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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第四章 悪役令嬢は目を付けられたくない
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不安

 ベッドから飛び起きて、顔を冷たい水で洗ったけど全然すっきりしない。嫌な汗をかいたせいで首元もべとべとしている。


 (お風呂入るか・・・)


 それにしてもなんて縁起の悪い夢だったのだろう。


 「不安が無いわけじゃないもんなぁ」


 私は寝間着のままで、メイドにバスルームの準備を頼んだ。


 (汗臭いまま、終業式には行きたくないもんね)


 月日が経つのは早いもので、今日は学園の終業式なのである。一年生として過ごす日は今日が最後で、そしてアリアナにとっては、最も重要な日だと言って良いだろう。


 (今日はゲームの世界じゃ、一生を左右する事件が起きる日だ)


 ディーンからの断罪である。


 私は先ほどの夢を思い出して身震いした。見始めた時は夢だと分かっていた。なのに妙にリアルで、途中からは夢だと認識した事すら忘れてしまっていた。


 (多分、私がアリアナになってなかったら、あれが現実になってたのかもしれない・・・)


 夢でそれを体現させられたのだろうか?


 あの夢の中で、アリアナの思考や感情がまるっきり自分のモノになっていた。


 「うう・・・本当に怖かったよぉ」


 私は夢のラストに出て来たグスタフとイーサンの顔を思い出したが、「あれはただの夢!」と急いで頭から追い出した。


 「よし!お風呂に入って、全部洗い流してやる!」


 暖かい湯舟にゆっくり浸かりながら、私はこの約一年の事を振り返った。


 夏休みの後、私は学園の図書館で闇の魔力や闇の組織について調べまくった。


 さすがに歴史のある学園だけあって、その手の書籍は揃っていた。だがそのくせ内容はアリアナの屋敷にあった本と大差が無く、闇の魔力や闇の組織については、上っ面の事だけしか書いて無かった。


 それは私の心に微かな引っかかり・・・違和感を残した。


 (もしかして闇の魔力や闇の組織の事って隠されてるの?)


 どの本を見ても、確信には触れず曖昧な表現が多い。長い歴史の中でそんな事がありえるだろうか?


 (でも、どうして隠す必要がある?何か皇国に不都合な事があるのか・・・?)


 私が調べられる事は調べつくしたつもりであるが、このままではイーサンにはとても対抗できない。


 (学校で魔術の先生とかに聞いてみようかな?)


 2年生になれば魔術の授業も始まるようだ。


 (アリアナは魔力ゼロだから座学しか受けれないんだよなぁ。でも先生との接点では出来るもんね)


 座学やペーパーテストに関しては自信があった。実は今日の終業式でも、私は1年生の最優秀成績者として表彰される予定なのだ。


 (ゲームでは表彰されるのってディーンかヒロインだったんだよね。くっくっく・・・まさか悪役令嬢のアリアナがトップの成績取るとは、誰も予想出来なかったろう)


 それを思うと、ニヤニヤが止まらない。テストでは毎回オール満点を取ってやったのだ。つまり自動的に首席である。


 (ふふ・・・満点を抜くことは出来まい)


 だけど凄かったのクリフだった。彼は夏休みが終わった後のテストでは、いきなり次席に躍り出た。しかもほぼ満点に近い成績で、私も「さすが我がライバル!」と感心したものである。 


 テストの成績は、だいたいディーンとリリー、クリフで2~4位を争い、ミリアが5位。もちろん私は不動の1位だ。


 だけど悔しい事に最後のテストで、私はとうとう並ばれてしまった。ディーンが私と同じオール満点を取ったのだ。ちょっとショックだったけどディーンならアリかと思った。


 (だって、そもそも彼らは攻略者で、頭脳優秀って設定なんだもん)


 こっちは努力だけでやってるのだ。もっと褒めて欲しいもんである。


 そして夏休み以来、昼食仲間にディーンとパーシヴァル、そしてグローシアも加わった。


 第二皇子に公爵家が二人、そして侯爵家も二人となると周りからはかなり注目を浴びた。しかもイケメン攻略者が3人に超絶美少女のヒロインだ。羨望の目で見られるのは仕方無い。


 そしていつも私達と一緒にいるせいか、リリーへのイジメや嫌がらせはすっかり無くなったらしい。


 リリーと同じクラスにいるグローシアにその事を聞くと、


 「リリーのバックにはアリアナ様が居るとほのめかしたら、震えあがっておりました」


 と鼻を高くして言うではないか!いやいや、ちょっと待てい!


