日曜日の朝
日曜日の朝、私の一日は使用人達と予定の確認から始まった。
「10時半頃にいらっしゃる予定なので、まずはお茶とお菓子をお願いしますね。そのままお昼過ぎまでお話が続くと思うから、軽食も出して貰いたいのだけど大丈夫かしら・・・?」
2年生になってから皆が忙しくなったため、授業の合間の休み時間ぐらいしか、話ができていない。おかげで、話したい事や聞きたい事は山ほどあるのに、ずっと消化不良な気持ちを抱えていた。
新学年の初日以来、話が出来たのはクリフだけなのだ。生徒会を蹴った彼だけは、暇な私と時間が合う。おかげでお昼休みと放課後は、ほとんどクリフと二人で過ごしている。
(みんなとゆっくり話が出来るのは久しぶりだぁ。リリーの聖女修行や、ミリア達からも聞きたい事があるし)
エメライン王女のお世話係候補になって以来、ミリア達三人はあまり元気がない。せめて今日ぐらい、スティーブンの美味しい料理を食べて、楽しい時間を過ごして欲しい。
(メインで話し合いたいのは、やっぱモーガン先生の事なんだけどね)
ノエルとグローシアにも、あれ以来会えていないし、例の補習がどうだったか気になる。
(それにクリフの方も、何か進展があったかもしれない。・・・これはお昼を過ぎても終わんないかも?)
「一応、午後のお茶の用意もしておいて貰えますか?日曜日なのに忙しくさせてしまってごめんなさい」
申し訳なく思って私がそう言うと、メイドもシェフも「全然大丈夫ですよ」とにこにこ笑っている。
「むしろ、久しぶりに大人数のお食事を作るので、腕の振るいがいがあります!皆様に美味しいと言っていただける料理を作りますよ!」
スティーブンは腕をまくりながらそう言ってキッチンへ消えて行った。メイドのステラも、
「最高に美味しいお茶を淹れますわ!」
と何だか張り切っている。不思議に思う私に、マリアはくすくす笑いながら言った。
「二人ともお客様をお迎えするのが、楽しみなのですよ。普段はゆっくり仕事をさせて頂いてますから、たまに忙しいのも良いものですわ。では私もテーブルの用意をさせて頂きますね」
てきぱきと動き始める。
(そういうもんなのか・・・?)
何にせよ、皆が働き者なのはありがたい。
今日残念だったのはクラークがいない事だ。朝から外せない用があると言って、出かけて行った。お昼には帰ると言っていたから、食事は一緒に出来るかもしれない。
そんな事を考えていると突然玄関のチャイムが鳴った。
「え、誰?」
約束の時間には1時間も早い。
確認に行ったマリアが戻ってくると、
「アリアナ様、ディーン様がお見えです」
(へ?何でこんな早くに・・・)
「お通ししてください」
マリアは慌ただしく小さめのテーブルの準備をし、私はリビングの入り口でディーンを出迎えた。
「ディーン様、いらっしゃいませ。・・・ええと、どうなさったのですか・・・?」
訝しく思ってそう聞くと、ディーンはうかない顔で頭を下げた。
「朝早くから申し訳ないと思ってる。だが、どうしても君に先に話しておきたい事があるんだ・・・」
(え?)
「と、とりあえずお入りください・・・」
ディーンをテーブルに案内し、私はマリアにお茶を出してくれるようにお願いした。そしてテーブルを挟んで彼の前に座り、
「みんながいては、駄目な話なのですか?」
私がそう問うとディーンの瞳が複雑そうに揺れた。
「実は、マーリン嬢の事なんだが・・・」
(おっ?)
「彼女とは幼少期から面識があって・・・。何度か私の領に来た事もあるから・・・少し親しくしていたんだ」
おっとそうきたか、と私は思った。
リリーとディーンが結ばれない時は、ディーンはマーリンと恋人同士って言うのがテンプレだったから、きっと知り合いではあったのだろうと思っていたけど・・・。
「そうですか。マーリンさんはディーン様のご友人なのですね」
「ゆ、友人と言えるほど、付き合いがあった訳では無いのだが・・・」
ディーンの口ぶりは歯切れが悪くて、何か言い淀んでいるようだ。
「だが彼女のひととなりは、ある程度分かっていると思う。気は強いが・・・先日の時のみたいに、いきなり人を責め立てる様な人間では無いはずなんだ。それなのに・・・」
ディーンの様子を見て、私は何となくピンっと来てしまった。もしかしたら、アリアナが無理矢理に婚約する前は、マーリンがディーンの婚約者候補だったのではないだろうか?
(なるほどね・・・マーリンにとっちゃ、婚約者を横取りされた形なわけだ。そりゃあアリアナの事が大嫌いになっても仕方無いよなぁ)
マーリンの父は子爵だ。相手が公爵家じゃ対抗のしようもない。
「分かりました。ディーン様は、マーリンさんが理由も無く人を攻撃するような方では無いと仰りたいんですね?」
ディーンを責めるつもりで言ったのでは無かったが、彼は少し慌てた様だった。
「もちろん彼女が言ってた不正など、君がしていない事は分かってる。だが・・・」
ディーンが困ったように言い淀むので、私は彼を安心させるように話を促してみる。
「大丈夫です。言ってください」
「その・・・君は多分覚えていないと思うのだが、小さい頃に君とマーリン嬢が揉めた事があったんだ。それでマーリン嬢が君に悪感情を持ってしまったのだと思うんだ・・・」
私は一瞬、息を飲んだ。
(来たー!!やっぱりこれかぁ!?ディーンが歯切れ悪かったのは!)
心の中で(アリアナー!)と叫びながら、私はがっくりと肩を落とした。




