神セブン
次の日の午後、ちょうどお茶の時間にミリア達がやってきた。もちろんノエルも付いてきているが驚いたのは、
「クリフ様!」
クリフも一緒だった事だ。
ミリアには一応誘ってくれるようにお願いしたが、本当に来てくれるかは半信半疑だったのだ。
「やあ、アリアナ嬢・・・招いてくれてありがとう」
キラキラした湖をバックに、クリフは晴れやかにそして少し照れくさそうに頬を染めて笑った。
私はその光景に、スナイパーに頭を撃ち抜かれた様な気がした。
「ど、どうしたんです!?アリアナ様」
「い、いえ・・・大丈夫です」
額を押さえてのけ反る私にミリアが心配そうに駆け寄ったが、私はなんとか取り繕った。
(や、やっばいぞ、クリフってば!美しい景色と相まって、ますます美形度が増してないか!?)
さすが、攻略者ナンバーワンの美貌はだてじゃない。
前回の事件・・・皇太子暗殺未遂事件に関しては、クリフにお咎めは無かったらしい。むしろ事件を未然に防いだという事で、皇帝から感謝されたとか。
(これもアリアナのお父さんに聞いた事だけどね・・・。ほんと情報通過ぎて怖いわ・・・)
スパイとか隠密を持っているのだろう。
まぁでも今、クリフが憂いなく笑っているのが何より嬉しい。
(そう言えばゲームではこんな表情見た事無かったなぁ・・・)
そんな事を考えていたら、ミリアが「あっ」と思い出したように私に向かって綺麗なお辞儀をした。
「アリアナ様、お招き頂きありがとうございます。素晴らしい所ですね、こんな素敵な別荘は見たことが無いですわ」
「遠い所を来てくれて嬉しいです。疲れてはいないですか?」
「全然!この景色見たら疲れなんか吹っ飛んじゃったわ。早くあそびたい!」
ジョージアは湖に行きたくてうずうずしているようだ。
「アリアナ様、ありがとうございます」
大人しいレティシアも頬を上気させて目を輝かせている。
(よし、やっぱり良かったぞ!皆を招待して。グスタフの件で気分悪かったけど、夏休みを楽しむのはこれからじゃ!)
玄関でアリアナの両親とクラークも皆を迎えた。
「いらっしゃい。ようこそコールリッジ家の別荘へ」
「お、お招き頂きありがとうございます」
「わ、私も、ご招待頂き、ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます」
さすがに皇国一の貴族と名高いコールリッジ公爵の前では、皆は緊張しているようだ。
「皆、アリアナと仲良くしてくれてありがとう。アリアナが事件に巻き込まれた時に君達が助けてくれたと聞いた。心から感謝しているよ。自分の家だと思ってくつろいでくれていいぞ。後でアリアナを助けた時の武勇伝でも聞かせてくれたまえ」
(ははは・・・)
アリアナ父のオーラに圧倒されているのか、皆は頭ぺこぺこ下げるばかりだ。
「私と夫は明後日には領都に戻りますが、皆さんはゆっくりしてくださいね。アリアナ皆さんをお部屋にご案内してね」
「はい、お母様」
(アリアナ母、ナイスフォロー!)
