反撃じゃ!
赤ドレスが目を吊り上げた。仲間の奴らもザワついている。
「な、何のことって・・・全部貴方がやった事でしょ!?しらばっくれるのもいい加減になさいよっ!」
私は当惑したように眉を下げて、片手を頬に当てて首を傾げた。
「しらばっくれるだなんて・・・、困りましたわ。私には全く思い当たる事が無いのですもの」
首を小さくふるふる振ってみる。周りから見ると清純そうに、赤ドレスたちから見ればからかってるように。
その態度が気に入らなかったのか、赤ドレスは額に青筋を立てて私を睨みつけた。
(おお怖っ!そんな顔してたら、誰にもアプローチして貰えないぞ)
「いい加減にしなさいよっ!こっちは証拠だってあるんだからね!」
(ほう、面白い!)
「証拠ですか。では、それを見せて頂けますぅ?」
私は精一杯可愛らしく、両手を合わせてお願いポーズをしてみせた。
そんな私に、女生徒達はさらにいきり立ち、攻撃的な言葉(平たく言えば悪口)を一方的にぶつけてくる。
「何なのこの子!」
「可愛い子ぶって」
「いい加減認めなさいよ」
「チビのくせに」
「親の権力をかさにきて」
「ひっぱたいてあげたいわ」
・・・エトセトラである。
(ふ~ん、こいつら、あまり頭良くない。)
まず、彼女達は今の状況を俯瞰的に見れていない。周りから見たら、か弱き小さな女生徒を、集団でイジメてるように見えないだろうか?
「証拠なんてディーン様やクリフ様に聞けば、直ぐに集まるわ!お気の毒にあの方たちは、貴女が怖くて自分からは言えなかったのよ!だから、私達が代わりに声をあげたのだわ!」
「まぁ、そうなのですか。では今は証拠は無いのですね」
「なんですってっ!?」
「無いのですよね?」
神経を逆なでする様に念を押して、にっこり笑って小首を傾げた。思惑通り赤ドレスはさらに大声を張り上げた。
「だからっ、本人に聞けば証拠なんて直ぐに出て来るって言ってるでしょっ!あの方だってそう仰ったものっ!」
(あの方?)
私はピクリと眉を上げた。
(やっぱり思った通りだ。後ろに黒幕が居るって事だよね。だってさ、この子達の行動ってあまりにも安直過ぎ。そのくせに変に自信もってるんだもんなぁ。・・・さあて、どうしたもんか・・・)
私は薄く笑ってゆっくり赤ドレスの女生徒に視線を合わせた。
(まずは・・・)
「な、何よ!?」
私の態度が変わったのが分かったのだろうか?。少し狼狽えたように後ろに下がる。
私はそれに合わせてまた一歩前に出た。
(私の大事な友人達を、馬鹿にしてくれたお返しだけはしないとね。)
「なんなのよっ!わ、私達にも公爵家の権力振りかざそうって言うの?」
この程度の奴らに、そんなの使う必要ない。私は隙の無い笑みを浮かべたまま彼女に問うた。
「失礼ですが、お名前は?」
「えっ?」
「貴女のお名前を伺っているのです。当然のマナーですよね?。初対面の人に話しかける場合、まずは自己紹介をするものですわ。貴女は私の事をご存知の様ですが、私、貴女を存じ上げませんの」
あくまで落ち着いた態度の私に赤ドレスは引きつった顔で、噛みつくように答えて来た。
「エルドラ・ポイニャック。ポイニャック侯爵の娘ですわ!言っておくけど、私は2年生よ。あなたより年長ですからね!」
(なるほど、そこそこ身分のお高いご令嬢なわけね)
「ありがとうございます、エルドラ様。これでお話がしやすくなりますわ」
私はゆっくりと落ち着いた声で話し始めた。さぁ反撃だ!
「ではまず、ディーン様の事からご説明しますわね。あの方が私と婚約関係にあるのは事実ですが、お互い良い友人だと思っていますの。ですから・・・。」
私は無邪気な笑みを浮かべて、少し頬を赤くしてみせる。
「ですから・・・、ディーン様に他に想い人ができましたら、友人として祝福したいと思っていますのよ。それはディーン様も同じお気持ちですの。だから無理やり婚約させているなんて、とんでもないです。事実無根でございますわ」
「なっ?!」
「それに、リリーは取り巻きなどでは無く、わたくしの大事な親友ですのよ。ディーン様がリリーをお気に召しているのかは存じませんが・・・でももしそうならディーン様は私に正直に言ってくださいますわ。だって、あの方はとても真面目で誠実な方ですもの。他に想い人がいながら、わたくしと婚約関係を続ける筈がございません」
私はそう断言し、笑みを浮かべながらも彼女達を見つめる目に力を込めた。
「だからまるでディーン様がリリー目当てで、わたくしと友人関係にあるような言い方はやめてくださいますか?」
「えっ?、えっ?」
ちょっとばかり相手の言った事を捻じ曲げて返してやった。彼女達の頭じゃ気付かないだろう。
(さて次は・・・)
「それからクリフ様を、私がお金で縛っている様な仰い方でしたけど・・・」
「そ、そうよ!。そうなんでしょ?!」
私は目を伏せて溜息をついた。
「おかしいですわね。クリフ様のご実家のウォーレン家は、コールリッジ家に勝るとも劣らない資産家でしてよ。ご存じないのですか?」
「えっ?」
エルドラ達は間抜けな顔で一様にぽかんとする。
(こいつら本当に知らなかったのか!?・・・まったく・・・世間知らずも良いとこだよ。皇国の有力貴族の事ぐらい、把握しときなって)
「そんなクリフ様をお金で縛るなんて不可能ですわ。それに・・・まるでクリフ様が、お金目当てで私と友人で居るなんて仰り方・・・。クリフ様が聞いたら悲しむでしょうね・・・」
「・・・・っ」
とうとう女生徒達は黙ってしまった。ふん、でもここで手を緩めたりしないよ。




