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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第四章 悪役令嬢は目を付けられたくない
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恋なんてしたことない

 ディーンとリリーの二人がくるくるターンする度に、周りには光が溢れる様だった。さすがリアル!ゲームのイラストでは味わえない醍醐味だ。


 (ほわ~~~~)


 魅せられたようにぼーっと見ていたら、隣にクリフが立つ気配がした。


 「気になる?二人が」


 「ええ、もちろん!無茶苦茶お似合いだなぁって思って・・・」


 (あ、このセリフは婚約者としてはマズいかな・・・?でもクリフだったら良いか)


 「身長もピッタリですし、完璧です!私よりもリリーの方が・・・」


 ディーンに相応しいと言おうとした時、胸がギュッと痛むのが分かった。


 (何・・・?なんだか辛い)


 一瞬(アリアナ?)と思ったけれど、それだけでは無い事に気付いた。


 (うそ・・・もしかして今、胸が痛かったのは『私』!?)


 正直な所、どちらの感情だったのか良く分からなかったのだ。


 (どうして!?そんな馬鹿な・・・)


 その瞬間、思い出したのはイーサンの言葉だった。


 ――――もう一人は弱いから、お前に抑え込まれてるんだ。それに、もう半分以上溶け合っている


 (まさか・・・嘘でしょ!?)


 アリアナの『恋』が私の心に溶けてきている?


 背中にゾッと悪寒が走った。


 「アリアナ嬢・・・」


 クリフが小声で私の耳元でささやいた。そして、私の顔の前に、私の目を隠す様にして手をかざした。


 「外に出よう。今なら誰も見ていない」


 誰もがディーンとリリーのダンスに夢中になっていた。


 私はクリフに引っ張られる様に、テラスから中庭に出た。夜も更けて、空気がさらに冷たくなった。人影も少なくなり、居るのは人目を忍ぶカップルばかりだ。


 クリフは私をベンチに座らせると、ハンカチを取り出して私に渡した。


 「・・・なんですか?」


 「気づいて無いのか?」


 (えっ!?)


 そう言われて初めて分かった。私の目から涙がこぼれていたことを。


 「う、嘘・・・」


 慌てて渡されたハンカチで涙を拭う。


 (有り得ない。こんなの初めてだ。何なの?これってアリアナ、あなたが泣いてるの?)


 なんだか良く分からなかった。前にアリアナがこの身体を使った時は、彼女の存在をはっきりと感じられたのに・・・。


 (本当に、溶け込んでしまった?アリアナが私に!?)


 「・・・なんで?どうして?」


 混乱するばかりで、イーサンのあの言葉がぐるぐると頭を駆け巡る。動揺のせいか、ハンカチを持つ手が震えた。そんな私を見て、クリフは私の前にしゃがんで目線を合わる。そして震えを抑える様に、そっと私の手を握った。


 「ディーンとリリーを見るのが辛かった?」


 「い、いいえ、違います!そんな筈は無いのです。そんな・・・」


 (だって、私は違う!ディーンの事は友達で・・・私はアリアナとは・・・)


 かぶりを振る私の手を、クリフはぎゅっと強く握った。


 クリフの手の温もりがじわじわと伝わってくるのが分かった。目を合わせると、私を覗きこむ紫の瞳が奇麗で、見ていると安心できる。


 (そうだ・・・。パニック起こしててもしょうがない。落ち着け!)


 私は気持ちを落ち着かせるために、ゆっくりと呼吸をした。心臓の動悸が少しずつ収まっていく。


 「すみません。大丈夫です。ご迷惑をかけました・・・」


 私がそう言うと、クリフは立ち上がってゆっくりとベンチの隣に座った。手は握ったままで、そこから気遣う様な優しさが伝わってくる。


 「・・・寮に帰るかい?送って行くよ?」


 「いえ・・・皆に黙って帰ると、心配かけますから」


 ホールに戻りますというと、クリフは心配そうに眉を寄せた。


 「もう、大丈夫です。落ち着きました。・・・クリフ様、この事は内密にお願いできますか?」


 「いいけど・・・」


 もう涙は乾いた。それに今はディーンとリリーの姿を思い返しても、さっきみたいに心が痛む事も無い。あの一瞬の突風の様に駆け抜けた感情は、いったい何だったんだろう?


 「違うのです・・・。あんなの私では無いのです・・・。だって私は・・・」


 誰かに恋なんてした事無いのだから。


 (アリアナの恋心に、ちょっと巻き込まれたか・・・まいったな)


アリアナはディーンに関する事だけは私を超えてくる。体も心にも作用してくるとは・・・


「ありがとうございました、クリフ様。・・・その・・・恥ずかしい所を見せてしまいました。あれはなんでも無かったのです。え~っと・・・多分二人のあまりの美しさに感動してしまいまして、それで・・・」


 クリフはあたふたと言い訳する私の頭に、ふわりと手を置いた。そして、


 「聞いて」


そして真っすぐに私の目を見て言った。


 「俺は何があっても君の味方だから。・・・君がこれからどんな選択をしても俺はそれを尊重するし、そばに居て君を守るから・・・」


 「クリフ様?」


 「友達だからね。俺達は」


 ウィンクしながらそう言って笑った彼の顔は、気のせいか少し寂しそうだった。

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