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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第四章 悪役令嬢は目を付けられたくない
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待ち合わせ場所

 会場は驚く程、夢で見た光景とそっくりだった。


 (引くわぁ・・・ここまで似てる?)


 軽快な音楽。人々の楽しそうなざわめき。美味しそうなご馳走と焼き菓子、ケーキ、ジュースが並んだテーブル。色とりどりのドレスとタキシード。


 目眩がしそうになった。


 (いや、狼狽えるんじゃない!気合入れろ!)


 まっすぐ顔を上げて、私は会場内の椅子が並べてある所へ向かった。そこは婚約者やパートナーがいる者達の、待ち合わせ場所になっている所だ。


 一緒に来たリリーやミリア達は、最初は煌びやかな会場の雰囲気に飲まれていたが、それぞれ目当ての場所へと向かって行った。


 ミリアとレティはダンスをする為に右側の待機所へ。ここに居ると踊りたい男子が誘いに来るらしい。二人とも可愛いから、直ぐに誘われるだろう。


 グローシアは上級生の居る方へキョロキョロしながら歩いていった。きっとクラークを探しているのだ。少し挙動不審なのが心配だが・・・


 (頑張れグローシア!クラークと踊れると良いね)


 目当ての男性がいる場合女性からダンスを申し込む事もできる。そして男性は女性からの誘いを断ってはいけないらしい。それも社交界での暗黙の了解だと聞いた。


 そうなるとモテる男子は大変である。クラークなんぞは去年、血走った目の女子に囲まれてヘトヘトになるまで踊らされたらしい。今日も青い顔で憂鬱そうに出かけて行った。


 そして重要なのは、この待ち合わせ場所と飲食スペースではダンスを申し込んではいけないって事。これは暗黙の了解じゃなくて、ちゃんとした決まりになっている。


 (モテる奴にとっては避難所みたいなもか。でもカップル同士で待ち合わせしている所にダンス申し込みに来るって、どんだけの勇者だよ。食事中に申し込まれても困るしなぁ)


 ちなみに女性は、ダンスを申し込まれても、断って良い事になっているから安心だ。


 ジョーは会場に入るなり、「さぁ、食べるぞぉー!」と言って、ご馳走が並んだ飲食スペースに突進していった。そして、リリーも慌ててジョーに付いて行ってしまった。会場に入るなり複数の男子にダンスを申し込まれて困ってしまったからだろう。


 (可愛い過ぎるってのも大変だなぁ)


 私は待ち合わせ場所の空いている場所を見つけて、椅子に腰かけた。


 しばらく会場の様子を観察してみる。すると見れば見るほど、夢のシーンに似ていてげんなりした。よく見れば私の座っている椅子ですら、夢で座っていた椅子にそっくりではないか・・・。


 (マジかよ・・・正夢じゃあるまいし)


 私はディーンの冷たい目を思い出して、ゾクリと背中に悪寒が走った。彼は間もなくやって来るだろう。夢の中でもそうだった。


 (夢の中でのアリアナは・・・いや・・・私はディーンが来るのを待ち焦がれていた。彼とダンスを踊る事に胸を躍らせていた・・・)


 でも今の私は緊張のあまり小刻みに震えている。そして手足は冷たく冷え切っていた。

 自分で思っていたよりも、私はこの日をこの瞬間を恐れていた事に気づいた。


 (落ち着け・・・。大丈夫、大丈夫なはずだから・・・)


 両手を祈る様に組んでぎゅっと握りしめた。力が入り過ぎて指先が白くなってる。


 (落ち着け・・・落ち着け・・・)


 呪文のように繰り返しながら、ふと入口の方を見て心臓が跳ねる。私は思わず立ち上がった。


 (ディーン・・・!)


 ディーンはこちらを真っすぐ見て厳しい顔で、しかもなんだか速足でこちらに向かって来る。


 (えっ、なんで!?・・・なんか怒ってる?)


  近づくにつれディーンの目に真剣さが増す。


 (ディーンってば、どうしたのさ!まさか断罪なんかしないよね!?)


  そう思いながらもすっと血の気が引いて行く。なんだか頭もクラクラしてきた。


 (いけない、しっかりしろ・・・。情けないぞ!)


 私はなんとか気力を取り戻そうと目を閉じて頭を軽く振った。そして顔を上げると目の前にはもうディーンが立っていた。


 「・・・っ!」


 ディーンは厳しい顔つきのまま、右手を私の顔の方へと差し出した。


 (えっ?殴られる?!)


 一瞬、そう思って私はビクッと身体を縮めて目を閉じた。けれど想像していた衝撃は来る事無く、ディーンの手はそっと私の顔の横に添えられた。


 (え・・・?あれ?)


 その手の暖かさに促されるように私が目を開けると、ディーンはもう片方の手で私の腕を優しく掴みゆっくりと椅子に座らせた。


 「あ、あの・・・ディーン様?」


 状況が良く分からず焦っていると、ディーンは私の前に片膝を付いてしゃがみ、目線を合わせて私の顔をじっと見つめた。ディーンの手はまだ私の顔に添えられていてる。左手は今は肩に置かれ、そこからも温もりが伝わってきた。


 (・・・怒ってるわけじゃ・・・ないのかな?)


 ディーンの態度の意味が良く分からなくて私は戸惑った。


 (あ、でもそうだ・・・!挨拶しなくちゃ)


 「ディーン様、ごきげんよう」


 微笑んだつもりだけど上手く笑えて無かったかもしれない。だってほら、ディーンが眉をしかめている。


 だけど彼の目は冷たくなかった。真剣だけど冷たくはない。怒ってもいない。


 彼は私の目を覗きこんで厳しい声で言った。


 「顔色が悪い」


 「・・・え?」


 「身体も震えているし。体調が悪いのでは無いのか?」


 その時やっと、ディーンの目に浮かんでいるのは『心配』だと気づいた。


 (あっ、私そんなに青い顔してた?)


 「寮に戻れそうなら送っていく。立てそうか?それとももう少し休んでいくか?」


 (ぐっ・・・ディーン・・・)


 私の胸に優しい光の様な温かさがブワッと広がった。さっきまで感じていた不安や恐れは一気に消え去って、ディーンに対して申し訳ない気持ちと、ありがとうって気持ちで一杯になった。

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