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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第五章 悪役令嬢は絡まれたくない
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ポイッ

 ディーンの顔が見れなくて、片手で目を覆って私は俯いてしまった。


 (やっぱりだよ・・・絶対そうだと思ってたんだ。ディーンは揉めたって表現してるけど、恐らくアリアナが一方的にイジメたんじゃ無いの?)


 ちょっとアリアナ、聞いてる!?と、私は心の中に叫んだ。


 「も、申し訳ありません・・・。正直、覚えておりません・・・。あの・・・馬車の事故以来、記憶がどうも・・・」


 「ああ、それは知っている。だから・・・もしかしたら君は気分を害するかもしれないが、それを承知で頼みに来たんだ。・・・マーリン嬢を許してやってくれないだろうか?」


 その言葉に、私はふと顔を上げてディーンを見た。一瞬目が合って、彼が微かに目を逸らす。


 「その・・・きっと昔の事が尾を引いてるだけで、彼女は君の事を誤解しているんだと思うんだ・・・だから・・・」


 ディーンの口調は、やはり歯切れが悪い。なんだか私に気兼ねしているようだ。私はやっと彼が、皆より先にやってきた理由が分かった。


 (そっか、ディーンがわざわざ二人で話したかった事ってこれなわけね。マーリンの事が心配だったんだ。・・・それに、もしかしたら皆の前で、昔のアリアナの話を出すのを避けてくれたのかもしれないな)


 ディーンは多分マーリンの事を・・・恋愛かどうかは置いといて・・・ちゃんと好きだったのだろう。


 (優しいね。でもって不器用だ)


 気まずそうに目を逸らせたままのディーンに、思わず苦笑してしまう。


 「もちろんです」


 「え?」


 ディーンは驚いた顔で私を見た。


 「それに許すも何も・・・あの時は私も結構きつい言い方しましたから、お互い様ですね」


 「・・・アリアナ」


 「昔の事もちゃんと謝らなくちゃいけませんね。覚えてないと言ったら、もっとマーリンさんを怒らせてしまいそうですが・・・」


 首をすくめてそう言うと、ディーンは安心したように笑った。


 「ありがとう・・・。てっきり断られるかと思ってたよ」


 「だから、ずっと恐い顔してたんですね?」


 からかう様にそう言うと、ディーンの顔が少し赤くなった。


 「すまない・・・君が怒るかもしれないと思ってたから・・・」


 「怒りませんよ。きっと私も悪かったのですし、ディーン様が友達を心配するのは当たり前です。なのに・・・ありがとうございます。あの時、私の味方をして下さって」


 「え?」


 「一緒に、通常クラスに行くと言って下さったでしょう?」


 ディーンは苦笑しながら、


 「・・・一番、最後だったよ?」


 「最後はパーシヴァル殿下ですよ。しかもディーン様にくっついてですから。全く調子の良い方ですよね?」


 思い出すと何だかおかしくなってきて、二人で笑ってしまった。


 「でも良かったです。ディーン様がそう言う風に思って下さっていて。私もマーリンさんの事は気になってたんです」


 「え?・・・そうだったんだ?」


 「ええ。実はクリフ様には言ってあるのです。マーリンさんと普通に接して欲しいって」


 「えっ!?」


 ディーンは本当に驚いたようだった。


 「他の皆さんにも、今日お願いするつもりだったんです。本人のいる教室では言いにくいですから。・・・マーリンさん、この一週間の間、教室では誰とも話していな気がして。短い休み時間も、一人で何処かへ行ってるようですし」


 「ああ・・・だが聖女候補の補講ではリリー嬢と二人だから・・・」


 「ええ、リリーは凄く可愛くて、優しくて、本当に良い人だから、マーリンさんとも仲良くしてくれていると思うんですよねぇ」


 私のリリー大好き熱に、一瞬ディーンの顔が引きつった気がしたが、そんな事は良いとして、これについても今日、リリーに聞きたいと思っていたのだ。


 聖女候補の補講では、マーリンは一体どういう様子なのか?・・・誰かに操られているような、そんな素振りは無いのか?


