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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第四章 悪役令嬢は目を付けられたくない
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アドバンテージ

 私達はしばらく中庭を眺めながらテラスで雑談をしていた。だけど3月の夜の空気はまだ少し冷たい。


 (ちょっと肌寒いくらいだな)


 それにさっきクリフを取り囲んでいた女子達はまだこっちを見ている。そこからも冷たい空気が漂ってくるような・・・


 (そ、そろそろ中に戻ろうかな・・・)


 ブルっと身体を震わせる。するとクリフに尋ねられた。


 「寒い?」


 「あ、いえ・・・まぁ、少し」


 (女子の目の方がね)


 「ディーンとはもう踊ったの?」


 「あ~ええ、先程踊りました。大分、周りから色々言われましたが・・・」


 「色々?」


 クリフが怪訝そうな顔をする。


 「その~、凸凹カップルとか、大人が子供にダンスを教えているとか・・・」


 クリフはブッと吹き出し、手すりに乗せた腕に顔を伏せて身体を震わせた。また上戸が止まらなくなったようだ。


 (なんて失礼な・・・)


 「笑いすぎですよ・・・。別に良いですけどね、本当の事なので」


 ため息交じりにそう言うと、クリフはまだ笑いを堪えながら顔を上げた。そして何故か私に右手を差し出した。


 (ん?)


 「アリアナ嬢、俺と踊って頂けますか?」


 (は?)


 「はぁ!?」


 思わず大きな声を上げてしまい、急いで私は口を押えた。そして声を潜めて、


 「ちょ、ちょっとクリフ様!さっきダンスは苦手だって言ってませんでした?しかも男性が断るのはタブーなのに全部断ってたじゃないですか!?」


 「見てた?」


 ペロッと舌を出して笑った顔にドキッとなる。


 (顔が良いと、どんな仕草もサマになるのか・・・)


 不意打ちだと特にヤバい。私は気持ちを落ち着かせながら、


 「ここで私が受けたら、彼女達の反感を凄く買ってしまうと思うのですが・・・」


 「でも、そんなの君は何とも思わないだろ?」


 「思いますよ!?」


 (めんどくさいじゃん!)


 「でもそんなに気にしないだろう?」


 そう言われて返答に詰まった。


 (・・・全くもう、クリフって・・・)


 私は思わず笑ってしまい、諦めて彼の手を取った。


 「良く分かってますね」


 クリフは私をエスコートしてホールに戻りながら、


 「君の事だからね」


 と、囁く様に優しい声で言った。



 ダンスホールはさっきよりも人が多くなっている。ゆっくりとステップを確認しながら、私達は踊りの輪の中へ入って行った。


 そしてクリフは私をリードしながら、不思議そうな顔で聞いて来た。

 

 「さっきは、どうして逃げなかったんだ?」


 「えっ?」 


 「殴られそうになった時、わざと動かなかっただろ?」


 (ああ、エルドラとのやつね)


 「気付いてましたか・・・」


 私は苦笑しながら答えた。


 「ああいう時は、殴られといた方が、後からアドバンテージが取れるかと思いまして・・・」


 クリフはプッと吹き出して「君らしいな」と言ったが、直ぐに真顔になった。


 「あまり無理をするなよ。怪我をしていたかもしれないんだ・・・」


 「あはは、そうですね。気を付けます」


 ダンスが苦手だと言っていたくせに、クリフのリードはディーンと負けず劣らずに上手だった。やはり身長差があるから踊りにくいと思うのだけど、そういう素振りは微塵も感じさせない。


 クリフは私をくるりと回して、


 「おかげで俺は君を助けられたから、ラッキーだったけどね」


 「えっ?」


 「俺も、少しはアドバンテージが欲しいだろ?」


 (・・・えーっと・・・どういう意味だろう?)


 「でも結局、またディーンに持っていかれたけどな・・・」


 と笑いながら軽く溜息をついた。


 「は、はあ・・・」


 (何を持っていかれたんだ?)


 クリフの言う事はたまに良く分からない。


 そろそろ曲が終わりそうになって、私は「あっ」と思い出して慌てた。


 「そう言えばクリフ様!曲が終わると女子が突進してきますよ。早めに逃げた方が良いです!」


 「ん?」


 「ダンスの申し込みですよ!さっきディーン様やパーシヴァル様も取り囲まれてましたから」


 「・・・なるほど。OK、じゃ飲食スペースの近くへ移動しよう」


 そう言うとくるくると踊りながら、人混みを避けつつ器用に場所を移動していく。


 (苦手どころか、相当ダンス上手くない?この人・・・)


 それに上手いだけじゃない。身体の動き全体が優雅で品がある。一緒に踊りながらも見惚れてしまうくらいだ。


 それを証拠に先程まで聞こえていた女子達の陰口が、全くと言って良い程無くなった。さっきまであんなに聞えよがしに言ってたのに。


 (皇族の血筋ってのもあるのかなぁ?そこに居るだけで周りを魅了する感じなんだよね。・・・こうなると最早魔術並みだな、うん。そう言えばリリーなんかもそうだよね)


 何と言ってもヒロインだ。


 曲が終わるまでになんとか飲食スペースにたどり着いて、私達はセーフティーゾーンに入った。


 (良かった、間に合ったぁ・・・)


 女子達の悔しそうな目が突き刺さる。


 クリフは椅子に座ると、さっそく飲み物を頼んでいた。


 「アリアナ嬢、君も何か飲む?」


 「あ、はい、ありがとうございます。ではお水を・・・」


 と椅子に腰かけた所でホールから突然、ザワッと人が沸く声がした。振り向いてみると、


 (お、おおっ!)


 ホール中央付近でディーンとリリーが踊っている姿が見えた。二人とも見事なダンスで、周りで踊っているカップル達も足を止めて見入ってしまうくらいだ。


 (す、凄い、凄い!!ゲームのシーンのまんまだよ!リアルで見られるなんて!)


 私は思わず興奮して立ち上がった。


 ダンスの上手さだけでは無い。二人の容姿の美しさにも周りは息を飲んでいる。私とディーンが踊っていた時は、やっかみの嵐だった女生徒達も黙ってしまっていた。


 (やっぱりお似合いだよ。美しーっ!ゲームやってた時も、一番カップルバランスが良いって思ってたんだよね!)


 ゲームファンの私は、すっかり二人のダンスに目が釘付けになった。

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