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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第五章 悪役令嬢は絡まれたくない
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上等!

 (ゲームの設定では、リンってディーンが好きなんだよなぁ・・・)


 リンはディーンに昔から憧れていた。だから、ディーンと無理矢理婚約したアリアナを、良くは思っていないのだ。

 それに、昔のアリアナはきっとリン(マーリン)に対して、色々やらかしてるはず。


 (あ~もう~!それを考えると、頭が痛いっての!事によってはちゃんと謝らないとなぁ)


 どうして私が?とも思ったが、今は自分がアリアナなのだ。


 さっきは成績に対する不正を疑われたから、つい腹が立って反撃してしまった。だけどもしマーリンが昔のアリアナの被害者だとしたら、アリアナを責めるのも無理は無い。


 それに本当なら2年生になった時点で、アリアナはディーンに婚約破棄され、しかもクラスだって違ってたはずなのだ。その場合リンのアリアナに対する悪感情も少しはマシになっていたんじゃないだろうか。


 (でも私は今もディーンの婚約者のままなんだよなぁ)


 しかも魔力ゼロのくせに、テストの成績が良いからと上級クラスに進級してる。


 昔のアリアナを知ってるマーリンからすると、納得できないかもな。だからイコール不正ではないかと考えるのも致し方ないのかもしれない。


 おまけに友達になりたいと思ってたリリーと、アリアナがやたら仲良しになっているときたら・・・、


 (そりゃ、イラつきマックス。アリアナ嫌いのボルテージも上がるよな・・・)


 ゲームの設定的には、とても良い子のはずなのだ。


 だってリリーがディーンと結ばれた場合、彼女は涙を隠しながら、二人を祝福していたくらいなのだから・・・。


 (はぁ・・・どうしたもんか・・・)


 ディーンが自分も通常クラスに行くと椅子を立った時、マーリンが一瞬泣きそうな顔をしたのを私は見てしまった。辛い思いをしただろうと、こっちまで切なくなってくる。


 (これって私のせいなのだろうか・・・?)


 いやいや、違うよな・・・と思いつつも、じくじくした罪悪感が胸に広がる。


 何故ならゲームの中で、リリーがディーン以外と結ばれた場合には、どのルートでも最終的にはリンがディーンの恋人になっていたから・・・。


 私はサンドイッチが入っていた袋を、力無く両手でくしゃりと潰した。



 食事も終わったし、一人で座ってるのもつまらない。中庭をぶらぶら散歩しようとベンチを立った時だった。


 「うげぇ・・・」


 タイミングの悪さに思わず声が漏れた。なぜなら真っ正面から、エメライン王女ご一行様が歩いてきたからだ。彼女を先頭に、ずらっと後ろに10人ぐらい引き連れている。


 (それにしても、さすが一国の王女様だわぁ)


 兎にも角にもエメラインのオーラが半端ない。射る様な輝きと言ったら良いのだろうか・・・同じ制服を着ているのに、滅茶苦茶スタイルが良いし、身のこなしも品が良くて隙が無い。長く伸ばした赤褐色の巻き毛は、太陽の光の下で神々しくさえ見えてきた。


 (ゲームのイラストでも迫力あったけど、生で見ると威圧感が半端無い)


 学園内では身分の差を問わないとは言え、あくまでそれは建前だ。彼女達が通る時、皆が立ち止まって道を譲り礼をしている。


 知らぬふりして逃げようかとも思ったが、ここまで近くだとワザとらしくなりそうで、仕方なくベンチの横に立っていた。


 エメラインに付き従っているのは、お世話係候補の人達だろう。皆それぞれ花束や水差し、お菓子の箱などを手に持っている。よく見ると一番後ろの方にミリア達の姿も見えた。彼女はティーポットを両手で持っている。


 (サロンにでも、行くのかいな?)


 皇族や王族は専用のサロンを持っていると聞いた。


 (おっと!)


 エメラインがちょうど前を通りかかったので、私は慌てて腰を少し屈め、頭を下げた。すると、


 (ん?)


 通り過ぎるはずだったエメラインの足が、私の前でピタリと止まったのだ。


 (な、何で?)


 頭を上げるわけにもいかず、戸惑いながら中腰のまま固まっていると、


 「水差しを、こちらへ」


 と言うエメラインの通る声。そして私が疑問に思う間も無く、頭の上から水が降ってきた!


