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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第三章 悪役令嬢は関わりたくない
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改めて初めまして

 別荘に戻った後、私はティールームに向かう廊下で、声を潜めてパーシヴァルに話しかけた。


 「ディーン様とは友達になりました」


 「えっ?」


 パーシヴァルは目を見開いた。

 

 「婚約は、ディーン様のご都合の良い時に解消して頂く事になりましたから、ご安心ください」


 「・・・」 


 「嘘だと思うならディーン様に確認して頂いても構いませんよ」


 とにんまり笑ってやった。


 パーシヴァルは眉間にしわを寄せていたが、溜息をついて私から目を逸らせた。


 「馬で帰る時、そんな話をしてたの?」


 「は?いえ、婚約解消の話をしたのはその前です。友達になったのは馬に乗ってるときですが」


 「ふ~ん・・・」



 イルクァーレの滝でアリアナとディーンが和解?をした後、私達はクラーク達と直ぐに合流することができた。


 リリーやグローシアは泣きながら私に抱きつき、ノエルは泣きながら土下座しながら謝ってくれた。


 気になったのは彼の両頬が腫れていた事で、「どうしたのですか?」と聞くと身体を震わせながら「ミリアとジョーに・・・」とこぼし、頬をさすった。泣いていたのは単に痛かったせいかもしれない・・・。


 私はそのままディーンの馬に乗せて貰い、別荘へと帰った。ディーンは馬をゆっくり進ませ、私達は今まで気まずかったのが嘘だったように、いろんな事を沢山話した。


 そして私はふと不思議に思った事を聞いてみた。


 「ディーン様、崖で私が馬から落ちた時に、もしかして何かしました?」


 「ああ、風を使った。うまくいって良かったよ」


 (やっぱり魔術か!)


 それを聞いて私は感心すると同時にちょっと呆れた。魔術と言うのは、とても神経を集中させるものらしい。なのにディーンは崖を駆け下りる馬を操りながら、咄嗟に馬から落ちる私を風の魔術で助けたらしいのだ。


 (どんだけ、能力高いんだよ・・・このチート)


 メインキャラとモブキャラの差が圧倒的過ぎて、怒る気にもならない。


 「ほんとに助かりました。だけど、いくらなんでも馬で崖を下りるのは危なすぎますよ?」


 「君だって下りただろ?」


 「私のは不可抗力です。ああいう時は崖の上から魔術使ってください」


 「ははは、そうだね。次からはそうするよ。・・・あの時はとっさに身体が動いて、あまり考えていなかったな」


 実際そのおかげで私は助かった。だからこれ以上文句は言えないけど、ディーンが怪我したら大変だった。


 「馬も、たいした怪我が無くて良かったです」


 「ああ、運が良かった」


 本当に運が良かった。そしてディーンと今、こんな風に普通に話せているのだって本当に幸運な事だと思えた。


 (よし・・・!)


 私は少し背筋を気合を入れる。そしてそっと後ろを振り返ってディーンを見上げた。


 「あの・・・ディーン様」


 「ん?」


 「改めてですね、私と友達になってくれません?」


 「・・・」


 「婚約解消して、はい他人!っていうのは寂しいですし・・・」


 (命の恩人なんだし)


 「・・・うん」


 「学校でも顔を合わしますし、お話だってしたいです。だから友達というのはいかがでしょう!?」


 力が入って右手に拳を作ってしまう。私の提案にディーンは少し考える風にしていたけれど、


 「うん・・・。ああ、ではこうしないか?」


 「はい?」


 「私と君はあの滝で、もう一度出会い直した。そして友人になった。・・・どうだい?」


 (もう一度出会い直した?ふむ・・・成程。ディーンってば、なかなか粋なこと言うじゃん)


 ディーンが初めてアリアナに会ったのは5年も前の事だけど、その時は「私」では無かったし、学園でディーンに初めて会った時は互いの印象が悪過ぎた。

 私は逃げ回ってばかりだったし、話をするようになってもディーンは謝ってばっかで・・・


 (色々噛み合ってなかったんだよなぁ・・・)


  「その案、良いですね。そうしましょう!」


 私が賛成すると、ディーンは悪戯っぽい表情で片手を胸に当てると、仰々しい仕草で頭を下げた。


 「では・・・改めてアリアナ嬢。初めまして、私はディーン・ギャロウェイです。どうぞよろしく」


 (あはははは)


 私も片手でスカートを少し詰まんで頭を下げる。馬の上じゃ難しいな。


 「アリアナ・コールリッジです。ディーン様、よろしくお願い致しますわ」


 そうして私達はお腹が痛くなるまで、散々笑ったのだ。




 (いやぁ、何せゲームの設定が設定だからなぁ。ディーンとあんな風に話せるようになるとは思わなかったよ)


 普通に話せば彼は結構良い奴なのだ。


 別荘の廊下でパーシヴァルは私から目を逸らせたままぽつりと聞いた。


 「君、ディーンに何かしたの?」


 「は?」


 「あんなに笑ってるディーンは久しぶりに見た・・・」


 そう言うと私を置いて、さっさとティールームに入ってしまった。後ろ姿が少し寂しそうで、


 (う~む、パーシヴァルはこの先どうするんだろう・・・?)


 彼はこのまま自分の気持ちを隠したまま、ディーンと誰かの恋を応援するんだろうか?


 私は頭を抱えた。


 (あ~難しい!恋愛なんてした事無いし!でも、好きだったら普通は自分のモノにしたいんじゃないの?)


 いまいち恋する気持ちが理解出来ない。


 (前の世界じゃ、恋愛に使う時間なんて無かったしなぁ。特に好きな人もいなかったし)


 だけど、パーシヴァルが辛い思いをしているのは想像できた。


 (しんどいのは間違いないよなぁ・・・)


 いつもは調子の良いパーシヴァルの辛そうなかすれた声が、耳に残って忘れられなかった。

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