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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第五章 悪役令嬢は絡まれたくない
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貰ってばかり

 そしてその日の放課後も私はたった一人、中庭のカフェでお茶を飲んでいた。


 (やっぱり放課後もぼっちかぁ)


 空にはのんびり、ぷかぷかと雲が流れている。その長閑さが返って寂しさを増す。


 (また心配させちゃったなぁ・・・)


 午後の授業が始まる前、ぎりぎりに教室に駆け込んだ私を見て、クラスメート達は唖然としていた。保健室で借りた制服はダボダボで(アリアナの制服は極小サイズの特注なのだ)髪は生乾き、両膝には大きな絆創膏という、なかなかパンチの効いた出で立ちだったからだ。


 授業が終わった後には、仲間達は過保護なくらい心配してくれた。膝の怪我を見た時、クリフとミリアの瞳に物騒な光が浮かんだので「中庭で転んだだけです!」と必死で誤魔化した。


 (大まかに言えば嘘では無い)


 エルドラ達に足を引っかけられた事は黙っておいた。これ以上心配させたくなかったのだ。


 そして放課後になり、皆はそれぞれ生徒会やら聖女修行、エメラインのお世話へと呼び出されて行った。


 ゆえに私はカフェで暇を持て余しているというわけなのだ。


 (つ・ま・ら・ん)


 お役御免の悪役令嬢とはこういう事なのだろうか?


 リリーは聖女候補としての修行に使命感を持っているようだ。彼女が聖女になるかならないかで、この国の未来は大きく変わる。ゲームを知ってる身としては、頑張れと応援するしかない。


 ディーンは生徒会の活動に真面目に取り組もうとしている。どうもこの学園の生徒会に参加する事は、将来の皇国での要職にも繋がるらしい。


 (要は出世が約束されるって事なんだよな)


 それはクリフも同じで、特に彼はゲームでは暗いストーリーばかりだったから、未来に向けて頑張って欲しいと思う。


 ミリア達三人は、昼の水ぶっかけ事件の事もあってか、ずっと浮かない顔をしていた。あの強烈なエメライン王女の元に居るのは、何かと神経を使うだろう。


 だけど王女のお世話係を賜る事は、家の名誉やしがらみにも関わってくる。それに将来、王女の侍女にでもなれたら大出世だ。


 (これはもう、後ろで旗振って応援しないといけないっしょ!)


 だけどやっぱり一人はつまらなかった。テーブルに授業のノートを広げてはいたが、今までは勉強も皆と一緒にしていたので、なんだか身が入らない。


 (この私が、勉強する気にならんとはね・・・)


 世も末じゃと、私はテーブルの上に突っ伏した。


 (ノエルとグローシアはどうしてんだろ?放課後なら会えると思ったんだけどなぁ・・・)


 何故だか二人も姿を見せない。


 私は溜息まじりにテーブルに頭を乗せたまま、しばらくの間、流れていく人を目の端でぼんやり眺めていた。すると向かい側の椅子がギシッと鳴り、誰かが座る気配がした。


 (ん・・・?)


 混んでるから相席ですかね?と思いながら目線を上げると、向かいの席でクリフがウェイターにお茶とお菓子を注文している。私は驚いて頭を上げた。


 「えっ、えっ、クリフ様!?生徒会はどうしたのですか!?」


 だってまだ授業が終わって30分も経っていないよ。


 「興味ないから、断ってきた」


 そう言って、私に笑顔を向けた。周りにいる者全てを虜にするような、極上の微笑みだ。


 (ぐはっ・・・)


 胸を押さえて急いで顔を逸らせる。


 (やめてくれ・・・美形のキラキラした笑顔は、疲れた心には眩し過ぎる・・・。それに何だかヤバいこと言ってなかったか!?)


