恐怖の晩餐
クリフから食らったダメージのせいで、美味しいお弁当の味は良く分からず、私は機械的にサンドイッチを口に運びながらもやもやしていた。
(クリフってば、あんな強烈なの垂れ流してたら、女子の間で被害が続出するぞ・・・)
下手すりゃ男子も食らいかねない。何せ精霊も顔負けの美貌なんだから。
(もはや、兵器だわ・・・恐ろしい・・・)
私は身震いした。
「アリアナ様、お寒いですか?」
リリーが隣から私を覗きこむ。
「い、いえ、大丈夫です。二人が上着を持ってきてくださったので。ありがとうございます」
リリーが天使のような笑みを私に向けた。
(ああ・・・癒される・・・)
ヒロインはやっぱり最高だ。
ちらっとクリフの方を見ると、今はちゃんと子供の顔でチキンを頬張りながらノエルと話している。そして何かツボに入ったのだろう、チキンを握ったまま笑い死んでいた。
私は溜息をついて、視線を戻すと何故かバチっとパーシヴァルと目が合った。
(ん?)
パーシヴァルは直ぐに目を逸らすと、何事も無かったかのようにディーンに話しかけている。
(なんじゃい?)
少々訝しく思ったが、あまり気にしない事にした。
(ええい!せっかくのピクニックなんだ!楽しまなくてどうする!?)
私は可愛いリリーの顔を眺めながらお弁当をパクついた。
そしてその時の私は、別荘では再び恐怖が待ち受けている事を、全く知らなかったのだ・・・。
◇◇◇
(落ち着け・・・、落ち着くんだ、私・・・。)
スープを口に運ぶスプーンが小刻みに震えてしまう。
素晴らしく美味しいポタージュの筈なのだが、味わう余裕など私には無かった。
楽しい滝でのピクニックから、夕方前に別荘に戻った私達は、父と母、そしてあるゲストに迎えられた。
そのゲストとは・・・
「またお招き頂いて嬉しい限りですよ、コールリッジ公爵。新しい産業にについてもアドバイスを頂きたかったですしね」
「このような田舎の別荘なので、たいしたもてなしも出来ないが・・・、まぁゆっくり召し上がって頂きたい。リガーレ公爵」
父と優雅に会話を続ける人物・・・。
私の天敵!グスタフ・リガーレ公爵(ロリコン親父)である!
(なんでお前が、またここにっ!?)
叫びそうになるのをぐっと堪えた。
グスタフは晩餐の主賓席ですました顔で食事をしている。父と話をしながらも、如才なく兄のクラークや私の友人に声をかける事も忘れない。
(なんかもう、そういう所も気持ち悪い・・・)
こうなると単に私の偏見の様にも思えてくる。しかし、たまに私に視線を送るその目に「籠められた熱情」の色が感じられて、私に危険を認識させるのだ。
(気を抜いたら駄目だ・・・)
ちょっとでも気を抜いたら殺られる・・・。とにかくこの晩餐会を乗り切ろうと、私は緊張しながらメインの子羊のポアレにナイフを入れた。
「そういえば、アリアナ嬢は、前のような髪型はしないのですか?」
(ひっ・・・)
突然グスタフに問いかけられ、私は付け合わせの焼きリンゴをテーブルに落としてしまった。
「す、すみません・・・」
(きゅ、急に話しかけないで!何だよ前の髪型って・・・!?)
と慌てたが、私はそう言えばと思い当たった。
ゲームのアリアナの髪型はかなりテンプレなツインテールで、いかにもロリが好みそうな髪型だったのだ。
(そっか・・・私になってからは髪は普通に降ろしてるか、お嬢様結びだから・・・)
だってあの強烈ハイなツインテールは私には正直キツイのだ・・・。アニメのヒロインじゃあるまいし。
「あ、あの・・・、あの髪型は少し子供っぽいと思いまして・・・。学園にも入った事ですから変えてみたのですわ。・・・ほほほ・・・」
「そうですか・・・。でもとてもお似合いでしたよ。もう一度見てみたいものです」
甘い声で、ささやくようにそう言う。
ぐはっ・・・。
はい、血を吐きそうなぐらいのダメージを頂きました。
私の様子がおかしい事に、両隣にいるリリーとミリアは気づいてるみたいで、時折気遣うような視線を送って来る。
(アリアナ父には言った。はっきり言った。だから納得してくれたはず。・・・私は奴とは結婚しない・・・私は奴とは結婚しない・・・私は奴とは結婚しない・・・)
心の中で呪文のように唱えながら、私は額に汗をかきながらも顔には笑みを貼りつけていた。せっかくの晩餐の料理はほとんど皿に残っている。
そんな私をアリアナ父は困ったような顔で見ている。先日私が言った事をようやく理解したようだ。
だけど・・・ああ、恐ろしい事に、態度で分かる!見つめる視線で分かる!話す口調で分かる!肝心のグスタフが、全く私を諦めてないのだ!
(な、流し目を送らないでって!)
なんだか胃まで痛くなってきた。
(ううう、これはやりたくなかったけど・・・)
背に腹はである。私はある計画を心に決めた。
 