 (何なの!その陰の親分みたいな扱いは!?そんなの悪役令嬢そのものじゃんか!)


 公爵家の威光のせいだろうか?


 「私ってそんなに恐れられてるのですか!?」


 「そりゃそうです!この世に気高きアリアナ様に歯向かい逆らうものなど、存在し得る筈がございませんっ!」


 と訳が分からない答えが返ってきたので、理由を知るのは諦めた。


 こんな感じで夏休みから約半年間、私はおおむね平和に過ごしていた。一番の懸念だった皇太子暗殺の件も今は特に何も起きてはいない。


 私は湯舟に浸かったまま天井を見上げた。


(夕方からのパーティで断罪されるようなネタは無い。・・・無いはずだけど・・・)


 夢見が悪かったせいでなんだか心配になってくる。そして、もう一つの大きな不安要素が私にはあった。


 それはディーンとの婚約解消が、いまだ実現できていない事だ。


 ちなみに、ディーンとはとても良い友人関係を続けている。


 それなのに、いつでも婚約解消に応じると言ったこの半年間、ディーンからその申し出が来ることは全く無かった。


 実は何度か聞いてみた事があるのだけど・・・


 (何故かディーンがあまり、この話題をしたくなさそうなんだよなぁ・・・)


 いつも少し空気がピリつくような気がするのだ。


 以前、「早く婚約解消しないと、ディーン様は本当に好きな人と恋愛出来ないですよ」と言ってみたのだが、ディーンからは「好きな人など居ないから、そんな心配は要らない」と睨まれた。


 しかも逆に「それとも、君は他に好きな相手がいるのか?」と聞かれたので、「いえいえ、そんな人は居ませんが」と言うと「じゃ、無理に婚約解消する事は無いだろう。リガーレ公爵の事もあるのだから、その方が君にとっても都合が良いじゃないか」と返されて結局有耶無耶になってしまったのだ。


 (リリーの事はもう良いのかなぁ?絶対ディーンは好きだったはずなんだけど。それにお似合いだしさ。もしかして脈が無さそうだから、諦めちゃったのかなぁ)


 ディーン良い奴なのに、とちょっと気の毒になる。


 (婚約解消したらディーンは今よりもっとモテるだろうなぁ。ん?・・・もしかしたら、それが面倒なのか?)


 昔のアリアナみたいにまとわりつかれるのが嫌なのかもしれない。


 (ふむ。その点今の私となら気楽なだもんな。好きな人が出来れば、その時に婚約解消すれば良いんだし。なるほど、そう言う事かもしれない)


 少しスッキリした気持ちになって、私はお風呂から上がった。


 部屋の衣装掛けには、夕方のダンスパーティで着る淡い空色のドレスがかかっている。夢の中で着ていたドレスと全く同じドレスだ。私はそれをそっと撫でてみる。


 「この半年、出来る限りの事はやった!後はもう出たとこ勝負じゃ!」



 終業式は滞り無く始まった。事前に言われてたように、私はその年の最優秀成績者として壇上に登り、大きな拍手に包まれた。


 学園長から賞状を受け取り、皆の方を向くと、リリーやミリア達、ディーンやクリフも笑みを浮かべて拍手を送ってくれていた。


 (こ・れ・は・気持ちいい!最高!皆も、ありがとう!)


 鼻歌気分で一礼をして壇上を降りる途中の事だった。突然私は射る様な視線を感じた。


 (え・・・?)


 それは一瞬で消えてしまった。


 (気のせい・・・かな)


 だけど悪意の余韻だけは、私の心にしっかり残っている。


 朝の夢と同じ不安が、また胸の奥に広がるのを感じていた。

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