もしかして断罪!?
(悪かった・・・。ごめんよディーン、疑ってごめん!でもって本当にありがとぉ)
そして緊張の反動からか、なんだか堪らない気持ちを抑えきれなくて、私の目からポロっと涙がこぼれた。
「アリアナ!?大丈夫か?どこか痛いのか!?」
ディーンが本気で慌てだし、心配そうにおろおろと頭を撫でる。
私はハンカチを取り出して急いで涙を拭った。
「ディーン様すみません。何でも無いのです。私は大丈夫です!」
「だが・・・」
ディーンはまだ硬い顔で私を見ている。
「もう大丈夫なのです。こんな大きなダンスパーティ、初めてなので緊張してしまいました。心配をかけてしまってごめんなさい」
今度は本心から笑みを浮かべる事が出来た。ディーンもやっと表情が柔らかくなる。
「無理はしていないか?・・・遅くなってすまない。もう少し早く来ればよかった・・・」
「いえいえディーン様はちゃんと時間通りにいらっしゃいましたよ」
やっさしいなぁ、ディーンは。こんな人に心配して貰えるなんて私は幸せだよ。この1年で彼と信頼関係を築けたのが本当に嬉しい。
「良かった。顔色が良くなってきている。・・・だがまだ座っていた方が良い。何か飲み物でも貰って来る。待っててくれ」
ディーンはホッとした様にそう言うと、飲食スペースの方へ歩いて行った。私はその彼の背中をぼんやりと眺めた。
(ディーンには、もう嫌われたくないな・・・)
良い奴なんだもん。これからもずっと友達でいたいよ。
しみじみそう思っていたら、待ち合わせ場所を離れた途端ディーンに女子が群がり始めた。
(ん?おお!)
ディーンは大量の女子からのダンスの誘いを必死にかわしながら、飲み物の置いてある場所へと移動していく。・・・これは戻って来るのには時間がかかりそうだ。
(すごっ!上級生からも誘われてるじゃん。今、声かけてきたのって5年生じゃ無いのか?おいおいまだ私と踊って無いぞ)
曲がりなりにも婚約者なのである。
(なるほど・・・。ああいうのが居るから婚約解消したくないってわけか。モテ過ぎんのも色々大変だなぁ・・・)
私は虫よけ程度には役に立ってるのかもしれない。
そんな事をぼけっと考えていたら、突然後ろから声をかけられた。
「アリアナ・コールリッジ公爵令嬢!!」
甲高い大声にびっくりして振り向くと、そこには数人の女生徒達が腕を組んで仁王立ちしていた。
(何?・・・何なのこの人達?)
1年だけでは無い。上級生も交じっている。女生徒達は全員私の事を睨みつけ、なんだか不穏な雰囲気だ。そして先頭に立っている赤いドレスの女子が、髪をかき上げながら一歩私の方へ進み出た。
「アリアナ・コールリッジ!私達はあなたをディーン様、クリフ様、パーシヴァル様を権力の力で無理やり自分の周りにはべらせ、縛り付けた事において、ここに告発致しますわ!」
そう高らかに宣言し、持っていた扇を私の方に突き付けたのだ。
「は・・・?」
私は一瞬ポカンとした。彼女の言った事が余りにもぶっ飛んでいたからだ。
「はぁ~~~~~っ!?」
たっぷり2秒後にやっと意味を理解する。
(なんだよそれ!こいつは何を言ってんだ!?)
バカバカしい衝撃に言葉も出ない私に、女生徒達は不敵に笑いながら近づいてくる。私の座っている椅子を取り囲むと再び腕を組んだ。
周りに座っていた女子が恐々と席を移動する。赤ドレスの女子が大きな声を出したので、近くにいた人達もこちらに注目しているようだ。
「おほほほ、驚いて声も出ないようですわね。ご自分の悪行が知られていないとでも思っていたのかしら?アリアナさん、貴女は父である公爵様の権力を使って、ディーン様と無理やり婚約しましたよね?これはもう周知の事。貴女もお認めになるでしょう!?」
(あ~そうだね。確かにそれは、アリアナがやっちゃったやつですね、はいはい)
「しかもディーン様が気に入られたリリー・ハートを、無理やり自分の取り巻きにした!そうする事で二人を引き裂いた上に、学園でもディーン様を自分の側から離さないようにしたのよ!・・・おお、何と残酷で浅ましい事でしょう」
(す、凄いストーリーだな、おい・・・)
私は思わず聞き入ってしまった。
「そしてさらに貴女は、あの麗しのクリフ様をお金で買収しましたね!?」
「あん?」
(なんのこっちゃ?)
「クリフ様がいつも憂いを帯びた顔をしていたのは、お家の財政が厳しいからだと聞きましたわ・・・お気の毒に。貴女はそれにつけ込んで、彼をお金の力で自分の近くに置く事にしたのよ!・・・莫大な財産を持つ、コールリッジ家にとっては簡単な事だったでしょうね!」
(えっ?クリフの家って侯爵家だよ?でもって相当金持ちだよ!?なんか勘違いしてないか?)
どうもこの子は思い込みが激しいぞ。
「挙句の果てに貴女は第二皇子パーシヴァル様の弱みを握って、彼を思うがままに操っているでしょう!?あろう事か皇族の方まで貴女の我儘に振り回されるなんて・・・これは許されざることですわよっ!」
赤ドレスは歯噛みしながら、床をどんどんと踏み鳴らした。こいつパーシヴァルのファンだな。
(ん?パーシヴァルの弱み?・・・それは確かに握ってるかも。・・・ってまさかこいつらパーシヴァルがディーンを好きだって事を知ってるのか?)
「どうなのです!?言い分けは出来なくてよ!あなたの悪行は皆が知る所ですわっ!」
赤ドレスの女子は勝ち誇ったように私を見下ろしている。他の女生徒達もニヤニヤといやらしく笑いながら蔑すむような目を向けていた。
(いんや・・・こいつらは知らないな。知ってる訳がない。パーシヴァルは安易に自分の心をさらけ出すような奴じゃないもん。見た目は軽くて明るいけど、中身はくっそ重たい奴なんだから)
「ここに居る皆様が、貴方のこれまでの悪行の証人よ!。さぁ、どうなさるおつもり!?。あなたに少しでも貴族の誇りと羞恥心があるのなら、悔い改めて、さっさとこの学園を去る事ね!」
「なるほど・・・」
ぼそっと言った私から、女生徒達が一歩下がった。落ち着いた私の態度が意外だったのか、一瞬彼女達が動揺したのが分かった。
私は顔を伏せたままゆっくりと立ち上がった。
「なるほどね・・・、こう来たわけか。ふふ・・どうあっても断罪イベントをやりたいって訳だ、この世界は」
そう呟いた私に、女生徒が気味悪そうな表情を浮かべる。
「・・・何をぶつぶつ言ってるの貴女?わたくしの言った事が理解出来なかったのかしら・・・?」
(いやいや、しっかりと理解していますよ、私は。それにねぇ、もう一つ分かった事もありますよぉ)
私はあくまで冷静で、そして尊大な態度で顔を上げて、女生徒達をねめつけた。
(数で来れば、私に勝てると思ったのかねぇ、浅はかな)
私はにっこり笑って一言こう言った。
「何の事でしょう?」




