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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第四章 悪役令嬢は目を付けられたくない
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断罪の結末?


 「そしてパーシヴァル殿下ですけど・・・エルドラ様?」


 「な、何よ・・・」


 「パーシヴァル殿下の『弱み』って何の事ですか?皇族の方がその様な瑕疵をお持ちだと、貴方はお考えなのでしょうか?」


 「・・・え?」


 エルドラと女生徒達の表情が変わった。


 「恐れ多くも第二皇子であるパーシヴァル殿下が、一介の公爵家の小娘ごときに『弱み』を握られる・・・そんな事が有り得ると、本当に思ってらっしゃるのしょうか?それは殿下に対してとても不敬な考えでは無いですか?」


 扇を握りしめているエルドラの手が力を込め過ぎて震えている。


 (もう一押し)


 「その様な簡単な事にエルドラ様はお気づきでは無かったと・・・。それは侯爵令嬢ともあろうお方にしては、あまりにも浅はかで短絡的ではございません?」


 そう言って一瞬だけ馬鹿にしたような目でエルドラを見た。彼女にしか分からないくらい、かすかに。

 彼女は顔を真っ赤にすると、力を込め過ぎたのだろう、持っていた扇が真っ二つに折れた。


 (うおっ・・・すごっ・・・なんちゅう怪力)


 そして彼女はその扇を床に叩きつけると、


 「こ、このドチビが・・・!」


 と、貴族の令嬢とは思えないような乱暴な言葉を発し、私に向かって右手を振り上げた。私は動かないまま、その手が振り下ろされるのを冷静に見ていた。


 (よし来い、さぁ殴れ!でもって自分の愚かさを周りに見せつけな)


 だけど、その手が私の頬を打ちつける事は無かった。


 (ん?)


 エルドラの腕は、私の背後から伸ばされた手に捕まれていた。


 「あれ?」


 (どゆこと?)


 「きゃっ!」


 エルドラは掴まれた腕を後ろにねじ上げられ、痛みに顔をしかめた。


 (あっ!ちょっとこれはマズい!)


 私は咄嗟に叫んだ。


 「そ、それ以上は駄目です!クリフ様、手を離してください!」


 エルドラが私を殴ろうとしたのを、止めてくれたのはクリフだった。私がヤバいと思ったのは、彼が女の子相手に全く手加減していなかったからだ。


 私の声を聞いて、クリフはエルドラの手を離した。彼女は床にヘナヘナと座り込み、痛そうに腕を押さえる。そして震えながら真っ青な顔をこちらに向けた。


 クリフは私を庇う様に前に立った。


 「何をしている?」


 冷たい声だった。彼のこんな声は聞いた事が無かった。私を囲んでいた女生徒達はビクッとして身を固くした。


 「いったい彼女に何をしていた?場合によっては許さない・・・」


 「ち、違いますわ!私達はクリフ様をお助けしようとしたのですわ!」


 女生徒達が口々に言い訳を始める。


 「ア、アリアナさんの悪行をたしなめる為なのです。正義の為なのですわ」


 「悪行?」


 「そ、そうです!クリフ様はアリアナさんに、お金の力で縛られているのですよね!?そんなのお可哀そうだと思って・・・」


 「何だと・・・?」


 突然女生徒達はピタリと黙った。そして全員の顔色がスーッと青ざめ、怯えた表情でガタガタと震え始めた。


 (え?何?どうしたの?)


 ハッとクリフの方に視線を移すと、いつも飄々としている彼の背中から、殺気の様な気配が漂っている。私の背筋がゾクッとし、体の熱が一気に冷えた。


 「お前たちは何を言っているんだ?ふざけるな・・・」


 声もいつもよりずっと低くて、凄く怖い・・・


 (ちょ、ちょっとクリフ!どうしちゃったのさ!?)


 いつもの彼とは違う様子に私は慌てた。


 「ク、クリフ様!?」


 私はクリフの前へと回り込んで、彼の腕を掴んだ。クリフの目が暗い憎悪に燃えてるのを見て、私は息を飲んだ。


 (そ、そう言えばこの人、思いつめるとヤバいんだった。危うく皇太子の暗殺に手を貸しちゃうような人だったっけ)


 クリフみたいな壮絶な美貌の持ち主に、こんな顔向けられたらそりゃ怖いって!他の人達もビビっちゃってるじゃん!


 女生徒達以外の周りの人も怯えた顔でこっちを見ている。


 「ク、クリフ様!落ち着いてください。あの・・・わたくしは大丈夫ですので・・・」


(ど、どうしよう?クリフを何とか宥めないと・・・)


 女生徒達は全員、ひと固まりにくっ付いて涙ぐんでいる。


 座り込んでいたエルドラも、手で顔を覆ってシクシクと泣き始めた。


 (あっちゃー、泣かせちゃったよ)


 どうやって収めようかとオロオロしていると、人垣をかき分けてディーンが現れ、焦った顔で私の方に駆けつけてきた。


 「アリアナ、どうしたんだ!?」


 (うおい!いいタイミングに来てくれた!)


 「ディーン様、クリフ様を止めてください!」


 ディーンはクリフの顔を見ると眉を寄せた。そして彼の肩を抱くと、


 「落ち着け、クリフ!」


 そう言ってクリフの耳元で何かをささやいた。クリフがハッと目が覚めたような顔をディーンに向けた。


 「こっちへ来い」


 ディーンはクリフを女生徒達から引き離すように引っ張って行った。彼は意外にも素直にディーンの指示に従って、人垣の向こうへ消えて行った。


 女生徒達はまだ泣いている。というか先ほどよりも大泣きしている状態だ。


 (あ~・・・どう処理するよ?この惨状・・・)


 ワザと殴られて私がウソ泣きするつもりだったのに。


 思わぬ結末に困ってしまい私は溜息をついた。

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