攻略者達
レティシアは「こほん」と咳払いをすると、ひそひそ声で神セブンの説明を始めた。
「・・・まずクリフ様。澄んだ空の様に青く光る銀髪と神秘的な紫の瞳。その容姿は女性でも敵わない程の美貌と評判が高いのですわ。ただぶっきら棒ですし、それにあまりにも美し過ぎる事から近寄りがたく思われてますけれどね。だって横に並ぶとねぇ・・・自分の方が完全に霞んでしまうというか、絶対に見劣りしてしまいますもの」
レティシアは頬に手を当てて残念そうに首を振った。
(なるほどねぇ。確かにクリフはユニセックスな感じだし、髪を伸ばしたら美女と間違えられそう。でも中身は結構男らしくて、笑い上戸で面白いんだけどなぁ)
レティシアの説明は続く。
「次にディーン様。風になびくシルバーブロンドの髪はさながら美しい抜き身の剣を見るよう。そして夜の帳を思わせる濃い藍色の瞳。とても神秘的な方ですわ。でも彫刻の様に整った容姿のせいか、やはり近寄り難く思われてます。それにアリアナ様の婚約者ですから余計に皆遠巻きにされてますわ。でも裏の肖像画はクリフ様と並んで良く売れてますけど・・・」
「ちょっと待って、レティ!」
ミリアが声を潜ませながらも鋭く問う。
「裏の肖像画って何よ?」
「私、知ってるわよ。」
ジョージアが右手にケーキ、左手にクッキーを持ってかじりながら声を上げた。
「絵の上手い子が学校のカッコいい男の子の絵を描いて、販売しているのよね?」
(え?、学園内でそんな商売が・・・?)
「それって校則違反じゃないの?」
真面目なミリアが眉を潜めてレティシアを睨む。レティシアはミリアから目を逸らした。
「まぁまぁミリー。そんなに高い値段では無い様だから、見逃してあげなよ」
ジョージアが適当な感じでなだめた。
(へぇ、プロマイド写真みたいなものかな?確かにディーンは黙って立ってりゃカッコいいもんねぇ。勉強もスポーツも出来るし。ちょっと冷たそうに見えるけど、そこも魅力の一つってとこか。でも最近思うんだけど、意外とあの人要領悪い気がする。真面目過ぎなんだろうなぁ)
レティシアはミリアの視線から逃げる様に咳払いして話を続ける。
「そしてパーシヴァル様は、言わずと知れたこの国の第二皇子。金褐色の明るい髪ときらきら光るトパーズ色の瞳。そして誰をも魅了する笑顔と人を逸らさない話術でで人気が高いのですわ。それに少し下がった目じりがセクシーなのよ」
(ふ~ん、皆よく見てるわね。ゲームでのパーシヴァルの設定と同じだわ。う~んだけどさ・・・)
私は少し、この世界で見るパーシヴァルと、ゲームの中のパーシヴァルとに違和感を感じていた。
(ゲームの中ではもっとチャラチャラしてたんだよなぁ。周りに女の子いっぱいはべらせて。もっともっと軽薄で口が上手いイメージだったんだけど・・・)
ヒロインとの出会いもナンパから始まるくらいなのだ。
(パーシヴァルは根は優しくて能力も高い。でも母親違いの兄である王太子に対して、幼少期から強いコンプレックスを持っているだよね。それをごまかす為に、女の子に声かけまくる軟派皇子って設定だったはずなんだけど・・・)
口が上手くて軽いのはそのままなんだが、そこまでチャラチャラしているようには見えないのだ。
(まぁ、私も悪役令嬢やってないし、多少ゲームと変化があってもおかしくは無いか・・・)
疑問は残るがそう思う事にした。
「そして、アリアナ様のお兄様であるクラーク様!」
レティシアの言葉にお茶を吹きそうになった。
「え?お、お兄様もですか?」
「もちろんですよ!クラーク様と言えば国内でも名高いコールリッジ家の令息ですよ!・・・アリアナ様によく似たハニーブロンドの髪に新緑を思わせるエメラルド色の瞳。一見優し気なのに隙の無い美貌を持ち、5年生でも敵わない程の魔術の使い手と上級生の中でも人気ですわ。肖像画も飛ぶ様に良く売れてます!」
「は、はぁ・・・そうなんですか」
(クラーク、結構やるな・・・ていうか考えなくても4人とも普通に乙女ゲームの攻略者じゃん!そりゃスペック高くて人気が出るのに決まってるか)
そりゃそうかと納得していると、
「あ、あの・・・ノエル様は?」
リリーが少し気まずそうに声を落として聞いた。
「ノエル?ノエルが神セブンに入ってるわけ無いじゃない」
ジョージアがあっけらかんと言う。
「そうよね・・・わが弟だけど、それは無いわ」
ミリアも容赦が無い。
「で、でもノエル様はとても優しい方だと思いますよ」
私も慌ててフォローのつもりで言ったが、ミリアは冷静な顔で首を振る。
「ありがとうございます。アリアナ様にそう言って頂けて弟はもう思い残す事は無いと思います」
などと彼の人生最後の様な言い方で締めくくった。
(なんかノエルって不憫・・・良い子なのになぁ)
「ノエルも一応、裏の肖像画のラインナップには入ってましたよ。・・・あまり売れてないようですけど・・・」
レティシアが思い出したように言った。
(レティ・・・フォローになってないよ・・・)
するとさっきまで黙って聞くだけだったグローシアが突然立ち上がった。
「わ、わたくしは、クラーク様が一番カッコいいと思います」
「しーっ、グローシア声を抑えて!」
ミリアが慌ててグローシアを座らせる。
男子達が一瞬いぶかしげにこちらを見たが、皆で曖昧な笑みを返してごまかした。
私達はテーブルの真ん中に頭を寄せてさらに声を潜めた。
グローシアはもう一度、
「クラーク様が一番だと思いますっ」
そう言った頬は赤くなってるし呼吸も荒くなってる・・・。
(グローシア・・・分かりやす過ぎる・・・)
すると、
「私は3年のケイシー先輩かな?ミリーのお兄さんなんだけど」
ジョージアがそう言ってニッと笑った。
(・・・ケイシー・・・?ケイシーって、もしかしてケイシー・バークレイ?攻略者の一人の)
確かバークレイ伯爵家の子息で、男気があって元気印が特徴だった。
(何度か攻略したけど、嫌みの無い明るい性格が好感持てたのよね・・・。そういえばミリーと同じ苗字じゃん!・・・今頃気付くなんて・・・)
自分のうかつさに呆れてしまう。そう言えばケイシーの設定の中に兄弟姉妹が多いって書いてあったような。
「ミリーのお兄様も神セブンに入っているのですか?」
「そうよリリー。ケイシー様は筋肉系男子なの」
「き、筋肉系男子!?」
レティシアの説明に私もリリーも目を丸くする。
「とても運動神経が良いんですよ。爽やかなイケメンですし。さぁ今度はミリーの番よ。あなたは誰が一番好きなの?」
「えっ?」
すっかり場は、好きな男子の告白大会みたいになっていた。




