お金取るのか!?
次の日は私を含めて女子はみんな寝不足。朝からあくびを噛み殺していた。
昨夜は結局、レティシアは私達に色んなポーズをさせてデッサンを書き続けた。
最初は戸惑っていた私達もレティシアの言葉に踊らされて、最後の方はノリノリになっていた気もする・・・。
挙句の果てにミリアまで
「ねぇ、4人ばかり描いてるけど・・・、私は入れてくれないの?」
そう言いだす始末だ。
「ミリアは椅子に座って、二人を両側に立たせるの。イメージは二人の美少年をはべらす女主人よ!」
「・・・悪くないわね・・・」
ミリアはキラリと目を光らせた。
(お~い!ミリー。帰ってこい!)
すっかりレティシアのペースだった。
そんな調子で、すっかり寝るのが遅くなってしまったのだ。
デッサンをしっかりと描き上げたレティシアは、
「今夜はこれを仕上げるのに眠れないわ!」
と、疲れてフラフラしている私達とは対照的に、興奮しながら部屋に戻って行ったのだが・・・。
(昨日まさか徹夜したとか?それにしては元気そうだけど・・・)
心配になって聞いてみると、
「大丈夫ですわ。慣れてますもの」
とあっけらかんとした返事が返ってきた。
(さよか・・・)
そして朝食前にレティシアは、描き上げた絵を女子だけに見せてくれた。それが、
「ええっ!凄い!」
「まぁ!」
描いた絵を見た途端、みんなで感嘆の声を上げた。
(ちょ、ちょっと滅茶苦茶上手いんだけど!?)
スケッチブックの中の絵はジョージアとグローシアによく似た美少年と、私達に似た美少女のハッとする様な瞬間を切り取って描かれていた。
(凄く描き込まれたイラストって感じ・・・。これは売れるわ!)
だけどちょっとした違和感に気付いた。
(私、こんな表情してたっけ?)
正直、描かれている間は眠さと退屈で無表情だったと思うのだが、絵の中の私は恥ずかし気にジョージアを見上げて笑っている。
(ジョー相手に、こんな顔してたらヤバいでしょっての!)
人物の表情なんかはレティシアの妄想で、どうやらデフォルメされているようだ。リリーの絵も、グローシアを見つめてうっとりした表情になっている。そして二人の美少年を両手に足を組んで椅子に座ったミリアは不敵な笑みを浮かべていた。
「色を付けたらもっと見栄えが良くなるのですが・・・。まぁ、一度描けば量産できますからそれは追々・・・」
(量産って・・・)
なんかだ物騒な話になって来た。
「ね、ねえ?私、この絵欲しいんだけど・・・」
ミリアがレティを上目遣いで見る。
「良いわよ、友達価格にしてあげる」
(金を取るのか!?)
「わ、わたくしも・・・」
「あ・・・できれば私も・・・」
グローシアとリリーも恥ずかし気だがレティに交渉を始めた。
(マジか・・・はは・・・)
私は生温かい笑みを浮かべるしかなかった。
そして朝食後、私達は昨日話していたイルクァーレの滝へと散歩に出かけた。
「さぁ、行こうか!」
クラークの道案内で私達は遊歩道を進んだ。
レティシアはしっかりとスケッチブックを抱え「これで4人のオフショットが狙えます」と、誰よりも寝不足なはずなのに目をギラつかせている。
最早ミリアは何も言わなかった。
透き通った川沿いの遊歩道は整備されていて歩きやすい。
高原の空気は澄んでいて気持ちが良いし、木々の葉から零れ落ちる太陽の光は柔らかでなんだか気分がウキウキしてくる。
雪をまとった高い山々も思いのほか近くに見えて、何処を見ても絵葉書みたいだ。おかげで眠気も何処かへ行ってしまった。
(ふ~ん、確かにこんな場所なら精霊や妖精が居ても不思議じゃないかもね)
そして私は景色を見て瞳を輝かせているリリーの横顔を盗み見ては(マジ精霊!いや女神!)と心の中で身悶えしていた。
程無くして滝の音が聞こえてきた。
「まぁ!」
「へー!」
「お~!」
皆が思い思いに声を上げる。
道を曲がって突然目の前に現れた滝は、思っていた程高くは無かった。3~4mぐらいの高さなのだが、横にはかなり広い。15m以上はありそうだ。
(小ぶりなナイアガラの滝っぽい)
そして水量が少ないせいか、滝の音もうるさくは無く、なんだか心地よい響きだった。
「滝の裏側は岩盤の道になっていて、歩けるようになっているんだ。滝を裏側から眺められるんだよ。面白いだろ?昔アリアナとも二人で良くここへ遊びに来たなぁ」
クラークは滝を指さしながら遊歩道から川岸へと続く小道を降り始めた。
(クラークと二人か・・・。まぁ兄妹だから運命の相手とも言えなくも無いな、ははは。でも悪いけど全く覚えてないっす)
そんなどうでも良い事を考えながら私達もクラークの後に続いた。川岸は平らな岩で、さほど歩きにくくはない。
「あちらに滝を見ながら、ピクニックできる場所もあるんだ」
指さす方を見ると、少し滝から離れた所に気持ちよさそうな四阿が設置されていた。
「景色を見ながら食べるお弁当は最高だったなぁ」
「良いわね!こんな場所でならいくらでも食べれそうだわ!」
目をきらきらさせたジョージアに「あなたは何処ででも、たくさん食べてるじゃない」とミリアが突っ込みを入れた。
「じゃ、お昼はここで食べようか?。お弁当を持ってくるように、頼んでくるよ」
クラークがそう言うと、
「クラーク様はここで皆さんをご案内してください。お弁当なら私が頼みに行ってきます。上着も持ってきたいので」
優しいリリーが気を利かせてそう言った。
「あ、では私も一緒に行きますわ。私も上着が欲しいから。ついでに皆の上着も持って参りますわ」
ミリアが気をきかせてくれる。確かに滝の傍は少し涼しい。女子は上着があった方が良いかもしれない。
すると滝を見ていたパーシヴァルが突然、
「女の子二人じゃ心配だなぁ。ディーンが付いて行ってあげなよ」
そう言って二人の方へディーンの背中を押しだした。
「え?あ、ああ」
「ついでに僕の上着も持ってきて」
とディーンに向かってウィンクした。
第二皇子の言う事にディーンは戸惑いながらも、二人と並んで「すぐ戻ります」と言い、今来た道を戻り始めた。
パーシヴァルは楽し気に頭の後ろで両腕を組んで、口笛を吹いている。
(別に不自然では無いけどさ。な~んか企んでるように見えるのは何故・・・?)
今はゲームで言うと1部の途中。パーシヴァルだってヒロインに恋まで行かなくても好意は持っている筈なんだけど。
(通常ならパーシヴァル本人がリリーと一緒に行くよなぁ・・・ゲーム通りのチャラ男ならさ。あえてディーンに行かせる理由ってなんじゃい?)
考えすぎかなぁとも思ったが、いまいちパーシヴァルの行動が理解できない。
(やっぱり要注意人物かも?あまり近づかないでおくのが得策・・・)
私はパーシヴァルから心持ち距離を取った。




