ゲームの登場人物
クリフの言葉にクラス中が呆気に取られた。それは私も同じで・・・
(う、うそ・・・クリフってばやさし・・・)
ちょっと感動してしまった。だけどクリフだけでは無かった。
彼に続く様に次に立ち上がったのはミリアだった。
「では、私も普通クラスに行きます!」
ミリアは眉を吊り上げてマーリンをギッっと睨みつけた。
「上級クラスで学びたいとは思いますが、アリアナ様がいる所の方が、高度な学びができそうですもの」
すると今度はリリーがスッと立ち上がった。
「先生、私もアリアナ様と一緒に参ります」
リリーは私に笑みを向ける。
(ミリア!リリー!?)
「ほいじゃ、私もそうしよっかな」
「わ、わたくしも!」
ジョーとレティも立ち上がった。
「みんな・・・」
マーリンのせいで、もやもやしていた心が、ほわっと温かくなる。
(うわぁお!もう、友情最高!なんて良い友達なのよ、みんなって!)
そしてずっと冷静に私とマーリンとの攻防を見ていたディーンも、溜息をつくと立ち上がった。
「マリオット先生、私も通常クラスに行きます」
「ディーンが行くなら僕も行こうかな?」
興味無さそうに外を見ていたパーシヴァルまで立ち上がった。
1年次の上位成績者のほぼ全てと、第二皇子まで立ち上がったので、クラスメート達の混乱はますます増した。
「えっ!クリフ様やディーン様も?」
「おい、リリー嬢が移動するって言ってるぞ・・・」
「パーシヴァル殿下までっ!?」
「せっかく神セブンと同じクラスになれたのにぃ」
「可愛い子いなくなるじゃん・・・」
「ちょっと、どうしてこんな事になったのよ!?」
と段々と周りの声も大きくなってくる。そして、一人の男子が手を上げた。
「先生。僕はアリアナ嬢と去年同じクラスでしたが、彼女は確かにクラス一の秀才でしたよ。彼女の成績に不正など考えられません!」
それを聞いて女生徒の一人も手を上げた。
「私もそう思いますわ!クラスで誰も解けない問題も、この方だけはいつも出来てましたもの」
1年生の時のクラスメートだった人達だ。一緒に授業を受けていた人は、皆分かっているのだ。
こうなってくると、最初は私の不正について不審そうな目を向けていた生徒達の矛先が変わった。今度は口々にマーリンに対する不満が出て来たのだ。
「ねぇ、マーリンさんが違うクラスに行けば良いのじゃ無くて?」
「成績上位者がいなくなったら、このクラスどうなるのよ!?」
「そうだよ。この学園で不正なんてあるわけないよ」
「マーリンさん、聖女候補になってからって、少し調子に乗ってるんじゃない?」
(えっ!?)
生徒達の声の中に聞こえた言葉に私は驚いた。
(聖女候補!?マーリンが!?・・・マーリンって・・・もしかして!)
私はどうして彼女に見覚えがあったのか、やっと思いした。
(そうか分かった!この子の正体。この子ってば『リン』だ!)
ゲームの第2部での主要人物の一人。『リン』とはリリーの親友となる少女なのだ。
(説明書にフルネームが無かったから、気づかなかった)
『リン』とリリーの出会いは、2年生で同じ上級クラスに入ったところから始まる。
それまでアリアナのせいで友人の居なかったリリーは、彼女と出会ってやっと友達ができる。正義感が強く、頼りになるリンはゲーム内でも色々と助言をくれて、ゲームの進行を助けてくれるのだ。
そして彼女も光の魔力を持つ聖女候補である事から、修行の時なんかも互いに助け合って、次第に親友になって行くのだけど・・・
(今朝の始業式で紹介されてたんだっけ?・・・しまった、後ろの方に居たから良く見えなかったんだよなぁ、背低いし。それに周りの声も大きくて、あまり聞こえなかったし)
それにしてもゲームでの『リン』はこんなに攻撃的な性格だっただろうか?活動的でハキハキした性格ではあったが、明るくて優しい子だったはずだ。
最終的にリリーが聖女になった時だって、笑って祝福してくれる子だったのに・・・。
( ・・・なんでだ?どうしてあの『リン』に、私がこんなに敵意を持たれなきゃいけないわけ?)
これも私が悪役をやって来なかったからだろうか・・・?もしかして色んな所でバグみたいな現象が起きてる?・・・ダンスパーティの断罪の時みたいに・・・
教室内はもう喧騒状態だ。あまりにも騒がしいからか、隣のクラスの先生も様子を見に来ている。
いつの間にか孤立無援になったマーリンは、青ざめて顔を引きつらせていた。
「み、皆さん、ちょっと静かにしてください!お、落ち着いて!クラスの選定はもう決まった事です!そんな簡単に移動はできません!」
さすがに優しいマリオット先生も、厳しい声でそう言った。
「座ってください!さぁ、アリアナさんも。・・・それからマーリンさんは授業の後で話があります。放課後残る様に!」
マーリンは青い顔で悔しそうに唇を噛みしめながら「・・・はい」と言って椅子に腰を下ろした。
その後の授業は全然頭に入ってこなかった。
そして昼休み時間になり、今ボッチ飯を堪能している訳だ。
ディーンとクリフは生徒会室。リリーは聖女候補の特別授業。ミリア達はエメラインのお世話の為、昼食もそちらで摂る事になっている。
(みんな、心配してくれてたなぁ)
申し訳なさそうに教室を離れていく彼らに、私は笑って手を振るしか出来なかった。
でも考え事する時は、一人でいるのは悪くない。私はリン・・・マーリンのゲーム内でのエピソードを思い出していた。
(彼女はアリアナのイジメを受けていたリリーに、最初に出来た女友達だった。二人は同じ聖女候補で、卒業まで助け合ったり、励まし合ったりと最高の親友同士だった)
ゲーム中、エメラインからの嫌がらせを庇ってくれるのもリンだ。
(そう言えば、2年生になっても、たまに嫌みを言いに来るアリアナからも、リンは守ってくれてたっけ)
正義感の強いリンは、傲慢で高飛車で意地悪なアリアナを心底嫌っていた。
(でも今の私はリリーを虐めてない。だからアリアナを嫌うのには他に理由があるはずなんだよなぁ・・・てことは)
多分、彼女は前のアリアナ知っているのだ。きっとこの学園に入る前に、彼女に会ったことがあるのだろう。アリアナが成績で不正をしたと思い込んでいたのも、それなら頷ける。ゲームのアリアナは全く勉強が出来なかったのだから。
正義感が強くて真っすぐな彼女の性格なら、ますます許せなかったはずだ。
そして私はリンが私を嫌う理由に、もう一つ心当たりがあった。
(というよりきっと、これが一番の理由だろうなぁ)
私は一人、額を押さえたて溜息をついた。




