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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第三章 悪役令嬢は関わりたくない
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脳を溶かされました

 私達はクラークの案内で、滝の裏側へと入っていった。


 「わぁ!」


 「凄いわ・・・」


 女子達が感嘆の声を上げる。


 (ほっほ~!これはこれは・・・)


 幻想的と言うのがぴったりだろう。


 そこはまるで水で出来たカーテンに仕切られた様な空間だった。流れる水の裏側か見る景色は、歪んだガラスを通してみる世界の様で現実味が無い。


 滝つぼは透き通った紫色で、美しい紫水晶の様にきらきらと輝いていた。


 皆もその光景に心を奪われ、しばらくの間静かに眺めていた。


 だけど私は(これ観光名所にしたらお金取れるんじゃないか?)と頭の中で算盤を弾いていた。


 公爵令嬢らしからぬ下世話な考えだが、生活の為にお金を稼ぐ事は大事である。


 「こっちにはイルクァーレが水晶になったと言う洞窟があるんだよ」


 「えっ!?見てみたいです」


 クラークの言葉に、レティシアが真っ先に食いついた。


 (むっ!観光資源が他にも!?)


 私も違う意味で食いついた。


 「イルクァーレとシーリーンの水晶は洞窟の奥らしいから、僕もまだ見つけたことが無いんだ。でも入口の近くにも奇麗な水晶があるよ」


 「まぁ、見てみたいです!」


 (私も見てみたいですよ~)


 観光資源はしっかり確認しておきたいのだ。


 そしてクラークの後について洞窟の入り口へと歩いて行く途中の事。


 グローシアが濡れた足場に滑りそうになり「あっ」と声を上げた。そこをクラークが素早く支え「気を付けて」と笑いかける。


 「あり、あり、ありがとう・・・ございま・・・。」


 グローシアは真っ赤になって俯き、そしていそいそとクラークの後ろを付いて行った。


 その光景に私は思わず天を仰いだ。 


 (あ~あ・・・こりゃ、クラーク×リリー計画もポシャったかなぁ・・・)


 私の前では騎士道まっしぐらなグローシアが、兄の前ではあんなに可愛いいのだ。こんなのもう応援せざるを得ないではないか。


 そして溜息交じりに後ろを見ると、クリフがまだぼんやりと滝の流れを見つめていた。


 (クリフは洞窟に行かないのか?)


 彼に声をかけようとした時だった。驚いた事に突然クリフは滝の裏から流れの中に頭を突っ込んだのだ。


 (げっ!何事!?)


 「ク、クリフ様!?」


 狼狽えながらも私は彼に駆け寄った。クリフは後頭部を冷やすようにして滝の中に頭を入れている。


 (いや、修行僧かよ!?)


 「なな、何してるんですか!?」


 私がクリフの腕をひっぱると、彼はようやく滝から頭をひっこめた。


 クリフの髪から肩へとしずくが滴り落ちている。私はポケットからハンカチを取り出して彼の額を拭いた。


 「びしょ濡れじゃ無いですか!」


 (ああもう!こんなピラッピラのハンカチじゃ、役に立たないって!)


 やっぱりハンカチはタオル地が一番なんだよと思っていると、クリフが私の手からハンカチをそっと取って自分で頬などを拭き始めた。


 私は大きく溜息をついた。


 「もう・・・びっくりしましたよ。何をしてたんですか!?」


 そう聞くとクリフはちょっと笑いながら、


 「気持ちいいかと思って。でも思ったより冷たかったな」


 「そりゃそうです!雪解け水ですよ?」


 (びびった。いきなり突拍子もない事をする人だなぁ・・・)


 何だかクリフは、あの事件が起きる前よりも子供に戻った気がした。それまでは自分の心に蓋をしてなるべく表に出ない様にして生きてきた人だから・・・。


 (う~ん、何だろう?手探りで本当の自分をやり直してるような感じ?それにしても自由人すぎるってーの)


 クリフは濡れたハンカチを難しい顔で見つめてどうしようかと考えているようだ。私はその様子がおかしくてクスっと笑ってしまった。


 (はは、ほんとに子供みたい)


 そして彼からハンカチを受け取って軽く絞った。


 (岩の上に置いて乾かしとくか・・・。こんなハンカチじゃ)


 役に立たなかっただろうな・・・と、クリフの方を見て私は息を飲んだ。


 彼の濡れた髪が滝から透けて入る光に淡く照らされて青く妖艶に光っていた。髪を片手で無動作にかき上げ、水滴がぽたぽたと肩に落ちて服を濡らしていく・・・。


 (や、やば・・・な、何なの!?この色気!!まだ13歳だよ?この人ってば・・・)


 水滴は長いまつ毛までも濡らし、紫色の瞳は滝つぼと同じ色で、まるで・・・


 (まるで滝の精霊のイルクァーレみたいだぁ・・・)


 恥ずかしながら、私はあほうの様に、見惚れてしまっていた。


 「アリアナ嬢?」


 (うわっとぉ!)


 どれくらいの時間が経ったのか私はクリフの呼ぶ声に我に返った。クリフの顔は横を向いていて何かを見ているようだ。


 「ななな、何でしょう!?」


 (は、恥ずかしい・・・これは恥ずかしいぞ!?なんちゅう妄想を!)


 「アリアナ嬢、こっちに来てくれ。」


 羞恥に見悶えている私に、クリフがそう言って手招きした。


 彼は来た方とは反対側の岸辺の方に向かってすたすたと歩いて行く。


 (え・・・?)


 私は火照る顔を濡れた手で冷やしながら小走りで彼について行った。


 岸辺には、一段登った所に、岩盤で出来た小さな舞台のような場所があった。


 そこには木々の葉を透かして零れ落ちた陽光が、まるで柔らかなスポットライトの様に光っていた。光は風に揺れる木々と一緒にユラユラと強度を変えながら動いている。


 (ふわ~!これはまた幻想的だわ!)


 もしかして妖精シーリーンが踊っていた場所はこんな所だったかもしれない。


 私でもそんな乙女チックな事を思い浮かべるくらい、非現実的な美しさだった。


 クリフはその上に軽々と登ると私に手を差し出した。


 「あ、ありがとうございます」


 手を掴むとクリフは一気に引き上げてくれた。


 「わぁ!」


 光の下に立って見上げると、緑の葉の間に小さな白い花がちりばめたように咲いていて、木漏れ日と一緒に輝きながら揺れている。


 まるで妖精の世界に迷い込んだ様だった。


 (これは凄い!)


 「きれいですね!」


 私はクリフに笑いかけた。


 「ああ、綺麗だ・・・」


 そう言ってクリフは私の右手を握ったまま、もう片方の手で私の髪を一房救い上げ指を滑らした。


 彼は私の目をまっすぐ見つめ、


 「まるで森の妖精みたいだ」


 少し頬を赤く染め、心を蕩かすような優しい笑みを浮かべてそう言ったのだ。


 (〇△×□×~~~~~!!!!)


 脳みそを溶かされた様な衝撃。


 遠くの方でピーヒョロロ~という、鳶の鳴き声が山に響いていた。



 その後どうやってその舞台から降りたのか、いつ皆と合流したのかよく覚えていない・・・。気が付いたら私は滝の傍の四阿で、皆と一緒にお弁当を囲んでいた。

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