 (精神魔術の事についてディーンに話すのは、皆が来てからにしよう。説明が二度手間になるもんな。それよりも・・・)


 「ディーン様もマーリンさんに、どんどん話しかけてくださいね。私は立場上、無理なので・・・。余計にマーリンさんを怒らせちゃいそうでしょう?でもディーン様やリリーが、マーリンさんと親しくすると、きっとクラスでの雰囲気も変わると思うのです。それにディーン様は、元々マーリンさんと仲が良かったわけですし」


 「いや・・・そんなに仲が良いと言う訳では・・・」


 「きっと、お二人って気が合うと思うんですよね!」


 だってディーン攻略ルート外では、必ず二人は恋人になってたぐらいだから。


 (ふむ・・・昔アリアナが意地悪した罪滅ぼしに、ディーンとの仲を取り持ってあげるってのもアリかもな。そうすれば、私もマーリンと友達になれるかも?だって設定ではマーリンは根は良い子なんだし、私が昔のアリアナとは違うって分かれば、許してくれるかもしれないじゃない?)


 昔から好きだったディーンが恋人になれば、マーリンだって即ハッピーだろう。


 そんな妄想を繰り広げていたら、ディーンが私をじっとりした目で見つめていた。


 「・・・ディーン様・・・何ですかその目は?」


 「アリアナ、君さ・・・何か変な事を考えてない?」


 「へ、変な事って・・・?」


 「私と、マーリンをくっつけようとか・・・。」


 「えっ!?私、声に出てました?」


 思わずそう言って両手で口を押えると、ディーンはがっくりと項垂れ「はぁ~~~っ」と滅茶苦茶深いため息をついた。


 「あ・・・あのディーン様?」


 「・・・忘れてない?君と私は一応婚約者なんだけど?」


 「そ、そうですが・・・」


 「婚約者に他の相手との仲を取り持つなんて・・・ありえるのか?」


 「いや、でも、ほら、一応婚約者ってだけで、いつでもポイってできますから・・・」


 そう言うとディーンは顔を上げて、キッと私を睨みつけた。


 (ひっ!、こわっ)


 「ディ・・・ディーン様?」


 「いつでもポイ?・・・君は私をそんな風に思ってるのか?」


 普段よりも声が低い・・・。マジで怖いぞ!


 「ち、違いますよ!?ポイってするのはディーン様の方です。ディーン様が私をポイって捨てるんです。だから・・・」


 するとディーンが机をバンと叩いて立ち上がった。私はビクッとなって身を縮めた。


 (ひえっ!何で?お、怒ってる!?)


 「私がそんな事、するわけ無いだろうっ!!」


 だけど叫ぶ様にそう言ったディーンの声を聞いた時、不思議な事に私はスッと冷静になった。そして、


 「しますよ・・・貴方は。他に好きな方が出来れば、アリアナなど直ぐに捨てます」


 言葉が勝手に口から零れ落ちた。そんな感じだった。自分とは思えない程、感情のこもらない冷たい声。


 (嘘つきめ・・・どんなルートに進んだって、ディーンはアリアナを選ばなかったじゃ無いか・・・)


 いかん・・・なんか思考が良くない方に向かっている気がする。一瞬ふらっと目眩の様な感覚がして、私は頭を軽く振った。


 「アリアナ・・・?」


 顔を上げると、つい今まで怒っていたディーンが、心配そうにしていた。


 「・・・すみません、言い過ぎました」


 頭を下げるとディーンも、


 「いや・・・私も大きな声を出して悪かった」


 そう謝ってくれた。


 だけど私達の間にはまだ、燃え残りの様な火がくすぶって様な気がして、何だか落ち着かなかった。

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