座したままのノエルを見ると、穏やかながらも有無を言わせない口調でこう言った。


 「説明を聞こうか?」


 私達は全員一斉に溜息をついた。

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