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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第五章 悪役令嬢は絡まれたくない
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お世話係の未来

 あのエメラインの所で1週間。心なしか3人がやつれて見えるのは気のせいか・・・。


 「えっと、ミリア達のお世話係の方はどうですか?色々大変そうですけど・・・」


 「ううっ・・・」


 ミリア達3人が唸り、顔があからさまに曇った。


 「せ、先日は申し訳ありませんでした!アリアナ様」


 「エメライン王女の事をを止められなくて・・・」


 「しかも、びしょ濡れのアリアナ様を放っていく事になってしまって・・・ううう」


 ミリアは立ち上がって頭を下げ、ジョーは頭を抱えて天を仰ぎ、レティは泣きながら両手で顔を覆った。三者三様の陳謝を受けて、私は慌てて両手を振った。


 「いえいえ!それはもう前に謝って貰いましたよ。それに、あれは全くあなた達せいでは無いでしょう?」


 私がそう言うと、ジョーは顔をしかめながら頬をぽりぽり掻いた。


 「いや・・・まぁそうなんだけど・・・あの時エメライン王女に何も言えなかったし、助けられなかったのは事実だから・・・」


 「そんなの当然ですよ!あの状況では無理です。あの場でエメライン王女に逆らったら、あなた達の方が大変な事になってましたよ。それに頭から水かけられるくらい、どうって事ないですから」


 そうだよ3人は全く悪くない!酷いのはあくまで、あのくっそ意地悪なエメラインなのだから。そんな風に思ってると、隣からなんだか異様な空気が漂ってきた。怪訝に思って顔を向けると、


 (・・・げっ!)


 グローシアから黒いオーラが立ち昇っているでは無いか!


 「・・・・どういう事です?アリアナ様が水をかけられたと言うのは・・・私は処刑執行人に転職した方が良いでしょうか・・・?」


 グローシアの顔から表情が消え、瞳が真っ黒に淀んでいる。


 (うおい!?)


 これはマズい!


 「駄目!駄目だからね!転職は禁止。騎士で良いから!」


 一生懸命グローシアを宥めていると、今度は向かいからヒンヤリした空気を感じた。


 「頭から水をかけられた・・・?どういう事だいアリアナ。私は聞いて無いけど・・・?」


 ディーンの薄っすら笑った顔に、ゾッと悪寒が走った。


 「ディ・・・ディーン様はお忙しくて、お話しする暇が無かったのです・・・」


 「へぇ・・・ではクリフには話してるって事かな?」


 なんでそこでクリフの名が・・・!?しかもディーンからの冷気が増したぞ!


 「ク、クリフ様にも話しては無いです、はい・・・そ、それに・・・そもそも、たいした話では無いので・・・」


 そう言うとディーンの目がギラリと光った。


 「頭から水を浴びせられたのが、たいした話じゃ無いというのか!?」


 (どうして、ディーンが怒るのよ!?)


 びびって思わず目を瞑り、身を縮めた私をリリーが庇う様に抱きしめてきた。


 「ディーン様、落ち着いてください!アリアナ様に怒る事では無いですよ。・・・グローシアも座りましょう。フォークを机に突き刺しては駄目よ!」


 (ううう、リリー、ありがとう・・・)


 私がヒロインの優しさに浸っていると、ジョージアが突然バンッと机を叩きながら立ち上がった。


 「やっぱりいやだ・・・決めた」


 キッと前を見据えて大きな声で言う。


 「ジョ、ジョー・・・?」


 どうしたの?と聞こうとすると、


 「私、決めたわ。エメライン王女のお世話役、断わる!」


 「えっ!」


 「ちょ、ちょっと!」


 「ジョー!?」


 ミリアとレティの呆気に取られた顔。ジョーはカップを鷲掴みにすると、紅茶をぐびぐびとあおった。


 「止めないで!そもそもお世話係なんて、向いてないし」


 「で、でも、私達の方から断ったら、家の方にも何をされるか・・・」


 レティの声が震えている。


 「構わないわよもう!きっと父や母だって分かってくれるわ。これ以上エメライン王女に仕えるのは、私の矜持に関わるのっ!」


 握りこぶしを天に突きあげた。だけどさすがに私も焦った。


 「ま、待って、ジョー!私はあんなの全っ然、気にしてないからね。それにあれ以来、顔も合わせてないから・・・ほら、今は何もされてないよ?」


 両手を広げてみる。だけどジョーの宣言を横で聞いていたミリアが固い表情で口を挟んだ。


 「・・・いいえ、アリアナ様。エメライン様は、今後もアリアナ様への嫌がらせを計画しているんです」


 「えっ?」


 (なんですと?)


 「上級生が開くお茶会に、アリアナ様だけ呼ばないとか。陰でアリアナ様の悪口を言いふらすとか・・・」


 (子供かよ?レベル低・・・・)


 「そんなの、全然気にしないですよ」


 「それだけじゃ無いんです。・・・私達に、アリアナ様の机に泥を入れてこいとか、階段から突き落とせなどと・・・」


 (げっ!)


