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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第三章 悪役令嬢は関わりたくない
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伝説の滝はロマンティック

 ミリアは話を振られて顔をしかめた。


 「え~私?う~ん・・・やっぱり皇太子殿下かしらね。学園では一番尊い方でしょ?」


 さりげなさを装っているけど、ミリアの頬も赤くなってる。やっぱり女子は好きだよね、こういう話。


 (皇太子のトラヴィスも神セブン。これも攻略者だから当然か)


 「そういうレティはどうなのよ!?」


 ミリアが聞き返す。


 「そうねぇ私は・・・」


 レティの端正な顔がピシッと引き締まった。


 「ビジュアル的にはクリフ様!でもディーン様も違うタイプで捨て難いですわね。全体のバランスを考えるとやはり皇太子殿下かクラーク様・・・」


 クラークの名が出た所で、グローシアが一瞬ピクリと反応する。


 「でもパーシヴァル様に遊ばれてみたい感じや、ケイシー様の肉体美も見逃せないですわね。それに・・・」


 「もう良いわ・・・、レティ」


 ミリアが額を押さえて呆れた声で止めた。


 (大人しいと思っていたレティだったけど・・・こうい趣味(?)があったのか。あはは・・・意外)


 でもイケメン好きの私はレティシアの言葉に共感しきりだ。


 「さぁ次はリリーよ。リリーは誰が一番素敵だと思う?」


 仕切り直したようにミリアがリリーに言った。その瞬間、全員の目が真剣になってリリーに注目した。


 「えっ、わ、私ですか!?」


 リリーが戸惑っている。


 (リリーの好きな人か・・・。これは聞き逃せないぞ。これからの方針に関わってくるからね)


 私も思わず息をつめてリリーの言葉を待った。


 「わ、私は・・・」


 (ごくりっ!)



 「アリアナ!そろそろ屋敷の中に入ろう。肌寒くなってきたからね」


 私達は全員ビクッと飛び上がり、声の方を振り返った。少し離れた男子テーブルから兄のクラークが手を振っている。


 (ク、クラーク!・・・お兄様ってば・・・!)


 何て悪いタイミングなんだ!


 私達は渋々屋敷に戻ったが、リリーはホッとした顔をしていた。


 (残念!リリーの好きな人を知るチャンスだったのに・・・)


 だけど私はふと思いついた。


 (もし他の人と好きな人が被っていたら、リリーの性格からすると言わないかもしれないな・・・。うん、もしそれがディーンだとしたらアリアナの前じゃ言えないだろう)


 それにこの告白大会、よく考えたらリリーの次は私の番だったのだ!ここで終わって良かったのかもしれない。婚約者のいる身としては他の男性の名前をあげる訳にいかないじゃんね。


 (あっ、そっか。だから私は最後だったんだ)


 みんな、その辺りは気を使ってくれているのだな。


 (でも全員、リリーの好きな相手を聞く時だけは凄く真剣だった気がする・・・まぁ、そりゃそうか)


 私はちらりとリリーの顔を盗み見て「ほぅ・・・」と感嘆の溜息をついた。


 (やっぱ可愛いよ~!リリーみたいな美少女と好きな人が被ってたら超ショックだよね)


 なんてったってリリーは完全無欠のヒロインなんだから。



 その日の夕食後の事だった。ティールームに移動して食後のお茶を楽しんでいた時にアリアナの母が面白い話をしてくれた。


 「この屋敷から山の方へ続く道の途中に滝があるのだけど、その滝には素敵な伝説があるのよ」


 「母上、またその話ですか?」


 クラークが肩をすくめて苦笑する。


 「あら、あなたとアリアナは何度も聞いたことがあるでしょうけど、皆様は初めてでしょう?」


 (すみません、アリアナは聞いてるだろうけど私も初めてですな・・・)


