真夜中の肖像画
ティールームから部屋に移動する時にレティシアが私の袖を引っ張った。
「あの、アリアナ様。私、クラーク様にお願いがあるのですが・・・」
レティシアがもじもじしている。
「何ですか?」
「あのですね・・・」
レティシアは私に耳打ちした。
その日の夜、女子は全員こっそりと私の部屋に集まった。
そして、
「借りてきました!」
私は別荘に置いてあったクラークの昔の服を、メイドに運んでもらって持ってきた。
「ありがとうございます!アリアナ様。ノエル様の服だと少し小さくて・・・」
「ノエルはチビだからね」
ミリアは弟に辛辣である。
レティシアは持ってきた服を受け取り満面の笑みで、
「さぁジョー、グローシア、着替えるのよ!」
「ほーい」
「ク、クラーク様の服・・・」
何をするかと言えば、ジョーとグローシアに男装させるらしい。
(ふむ。確かに二人とも女子にしては背が高いし、すらっとしてる。顔立ちもきりっとしているから似合うかもしれないな)
二人は衝立の陰でクラークの服に着替え、レティシアの指示で髪も後ろで縛った。少し化粧もしているようだ。
「うん、思った通りだわ!二人とも似合ってますわよ!」
レティシアが満足そうに頷いた。そして両手の親指と人差し指で四角を作って片目で覗いた。
「いいわ!すっごく絵になる。さっ、こちらに並んでみて!」
二人は私達の前に並んだ。
(お?おおーっ!)
カッコいい男の子達が目の前に立っていた。赤毛で青灰色の明るい瞳の元気そうな少年と、細かくウェーヴしたグレーアッシュの髪に、はしばみ色の瞳の少し神経質そうな少年。
「ええ!?驚いたわ!ちゃんと男子に見えるじゃない!」
ミリアが目を丸くして少し頬を紅潮させた。
「本当です!良くお似合いです」
リリーも目を輝かせている。
「そう?」
ジョージアがそう言って、ちょっと格好つけてポーズを決める。
「きゃあ!」
私達は思わず声を上げた。
「ちょっと!あんまり騒いだら、周りに聞こえてしまいますわよ」
そう注意しながらもミリアも興奮気味に笑っている。
「凄いです。二人もだけど、レティってセンスがあるのですね」
私は感心して二人を眺めた。何着か持ってきた服を二人に似合う様に組み合わせたのはレティシアだ。男の子っぽく見せるお化粧も自然で、なんだかこなれている。
「お褒めて頂いて嬉しいですわ。さっ、ではアリアナ様とリリーも一緒に並んでください」
「えっ?」
「はい?」
リリーと私は訳が分からずにぽかんとした。
「ジョーの横にはアリアナ様。グローシアの横にリリーですよ!早く並んでみてください」
私達は戸惑いながらも二人の横に立った。
「良いですわ!ではジョー!アリアナ様を後ろから抱きしめて!そうじゃなくて肩の上から手を降ろすように・・・ちょっとそれじゃアリアナ様の首を絞めちゃってるわよ!」
(う・・・確かにちょっと苦しかった・・・)
ジョーはレティシアに手取り足取りして指示をして貰い、なんとかポーズが決まった。
「こっちは良いわ。リリーとグローシアは壁際に寄って頂戴!そうよ!で、リリーは壁を背に。グローシアは片手をリリーの頭の横について。・・・良いわ!イメージ通りよ」
レティはまたしても親指と人差し指で小窓を作り、こちらを覗いている。私は混乱しつつも自分達がしているポーズに見当がついた。
(こ、これってバックハグと壁ドンじゃん!?なんで私達こんな格好を・・・?はっ・・・もしかしてレティって・・・)
レティシアは私達の困惑をほったらかし、おもむろにスケッチブックを取り出した。そして真剣な表情で鉛筆を動かし始めたのだ。
「ちょっと!レティ。何してるのよっ!?」
ミリアがスケッチブックを覗きこむ。そして眉をピクリと動かして驚きの声を上げた。
「あなた、絵を描いてるの!?・・・待って、これって・・・」
(うわ・・・、やっぱり・・・)
どうやら私が予想した通りだったようだ。
「レティ!もしかして裏の肖像画ってあなたが描いてるんじゃないの!?」
ミリアが呆れた顔でそう言った。
「私だけじゃないわよ」
レティシアはスケッチブックに顔を向けたままだ。凄い集中力でペンを動かしている。
「もう!・・・先生方にバレない様にしなさいよ」
「大丈夫!先生にもお客がいるから」
(おいおい、それって違う意味で大丈夫じゃないよ・・・)
由緒正しきアンファエルン学園がそれで良いのか?と心配になる。
「あ、あの・・・私達いつまでこの恰好でいたら・・・?」
リリーが恐る恐るそう尋ねた。
「大丈夫!デッサン取ったら後はイメージで描けるから!」
「わ、わたくしは、どちらかと言えばアリアナ様とポーズを取りたいのですが・・・」
「グローシア、動かないで!身長的にはこの組み合わせがピッタリなの!」
(そりゃグローシアの方がジョーよりも少し背が高いからね・・・)
背中にホカホカとジョージアの温もりを感じながら、私達はすっかりレティシアのペースにはまってしまったのである。
しかしその夜、私は神セブンにグスタフが入り、彼に壁ドンされる夢をみてうなされたのだ。がっくり・・・。