 「つ、冷たっ!」


 「ア、アリアナ様!」


 「きゃあ!」


 ミリアとレティの悲鳴が聞こえた。


 髪をつたって、滴がぽたぽたと芝生に落ちていく。制服も肩からびしょ濡れで、首筋から服の中まで水が染み込んできた。


 あまりの事に、私が呆然としていると、


 「あら、失礼。そこの花に水をあげようと思いましたら、手が滑ってしまいましたわ」


 顔を上げると、口元に笑みを浮かべたエメラインと目が合った。


 (・・・人に水ぶっかけといて、何笑ってんのさ!?)


 私が目を逸らさないのを見て、エメラインは一瞬睨むように目を細めた。でも直ぐに口元を歪めるように笑うと、


 「ああ、そうだわ。お詫びにこれを差し上げましょう。ジョージア、ここへ」


 ジョーはエメラインに呼ばれて、眉をしかめた。


 「エメライン様・・・でもこれって・・・」


 「良いから早く、こちらへ持ってきなさい!」


 渋々という風に、ジョーが手に持っている箱を持ってきた。ジョーはチラチラと私を気づかわしそうに見ている。


 エメラインはジョーの持っていた箱を手に取り、私に押し付けた。


 (・・・何これ?)


 箱の中を見ると、紙屑やらお茶のカスなどが入っている。


 「わたくし達サロンを引っ越す事にしましたのよ。ちょうど屑入れを新調しようと思っていましたの。ですから今まで使っていたのは、あなたに差し上げるわ。大事になさって」


 あごを逸らして「おほほほほ」と笑うと、エメラインは何事も無かったようにまた歩き出した。


 「アリアナ様!」


 ミリア達三人が私に駆けつけて、ハンカチで髪を拭いてくれる。だけどそれに気づいたエメラインは振り向きもせず、


 「ミリア、レティシア、ジョージア。早くいらっしゃい」


 と優しげ口調だが、逆らう事を許さない雰囲気を漂わせた。


 ミリアは青ざめて唇が震えている。いつも明るいジョーも口を引き結んだ。レティはもう泣いている。


 「何をしているのかしら?早くいなさい」


 エメラインの声に、少しだけ厳しさが加わる。


 私は声を潜めて、エメラインに聞こえない様に素早く言った。


 「私は大丈夫ですので、早く行ってください」


 三人は逡巡しながらも小さく頷いて、何度も振り返りながらエメラインの元へ戻って行った。私は三人に笑顔で手を振った。


 「ふう・・・」


 彼女達の姿が消えてから、改めて自分の状態を確認する。上半身はびしょ濡れで、手には使い古されたゴミ箱だ。


 「まったくもう・・・」


 このままじゃ午後からの授業が受けられない。保健室でタオルと、何か着替えを借り無くてはと歩き出した時に、私の足が何かに引っかかった。


 「う、うわっ」


 ゴミ箱を持っているせいで、手を付く事も出来ず、思いっきり転んでしまった。肩と膝を地面に強く打ちつけてしまい、かなり痛い。


 (痛ったぁ・・・なんで?)


 痛みに顔をしかめながら体を起こすと、ダンスパーティの時にやりあった、あのエルドラ達が私を見下ろしていた。


 「あら、公爵令嬢様は地面で寝るのがお好きなのかしら」


 「いやだわ、まわりにゴミが散らばってましてよ」


 「大丈夫ですかぁ?お得意の権力でなんとかなさったら?」


 そう言ってくすくす笑いながら行ってしまった。


 (は?)


 間違いない!あいつらが私に足を引っかけたのだ。


 私はゆっくりと立ち上がって、土で汚れたスカートを払った。そして自分の様子を確認する。


 打ちつけた肩はずきずきするし、膝からは血が流れている。そして私の周りはゴミだらけだ。


 (なるほど・・・)


 私は濡れた髪を片手でかき上げて、腰に手を当てた。


 「ふん、上等じゃないの!」


 (これくらで私がへこむなんて、思うなっての!)


 急いで散らばったゴミをかき集めて、私は保健室に急いだ。午後の授業に遅れる訳にはいかないのだ。優等生の名に懸けて!

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