無駄チート
地獄の晩餐がやっと終わった後、父は私達をグスタフとの食後のお茶には誘わなかった。
恐らく食事中の私を見て限界だと思ったのだ。
(アリアナ父よ、ありがとう・・・)
名残惜しそうに私を見るグスタフの視線を背中に感じながら、私は皆と2階への階段を登った。そして周りに気付かれない様に、後ろの方でそっとディーンの服を引っ張った。
ディーンが驚いた顔を私に向けた。何故か彼の頬が少し赤くなっている。
私は誰にも聞こえない様に小声で素早く言った。
「すみません、折り入ってお話があるのです。後でお時間を頂けませんか?」
私の只ならぬ様子を察してくれたのか、ディーンは黙って頷いた。
「15分後に奥の白檀の部屋で・・・」
そう告げてから彼を追い抜くと、私はそのまま階段を登った。
◇◇◇
その一時間後、私は女子チームと他愛ないお喋りを楽しんでいた。
実は女子みんなで寝れるように、使用人に頼んで広い寝室にベッドを6台入れて貰ったのだ。一人ずつ寝室はあったのけれど、こっちの方が絶対楽しい。
(キャンプみたいだ)
レティシアはベッドの上で会話を聞きながらも、スケッチブックに絵を描き続けている。
「今日のピクニックは最高でした。神セブン4人のレアなショットが描けましたわ」
早く仕上げてしまいたいと、興奮しながら鉛筆を動かしていた。
「レティあなた、昨日は徹夜したんでしょ?今日は早く寝なさいよ」
ミリアは寝る前に髪を三つ編みにして、今はグローシアの髪も三つ編みにしてあげている。
(女の子らしいねぇ。癒されるわぁ)
夏休みに友達とのお泊りなんて初めてだ。
(前の世界じゃそんな余裕は無かったからなぁ・・・。良きかな、良きかな)
ふわふわした気分でにやにやしていたら、
「そう言えば、今日は驚きましたわ。あのグスタフ・リガーレ公爵がいらっしゃるなんて」
(ふぐっ!)
何気なく言ったミリアの言葉に、私は息が詰まりそうになった。
「今をときめく方ですものね。社交界では引く手数多だそうよ!」
レティシアも鉛筆の手を止めて、会話に加わった。
(な、な?何なの?グスタフって有名人なの!?)
どうやら彼はアンファエルン学園を首席で卒業したエリートで、現在魔法省の特級魔術師でもあるらしい。
20歳そこそこでリガーレ公爵となったグスタフの領では、彼が起こした新しい産業が盛んで、他国との貿易も活発らしい。
そして、なんと今ではその財力はコールリッジ家にも勝るとも劣らないとの事だった。
私は心の底からげんなりした。
(何なの・・・?その無駄なチートぶりは・・・)
ゲームでは最後にちょろっと出るだけの、名前も無いロリコン親父なのに。
(まさか私が知らないだけで、グスタフも隠し攻略対象だったりしないわよね!?)
私はヒロインとグスタフが結ばれる想像をして、絶望感に襲われた。
(いやだ・・・自分も嫌だけど、ヒロインがグスタフとなんて絶対に嫌だ・・・!)
「今、お歳は34歳らしいですが、あの方ご結婚なさってないでしょう?沢山の申し込みがあるのに、全てお断りしているそうですよ」
「誰か心に秘めた方でもいらっしゃるのかしら?例えば・・・もうご結婚してしまったご婦人とか?」
ミリアがそう言うと、「きゃあ!」「ロマンスね・・・」「小説みたいだわ」と沸いていたが、私だけは引きつった顔で「・・はは」と乾いた笑いを出すしかなかった。
だけど一つ謎は解けた。
(なるほどね。アリアナがグスタフ家に嫁ぐことは、コールリッジ家にとっては滅茶苦茶メリットがあるんだ)
アリアナの父であるコールリッジ公爵は、娘には甘くたいがいの言う事は聞いてくれる。しかしビジネスや、国の政策に対しては甘い人間ではない。
大した産業も無く、鉱山資源も乏しいディーンのギャロウェイ家とでは、姻戚関係を結んでも特にメリットは無いと考えるのが普通だろう・・・。
よくよく考えてみると、乙女ゲームの中でもアリアナの父は、ディーンがヒロインに心を寄せてい居る事を知っていた筈である。
なのにゲーム内でのアリアナ父は、アリアナを溺愛してるにも関わらず、それを見て見ぬ振りした事になる。断罪されたアリアナは、悪役とは言え傷ついただろうに・・・。
(う~ん、そんなにもアリアナをグスタフに嫁がせたかったのか。それとも、アリアナ父も彼女の我儘な性格をを正したいと思っていたとか・・・?)
いや、違うな・・・。
ディーンと無理やり結婚しても、アリアナが幸せになれない事が分かっていたからだ。
アリアナがあのままの性格なら、ディーンは絶対アリアナを好きにはならない。
そんな二人が結婚してもお互い不幸なだけだ。
(その点グスタフは、アリアナを愛している事だけは確かで・・・う、うわあっ!)
全身に鳥肌が立ちました。