 必死に気を取り直し、私はクリフに注意を促す。


 「こ、断ったって・・・あのですね!この学園の生徒会って、入りたくたって誰もが入れるわけでは無いのですよ?色んな特権も与えられるし、将来の出世も約束されるし、皆が憧れる役職なんですよ!?」


 「ああ、そうらしいね」


 クリフはあくまで飄々としている。


 (だ、大丈夫なんか!?この人!)


 私は頭を押さえた。


 「それ断っちゃうなんて駄目ですよ!クリフ様は大人になったら侯爵家を継ぐんですよね!?」


 「ああ、侯爵家は継ぐし、ちゃんと働くよ。でも出世は興味ないし・・・」


 クリフは私の方をじっと見つめた。


 「生徒会より、君と居る方が楽しいからね」


 (うっ!クリフってば・・・)


 欲が無いのにも程があるでしょう!?


 私は溜息をついて、ジットリした目をクリフに向けた。

 

 「もしかして私が一人なのを、気にしてくれました?」


 「そうだったらどうする?」


 「責任取れないです」


 「いいよ、そんなの取らなくて。俺が好きでやってる事だから」


 そう言って、全く曇りの無い笑顔を向けるもんだから、私も思わず笑ってしまった。


 「まったくもう・・・普通、友達だからって、ここまでしませんよ?」


 「友達か・・・そうだね」


 「そうですよ。クリフ様は友情に厚いタイプだったのですね」


 ゲームの中では闇落ちしてたから、彼にそう言う面があるとは新鮮だった。


 (良い奴だよねぇ。それに思ってたよりずっと明るいし。・・・もしかしてこれが元々の性格なのかな?知ってたらゲームの時、攻略するの諦めなかったんだけど)


 エンディングでヒロインとの素敵なイラストが見れたのかもしれない。


 「でもさ、アリアナ嬢。俺はノエル相手なら、こんなことしないよ」


 「えっ、どうしてです!?」


 (はて?どういう事だ?ノエルはクリフの親友だよね?)


  私は首を傾げた。


 「・・・もしかしてノエル様が男性だからですか?」


 「それは・・・うん、一部は正しいかな?」


 (男は自分で何とかしろって事?・・・なるほど、クリフはフェミニストなわけだ。そう言えば湖の遠足の時とか、色々と助けてくれたもんな)


 私が一人で納得していると、クリフはくっくと笑って、


 「君って普段、頭が切れるのに、ある事に関してはとんでもなく鈍いよね?」


 (む!なんですと?)


 微かな引っかかりを覚えて、私は反論した。


 「それは聞き捨てならないですね。私のどこが鈍いのですか?どちらかと言うと、自分では目端が利く方だと思っているのですが!?」


 そう言うと、クリフは本格的にお腹を抱えて笑い始めた。なんでいきなり笑い上戸の発作起こすかな!?


 私がムスッとして頬を膨らますと、クリフは目じりの涙を指で拭いながら、「ごめんごめん」と言った。


 「俺はさ、そういう所も気に入ってるけど、ディーンは困ってるみたいだよ・・・?」


 「えっ!?ディーン様も私の事を鈍いと思ってるのですか!?」


 それはショックだった。二人にそう思われてるのだとしたら、今まで気づかずに、何かやらかしてきたのかもしれない。


 (そう言えば、たまにディーンって急に機嫌悪くなったりするよね・・・?)


 私は思わず椅子から立ち上がった。


 「さ、差し支えなかったら教えてください。私、お二人の気に障る事を、何か仕出かしてきたでしょうか?」 


 (もし、そうだとしたらマズいじゃん!知らずに誰かを傷つけてたのかもしれない・・・)


 私があんまり真剣に聞いたからだろうか?クリフは笑いをひっこめた。そして、


 「大丈夫。してないよ」


 「で、でも・・・!」


 「俺は君からは、いつも貰ってばかりだ。君といると楽しい。だから一緒にいるんだ。ディーンだってそうだよ」


 そう言ってふわりと笑った。そのあまりの自然な口調と、真っすぐな目にドキッとして、私は思わず目を伏せた。

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