 急に犯罪めいて来たぞ。


 「きょ・・・教科書を汚されるのは困りますね。階段も普通に怪我しますし・・・」


 少し腹が立ってきた。


 「それに、自分じゃ無くてミリア達にやらせようっていうのが、気に入らないです。・・・ごめんなさいね、私の為にあなた達まで嫌な気持ちにさせて」


 私がそう言うと、しっかり者のミリアが一瞬泣きそうな顔をした。だけど、スッと居住まいを正すと、真っすぐな目で私を見る。そして、


 「アリアナ様。私もお世話係を断りますわ」


 きっぱりとそう言った。


 「ミリー!あなたまで!?」


 レティシアが悲鳴の様な声をあげる。


 「私の家はエメライン王女に睨まれると困るでしょうね・・・。でもきっと、父も母も兄弟も、その為に私の大事な友達を犠牲にしろとは言わないわ」


 「ミリー・・・」


 (あ、あれれ?・・・な、なんか大変な事になってきてない・・・?)


 ジョーやミリアの気持ちは有難いけど、実家にまで影響があるのはマズく無いか?


 私は半泣きのレティシアを見て、おろおろしてしまった。


 「レ、レティ・・・泣かないで」


 だけどレティシアは一度大きなため息をつくと、ポケットからハンカチを取り出すと涙を拭き鼻をかんだ。なんだか目が据わっている。


 「・・・二人が居ないのに、エメライン王女の所に一人で残れって言うの・・・?そんなの無理よ!わたくしもやめる。お世話係やめるわ!」


 そう言うと急に早口でまくしたて始めた。


 「だってお世話係やってると、全然絵が描けないんですもの!も~凄く、凄くストレスが溜まっていたのよぉ。わたくしは綺麗な人達の絵を描いてたいのっ!絵を描くのが一番の幸せなのっ!」


 ミリアがそれを聞いて「分かるわ」と言った。


 「私・・・実は生徒会にスカウトされてたのよ。分かる?生徒会よ!?将来の権力が約束されるのよ!?そっちの方が断然、面白そうでしょ?」


 ミリアも吹っ切れた様に叫んだ。ジョーは、それにうんうんと頷きながら、腕を組む。


 「私も誰かにへこへこするのって、向いて無いのよねぇ。侍女になるのだってごめんだもん。あ~やっとスッキリして、お菓子を食べる事が出来る!」


 そう言って、ケーキをばくばく食べ始めた。そう言えば、珍しくジョーはお菓子に手を付けて無かったなぁ。それだけ気になっていたと言う事か。


 だけど私は三人の宣言に、呆気に取られてしまった。


 「ちょ、ちょっと待って下さい!本当に大丈夫なのですか!?お家にまで影響が及ぶなら、考え直してくださいよ。それに・・・あなた達まで、エメライン王女から嫌がらせをされるかもしれないですよ!?」


 「そんなの構いませんわ。・・・ああ、そうなったら、アリアナ様への嫌がらせが減るかもしれませんわね?」


 名案を思いついたようにミリアが手をポンと打った。


 「ミリー冴えてる!そうなると意地悪が分散するから、余計に大したことないわ」


 「わたくしは絵さえかければ、嫌がらせなぞ気になりませんわ」


 3人できゃっきゃと盛り上がり始めたので、私は何も言えなくなってしまった。


 (大丈夫かよ~?エメラインってゲームじゃ、結構えげつなかったんだから・・・。自分の取り巻き使ってヒロインに、それはそれは酷い仕打ちをしたんだからね。しかも意外と取り巻き達も魔力が強くて、乙女ゲームにしては珍しくバトルシーンが・・・)


 そこまで考えて、ハタッと思い当たった。


 (あれ・・・?ゲームでリリーに嫌がらせしてたエメラインの取り巻きって、今のお世話係達よね?・・・ってことは、もしかしてミリア達・・・)


 確かゲームの中のエメラインの取り巻きは5、6人。名前の記載は無くて、取り巻きA、B、C、D・・・って書かれてた。


 (待て待て・・・取り巻き連中には、特に魔力の強い三人の女生徒が居たっけ・・・という事は、もしかしてあれはミリア達か!?)


 トラヴィス・ルートでは、選択によっては、エメライン達とのバトルになる。その時に手こずる相手がこの三人なのだ。


 (もしミリア達がお世話係を続けたら、この先リリーがトラヴィスを選んだ場合、ミリア達とバトルになる可能性も・・・)


 なんて恐ろしい展開じゃ!


 (だとしたらエメラインのお世話係は、やっぱ辞めて貰った方が良いのか?で、でも3人の実家は本当に大丈夫なの・・・?)


 そんな風にぐるぐる考えていたら、ふとリリーと目が合った。彼女は私の心の中を知らないだろうに、私を安心させるようにふわりと笑った。その途端心が温かくなり、思考も落ち着いてくる。


 (ふはぁ・・・聖女の微笑みだわぁ。・・・うん、そうだね.・・・やっぱりリリーの為にも、エメラインの味方は減らしておいた方が良い。それにミリア達だって悪い事に加担するのは辛いだろう)


 私も腹を据えた。


 「分かりました。もしあなた達がエメライン王女に何かされたら、教えてください!私の方でも出来るだけ手を打ちますから」


 3人の顔に笑顔が浮かぶ。 


 「ありがとうございます。アリアナ様!」


 こうなったら権力でも何でも使ってやる。本当に三人の家がマズい事になったら、アリアナ父に相談だ。筆頭公爵家は伊達では無いのだ。

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