でこぼこ
ホールでは生徒達がたくさん踊っている。しかしながら、ざっと見回しても私とディーンの様な身長差コンビは居ない・・・。
(1曲踊ったら、とっとと退散しよう・・・)
新しい曲が流れ始めた。ディーンは私の歩幅に合わせる様にきっちりとリードしてくれているけど、やりにくいだろうなぁ・・・。
「すみません、私の身長が低いせいでディーン様は踊りにくいですよね?」
「別に、問題ないよ。・・・ステップが上手いね」
「本当ですか!?良かったです!一カ月前から兄に付き合って貰って、沢山練習したんです」
ホッとしながらそう言うと、ディーンはくすりと笑った。
(うっ!)
この距離で、しかも見上げる恰好でイケメンに上から微笑まれる・・・。これは中々の攻撃力だった。
(ま、まぶし・・・!油断してた・・・)
ステップを踏み間違えそうになるのを慌てて立て直す。
(あ、あんまり顔見ないようにしようっと・・・あっ、でもダンスの時にそれも変かな?)
クルクルとターンしながら私はぐるぐる考えていた。
(黙っているのも気まずいな・・・なんか良い話題ないかな?)
そう言えば、と私は一つ思い出した事があった。
「あの、ディーン様?」
「ん?」
「クリフ様は大丈夫なのでしょうか?先ほどディーン様が何処かへ連れて行かれましたが・・・」
「ああ、そうだね。・・・クリフが心配?」
「はい。多分ですが『お金目的で私と友人になった』なんて言われたので、腹が立ったのでしょう。いつもと様子が違いましたもの」
「うん・・・でも彼は自分が悪く言われた事で、怒ったのではないと思うよ」
「え?そうなのですか?」
(じゃ、なんであんなに怒ってたんだ?)
「ああ・・・。でも、きっと大丈夫だよ。さっき頭を冷やしてくると言って、中庭の方へ出て行ったから。そろそろ落ち着いてる頃だと思う」
「そうですか。良かったです」
少しホッとした。
私達はまたクルリとターンする。
こんな背の低い私と踊ってたら、猫背になってしまわないだろうか?そんな事を考えていたら曲が終わった。
(やっと終わったぁ)
やれやれと言う気持ちで壁際に戻ろうとしたのだが、私の手を掴んだディーンが動かない。
(ん?)
「ディーン様?」
「もう一曲踊ろう」
「えっ?」
直ぐに次の曲が始まり、そのまま私をリードし始めた。
(ちょ、ちょっと!)
周りを見ると、曲が終わったらすかさずディーンを誘おうとしていた令嬢達が、私を睨みつけている。
「あ、あの、ディーン様!?」
「私達は婚約者同士だ。続けて踊っても、おかしくはないだろ?」
(それは、そうかもしれないけどぉ・・・)
仕方なく私はまたステップを踏み始める。だけど、どこからか聞こえてくる声が耳に入ってくるのだ。
「あの方、ディーン様を離さないつもりよ」
「なんだか随分、でこぼこなカップルですこと」
「大人が子供にダンスを教えてるみたい」
「エルドラさん達の話も、あながち嘘じゃ無いんじゃない?」
(成程ねぇ・・・。文句を言いたいのは、エルドラ達だけじゃないってことか。ディーンの婚約者ってだけで、私は結構な反感をかってるわけだ)
私は私の手を取るディーンを見上げた。さらっさらのシルバーブロンドに吸い込まれそうな濃い藍色の瞳。まるで絵画から抜け出てきたような、整った容姿だ。
(そりゃ、こんだけスペック高い人だもんねぇ。その相手がこんなつるぺたのチビじゃ、当然釣り合わないって思うわな)
・・・なんだか自分で考えた事なのに、ちょっと傷ついた・・・。
(でもさっ、こんな人に釣り合う人なんて、そうそう居ないと思うわけよ。そんなのリリーぐらいだって!)
そもそもゲームの攻略者達なんて、ヒロインにこそふさわしいのだよ。だって、そう言う設定なんだもん。
(そう言えばゲームの中で、ディーンとリリーが踊るイラストがあったっけなぁ)
それはまさにこのダンスパーティでの場面。ディーンがアリアナを断罪した後に見られる、第一部の一番盛り上がるシーンだ。
(ん?・・・て事はさ・・・うわぁ!これ生で見れたら、凄いんじゃない!?)
想像するとぞくぞくしてきた。ゲームファンとしては見逃せないぞ!私は思わずディーンに尋ねた。
「あの!ディーン様。先ほどリリーを見ましたよね!?」
「え?ああ」
「どう思いました?」
ディーンが怪訝そうな顔をする。
「どうって・・・」
「綺麗だと思いませんでした!?」
「え?・・・まぁ、思ったけど」
「ですよね!?」
私はここぞとばかりに提案してみる。
「あの、この後で、リリーと踊りませんか?」
「・・・どうして?」
「どうしてって、お二人が踊ると凄く素敵じゃないですかぁ!」
「・・・」
「お似合いだと思うのです。きっと絵の様に素晴らしいと思いますわ」
(いやいやイラストなんて超える美しさに違いない!)
興奮で多分キラキラ(もしかしたらギラギラ)した目を向けていたであろう私に、ディーンは思いっきり眉根を寄せた。
(んっ?)
「ディーン様、どうしました?」
「君って、たまに残酷な事言うよね」
「え!?私、何か良くなかったですか?」
そう聞いた私に、ディーンはダンス前の時と同じように「はぁ~」と深いため息をついた。
「別に・・・分かっていた事だから良いけど・・・それにしたって・・・」
と何かぶつぶつ呟いている。
(どうしたんだろ?ディーンって時々こんな風に溜息つくんだよね。何か心配事でもあるのかな・・・?)
そう考えて突然ハッと思いついた。
(も、もしかして、ディーンてば私の知らない所で、もうすでにリリーに振られちゃってたりするのだろうか?・・・リリー、他に好きな人が居るって言ってたしなぁ。もしそうだったら・・・やばっ!私、ディーンの傷口滅茶苦茶えぐちゃったんじゃない?)
焦りながら私は、ディーンにどうフォローしたものかと必死で考えた。




