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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第四章 悪役令嬢は目を付けられたくない
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完璧皇子と悪役王女

 ホールに戻るとディーンとリリーのダンスは終わっていた。私は何となくホッとした気分で息を吐いた。


 「どうする?俺は飲食スペースに行くけど・・・」


 ダンスに誘われるのが億劫なのだろう。クリフはそう言ったけど、


 「私は、ちょっと兄を探してきます。グローシアがちゃんと兄と踊れたのか心配なので」


 「大丈夫?」


 「もちろんです!誰かに絡まれても私は気にしませんから」


 クリフがそういう意味で聞いたのでは無いと分かっていたが、私はあえてはぐらす。


 「分かった。じゃ何かあったら直ぐに行くから」


 クリフは苦笑しながら離れて行った。


 (何かあったらって・・・どうやって分かるんだ?そう言えば、さっきの騒ぎの時も一番先に助けてくれたけど・・・)


 盗聴器でも仕掛けてんのかな?まさかね・・・


 私は踊ってる人達を眺めながら、ホールの壁際を歩いた。兄を探すと言ったのは言い訳だった。飲食スペースにはきっとディーンとリリーが居るだろう。何となく彼らと顔を合わすのが気まずかったのだ。


 一瞬の事だったし、ゲームのディーンのルートみたいに二人が思い合ってる訳では無いのだろうけど・・・


 (あんな風に泣くなんて・・・まるで二人を見て傷ついたみたいじゃ無いか・・・)


 それは二人に申し訳ない事だと思った。だって彼らは私の大事な友人なのだ。ディーンはリリーが好きなのだから、思いが通じるのは喜ばしい事ではないか。友達としては祝福すべき事なのだ。


 (きっとクリフは誤解したんだろうなぁ。まぁそりゃそうか・・・)


 だから、別れ際に『大丈夫か?』と聞いたのだ。


 (よく考えると大丈夫じゃないぞ・・・私はアリアナの『恋心』を舐めてたかもしれない!)


 夏休みにイルクァーレの滝で、アリアナはディーンに別れを告げた。ゲームのアリアナからは考えられない事だ。


 (アリアナはこの身体の中で、私が経験する事を一緒に体感しているんだ・・・。多分それが彼女を良い方向へ成長させたのだと思う)


 でもアリアナはディーンに自由を返したけれど、彼を想う気持ちが消えた訳では無い。今でも彼にがっつり恋してるとしたら・・・?


 「くそう・・・イーサンめぇ、私にこんな爆弾残していきやがって・・・」


  ぼそっと口に出てしまった呟きが聞こえたのか、隣に居た女子がビクッとして怪訝そうにこちらを見た。


 「あ、あら失礼。なんでもありませんわ、おほほほほ・・・」


 笑って誤魔化して急いでその場を離れる。


 (もしイーサンの言った通り、私とアリアナが溶け合ってきているのだとしたら、彼女の好きな人を、私も好きになってしまう可能性があるってこと?マジかよ・・・もしも・・・彼女のディーンへの執着が、私の執着になってしまったとしたら・・・)


 サーっと全身から血の気が引く思いがした。


(じょ、冗談じゃない!そんなの絶対駄目だって!折角ディーンとも普通に話せるようになって、良い友人になれたって言うのに)


 正直自分がアリアナの様になってしまうとは思わない・・・思わないが彼女に引きずられてディーンを好きになるなんて、それは絶対アウトな事だ。そんなのはディーンとの友情に対する裏切りだろう。


 (き、気を付けなくちゃ・・・。ディーンだけは絶対に好きになっちゃいけない!)


 だってアリアナと私、どっちの気持ちか分からないのだから。


 そんな考えに没頭しているうちに、私は広いホールを半周くらいしていた。曲が終わってパートナーチェンジの為に、辺りはざわざわしている。


 ふと見ると兄のクラークが、真っ赤になっているグローシアの手を取っているのが見えた。良かった。ちゃんとクラークを捕まえる事が出来たようだ。


 すると突然ホールの中央で、ワッと言う一際大きな歓声が聞こえた。どうやらさっきのディーンとリリーの様な、ビッグカップルが現れたようだ。


 (誰だ?どれどれ・・・)


 ついつい野次馬根性が出てしまい、人混みをかき分けてみる。するとそこには長身の金髪の男子と、燃える様な赤い髪の女生徒が手を取り、ダンスを始める所だった。


 二人ともかなり目立つ美男美女。男子生徒はここに居る誰よりも、威厳があってオーラが半端ない。それに女生徒の方は、自分の美貌に自信があるのだろう、堂々とした態度だ。そして学生とは思えない程グラマラスで、胸が大きく開いたドレスが良く似合っていた。


 (うおっ!こ、この二人は、もしかして!)


 私は二人の正体に思い至った。


 (皇太子トラヴィスと婚約者のエメライン!?)


 二人ともゲーム内における2部での主要人物だ。トラヴィスはヒロインの大本命の攻略対象だし、エメラインと言えば、1部でアリアナが退場した後の、真正本家本元の悪役王女なのだから。


 (さっすが二人ともゴージャスだねぇ。それにエメラインの存在感ときたら・・・)


 モブの悪役とはえらい違いだ。


 設定では皇太子はあまりエメラインの事を良く思っていない。隣国の王女である彼女は気位が高く、時に相手に対して攻撃的になる。


 エメラインは光の魔力の持ち主だから、リリーが2年生となった時に共に聖女候補となる。聖女候補はもう一人いるが魔力が少ないから、有力なのはリリーとエメラインだ。

 

 聖女となる為の修行の途中で、エメラインはリリーに、多種多様に嫌らしい攻撃を行って来る。そして攻略対象が皇太子トラヴィスとなった場合、特にその苛烈さは凄まじくなるのだ。


 エメラインに比べたら、アリアナの嫌がらせなどアリに踏まれる様なもんだ。


 (そりゃ自分の婚約者を略奪されるってんだもん、そうなるわな。・・・そう言えばアリアナもそっか・・・)


 この乙女ゲームが意外と過激だ。


 命を狙われる様なイベントも度々発生するから、出来ればリリーにはトラヴィスのルートは避けて欲しいのだが・・・


 (皇太子がねぇ・・・これがまた、完璧皇子様だからなぁ)


 攻略対象者の中で最も身分が高く、能力値も高いトラヴィスは、人気キャラクターだ。ゲームのパッケージでも中心に描かれていたくらいだから、製作者側も大本命とみなしているのだろう。


 高身長の金髪美形、性格も温厚で爽やか。勉学もスポーツも魔術においても、他者の追随を許さない。とにかく完璧君なのである。


 (うーむ、リリーがトラヴィスに会ったら、惹かれないと言う保証はないなぁ・・・というか十分に可能性はあるぞ)


 そうなったら、リリーをどうやって守ろう?


 親の権力と金はあるが相手は王女で、しかもアリアナよりも数ランク上の悪役王女なのだ。

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