 私は心の中で呟いた。


 アリアナ母は楽し気に話し始めた。


 「あのね、昔その滝にはイルクァーレという美しい少年の精霊が住んでいたのですって。そして彼は、森の妖精のシーリーンに恋をするのよ」


 「まぁ、素敵なお話だわ」


 ロマンティックな話が好きなレティシアは、うっとりとした顔をする。


 「でも滝の精霊であるイルクァーレは滝から離れる事はできないの。だからいつも緑の木漏れ日の中で踊るシーリーンを見つめているだけ」


 「私だったら、大声出して声かけるけど。」


 ジョージアはそう言ってデザートのお代りをメイドに頼んだ。


 「馬鹿ね!ジョー。大声出す精霊なんて変でしょ?」


 「そうよ、それにロマンティックじゃないわ」


 ミリアとレティシアはジョージアに話の腰を折るなと注意した。母はそんな3人に「ほほほ」と笑いながら話を続ける。


 「イルクァーレはシーリーンに気付いて欲しくて滝の音を奏でるの。そしていつしかシーリーンはその音に合わせてダンスを踊る様になったそうよ。でもね・・・、あの山には嫉妬深い獣の神が住んでいて、二人の淡い恋を邪魔するの。獣の神は口から炎を吐いて山の雪を溶かし、滝の傍で踊っていたシーリーンを雪解け水で流してしまったの」


 「滝の精霊なんだから、雪解け水なんて止めちゃえばいいのに」


 「黙りなさい!ジョー。お話の邪魔しないで」


 ミリアがジョージアの口を手でふさいだ。


 「ふふ、そうね。でもシーリーンに見惚れていたイルクァーレは、流れてくる雪解け水に気づかなかったのね。悲しんだイルクァーレは滝の裏にある洞窟に籠ってしまったの。そしてやがて彼は洞窟の中で、美しい水晶になってしまったそうよ。シーリーンを思いながら・・・」


 レティとリリーがほーっと溜息をついた。グローシアを見ると涙ぐんでいる。


 「悲しいお話です・・・」


 そう言って鼻をすすった。


 母はにっこり笑って


 「でもね、お話はそれで終わりじゃないのよ。二人を可哀そうに思った山の神がそのイルクァーレの滝に魔法をかけたの」


 「どんな魔法ですか?」


 パーシヴァルが聞いた。


 (おっ、男子でもこんな話に興味あるんだ?)


 男子組に目をやると、思ったより真剣に聞いているようだ。


 「山の神は流されてしまったシーリーンの心を拾い上げて、イルクァーレの宿る水晶と一緒にしてあげたの。だから滝の裏の洞窟には一つだけ見る角度によって緑と紫に光る水晶があるそうよ。」


 「良かったわ・・・」


 「二人は一緒に居られるようになったのね」


 リリーとレティシアがホッとしたように言った。母はそんな二人に頷ずきながら、


 「そしてね、その出来事があってから、滝で偶然二人っきりで会うことができたら、その二人は運命の相手になるのですって。うふふ、実は私と夫はその滝で出会ったのよ」


 そう言ってアリアナ母はアリアナ父に微笑みかけた。二人はそっと手を重ねあう。


 女子達の中で「きゃあ!」っと言う声が上がった。


 「素敵な話だわぁ・・・」


 レティシアが目をつぶって両手を合わせて口元に寄せた。


 「ほんとにロマンティックですね」


 リリーも少し赤くなった頬を冷やすように手当てた。


 「わ、わたくしも・・・・様と、滝で・・・」


 ごにょごにょ言っているグローシアが何を想像したのかは直ぐに分かった。


 ジョージアだけ一人、デザートのお代りの次のお代りを頬張りながら、


 「う~ん美味しい!ねぇ、私だったら雪解け水に流される様なドジはしないわよ」


 「もう!あなたは黙っときなさい!」


 ミリアにそう怒られていた。


 (ふ~ん、そんな伝説の滝があるのね。まぁ・・・ありきたりの話だな)


 前の世界を知ってる私は、どうやら皆よりドライのようだ。


 「あの・・・、その滝には今でも行けるのですか?」


 そう聞いたリリーに母は頷いて、


 「ええ、もちろんよ。歩いて15分くらいだからちょうど良い散歩になるわ」


 「じゃあ明日の朝、皆で行ってみようか?僕が案内するよ」


 クラークがそう言うと女子からは「わぁ!」と声が上がった。男子達も異論は無さそうだ。


 (ふむ、きれいな滝を見ながらマイナスイオンを浴びるのも悪くないか・・・)


 メロドラマな伝説に興味は無いが、遠足気分で楽しいかもしれない。


 「さぁ皆さん、そろそろお部屋に戻りなさい。明日は寝坊しないようにね」


 「ゆっくり休みたまえ」


 アリアナ父と母の声でその夜はお開きとなったのだ。

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