表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第三章 悪役令嬢は関わりたくない
60/218

ヒロインのパワー

 パーシヴァルは「何をばかな・・・!」「そんな訳ないだろう!」と色々良い訳をし始めたが、明らかに声が動揺している。


 「ぼ、僕はあくまでディーンの親友として・・・」


 弁明をしようとしたが、私の態度を見て取り繕えないと思ったのだろう、彼は大きく息を吐いた。


 「君が・・・こんな策士だとは知らなかったよ」


 (いえ、別に何も企んだわけではありませんけどね・・・)


 「前とはまるで別人だ」


 (・・・仰る通り別人です)


 そのまま二人とも、しばらくは無言で馬に揺られていた。


 (どういう事だよ?・・・乙女ゲーの攻略者がそっちだなんて、あり得ないよ・・・)


 さすがに予想外過ぎて私も上手く頭が働かない。


 (あれ?・・・でもさ・・・)


 なんかおかしくない?


 「あの、あの・・・ではどうして、ディーン様とリリーを結び付けようとするんです・・・?」


 私はパーシヴァルを少しだけ振り返り、恐る恐るそう聞いた。


 (だって、だって、ディーンの事を〇しちゃってるんだよね?)


 だったら何故、こんなにもディーンの恋の応援をする?


 私の後ろでパーシヴァルの気配が揺れた。


 「・・・幸せになって欲しいだろ・・・。・・・な人には・・・」


 いつもの陽気なパーシヴァルとは思えないような、かすれた声を聞いて胸が詰まった。


 (そうか・・・本気なんだ)


 良く分からないけど、なんだか切ない気持ちになった。


 「・・・言わないで、ディーンには」


 ふり絞る様にパーシヴァルは言う。まるで泣いてるようだ。


 「・・・言いませんよ」


 それから先は到着まで、私も彼も黙ったままだった。


           ◇◇◇


 「さぁ着いた!どうだい?良い所だろう?」


 クラークがそう言って馬を止めた場所は、岩場の陰に広がった草原だった。遮るものが無く、眼下に景色が広がっていた。


 「凄い!昨日買物した街まで見えますわ」


 「あれが、私達のいる別荘ですね」


 皆は指さしながら、その景色に見入って興奮していた。


 草原の一角には綺麗な花も沢山咲いていて、まるで花畑だ。向こうの方には小川が流れている。


 (うお~!まるっきりスイスじゃん!)


 海外旅行などした事無い私には感涙モノの景色だ。


 「なんて美しい所なんでしょう・・・!」


 「花冠を作りましょうよ!」


 女子は全員歓声を上げた。


 「あっちの方は崖になっているから近寄らないようにね。さぁピクニックシートを広げてくれ」


 クラークは使用人にテキパキと指図している。


 私は女子達と一緒に花畑の中に座った。大きさや色も様々な花達が風に揺れる度にその甘い香りを運んでくる・・・。


 (自分の幸せよりも、好きな人の幸せか・・・。)


 私は先ほどのパーシヴァルとの会話を思い出していた。


 (ディーンとリリーを純粋だって言ってたけど、あんたの方こそ純粋だよ)


 私は今更ながら、グスタフ避けにディーンを使った事を後悔していた。


 (結局ディーンを利用してるって事なんだもんな・・・。これは久しぶりに自分が嫌いになりそう・・・)


 自己嫌悪感に沈みながら、私は花畑にうつ伏せになった。


 (・・・大丈夫・・・一番底まで落ち込んだら・・・後は浮上するだけだから・・・)


 そのまま目をつぶる。


 これは私のいつもの儀式だ。


 どんなに嫌な事があっても辛い事があっても、例え自分を嫌いになったとしても、底まで沈んだ後は切り替える。その後は何も考えずにとにかく動くだけで良い・・・。


 しばらくして私は握りしてめいた手から力を抜いた。目を開けて横を向くと花の蜜を吸いにミツバチが飛んできている。


 目に見えるだけの世界は、ただただ長閑(のどか)だ。


 (うんっ、やっぱりディーンとは婚約解消しよう!)


 後の問題は全部自分で引き受ける。グスタフの事だってなんとか解決して見せるわい!


 少しスッキリした気分で、私はそのまま仰向けに寝転がって空を見上げた。怖いくらい真っ青な空を作り物のような雲がゆっくりと滑っていく。


 (パーシヴァルは、ディーンがアリアナと婚約した時どう思ったんだろ?アリアナがあんな風じゃ無かったら、やっぱり親友として祝福するつもりだったのかな?)


  だとしたら、どんな気持ちだっただろう?私だったら多分しんどい。


 そう考えると同時に、私はこの世界の人物の有り方がゲーム設定とはがらりと違っている事に不安を感じていた。


 「いったい、何が起きてんの?」


 (私と接触のある人は、私が悪役令嬢しない事で影響を受けるかもしれない。でもパーシヴァルは・・・)


 この別荘で会うまで、ほとんど話もした事無いのだ。だから彼の変化の理由が分からない。


 空に向かって右手をかざした。太陽が少し眩しい・・・。目を細めて自分の小さな手を睨む。 


 う~むと顔をしかめていると、誰かが上から私を覗きこんだ。


 「・・・リリー?」


 気付かないうちにリリーは私の傍に座っていたようだ。そして手には花で編んだ冠を持っていた。私は起き上がってその花冠を見て驚いた。


 「ええっ凄い!リリーが作ったのですか?」


 「はい。」


 「うわぁ器用ですねぇ!」


 (どうやって作ってんじゃ?)


 幾重にも編まれた花が見事に輪っかを作っている。 


 「どうぞ、アリアナ様」


 そう言ってリリーはその花冠を私の頭に乗せた。私はそれを両手で抑えながら、見上げてみる。


 「とてもお似合いです」


 リリーが少し首を傾けながらふわりと微笑んだ。彼女のピンク色の髪が太陽の光を受けながら柔らかく流れる。


 その桁外れのヒロイン力のパワーに、私は花冠を見上げたまま後ろに倒れそうになった。


 (もっ、もっ、もっ最高~!・・・マジで花の妖精だって!)


 私は締まらない顔でへらへら笑い返しながら心の中で(リリー可愛い!可愛い!可愛い!・・・!)を連呼する。


 自分でも単純だと思うが一気に気分が浮上した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