使用人達が皆の荷物を先に部屋へと運び始めた。
「やぁ、いらっしゃい。来てくれて嬉しいよ。」
クラークは皆にそう言うと、ノエルとクリフに向かって
「明日は一緒に遠乗りしないか?良いコースがあるんだ」
「あ、ありがとうございます」
「ぜひ、ご一緒させてください。」
ノエルは緊張気味に、クリフは笑みを浮かべてそう言った。
(そういえばクラークは別荘に来て以来、遠乗りに行ってばかりだったなぁ)
フェミニストの彼だけどやっぱり女子の中に交じって遊ぶのは恥ずかしかったのかもしれない。
(グスタフが来た時にクラークが一緒だったら、少しは援護してくれたかもしれないのになぁ)
クラークはアリアナに近寄る虫を許さないのだ。ディーンの事もたまにジットリした目で見ている事があるくらいだ。
そうして、皆を部屋に案内しようとした時だった。玄関の外で、カラカラと馬車が着いた音が聞こえた。
「あら?また誰かが来たようですね」
母がそう言うと執事が確認する為に外へ出た。そして直ぐに戻って来ると、
「ギャロウェイ家ご子息のディーン様と、パ、パーシヴァル第二皇子がいらっしゃいました!」
少し慌てた様子で、そう私達に告げたのだ。
父も母も少し戸惑った顔をしたが、さすがに大貴族だけあって直ぐに落ち着いた素振り執事に出迎えの準備をさせた。
だけど私はそうはいかない。意味が分からず大慌てだ!
(はぁ!?パーシヴァル!?ディーンが来るとは聞いてたけど、なんでパーシヴァルまで来るの!?)
学園では私と彼は全く接触が無かったのに。
玄関に着くなりディーンは完璧な作法で父と母に深々と頭を下げた。
「コールリッジ公爵、この度はお招きいただきありがとうございます。すみません、私一人で来るはずだったのですが、パーシヴァル殿下がどうしても一緒にと・・・」
ディーンのしっかりしている所は本当に素晴らしいのだが、礼儀正し過ぎて子供らしくない。対してパーシヴァルは、
「ディーンにくっ付いて来てしまったよ。しばらく世話になっても良いかな?」
と全く悪びれた様子がない。でもキャラのせいか不思議と人を嫌な気分にさせなかった。
「かような辺鄙な所へお越しいただけるとは・・・。殿下にはご不便な思いをさせるかもしれませんが、精いっぱいおもてなしさせて頂きます」
父は第二皇子の突然の訪問にも如才無く答えて頭を下げた。
「ディーン君もよく来てくれたね。アリアナも他のご友人も待ちかねていたと思うよ。さぁ荷物を置いたら庭のテーブルにお茶を用意させよう。ゆっくりしてくれたまえ」
「はい、ありがとうございます」
(昨日のアリアナ父との話を思うと、普通の会話にも含みがあるように思えてしまうわ・・・)
私が思うに、やっぱり彼は狸なのだ。
別荘の庭に設えてあるガーデンテーブルにお茶の支度が整った。如何にも優雅な貴族のティータイムと言ったところだ。
男子と女子にそれぞれ分かれたテーブルは、程よく距離が離れている。
(それにしてもパーシヴァルはどういうつもりなんだ?いきなりアリアナの別荘に来るなんて)
確かにゲーム設定でもディーンと彼は親友で仲いいとされていた。だからこそアリアナの事は毛嫌いしていた筈だ。
(単にディーンにくっ付いて来ただけどとも思えない。もしかして、パーシヴァルもリリー狙いか!?)
彼も攻略者の一人だ。可能性はある。
私は淹れたてのお茶を飲みながら、横目でちらちら男子達が座っているテーブルを伺った。
(なんの話をしてるんだろう?)
兄は遠乗のり相手が来て嬉しそうだが、他の面々はどういう気分なんだか。
(それにしてもさ・・・)
私が男子テーブルを見ながらぼんやり考えていると、
「それにしても、なんて素晴らしい光景なのでしょう!」
レティシアがほーっと溜息をつきながらそう言った。
(ん!?)
私は自分が考えていたのと同じセリフを、彼女そのまんま言った事に驚いた。
「何が?」
ジョーがいつもの如く、ケーキをむしゃむしゃ頬張りながら聞いた。
レティシアはちょっと声を抑えて、
「だって、見てごらんなさいよ・・・。学園で神セブンと呼ばれる美男子が、ここに4人も揃っているのよ!ああ、美しくてなんだか胸が苦しくなるくらいだわ・・・」
「か、神セブン!?」
(なんじゃい、そりゃ!?)
それに、美男子って言い方が絶妙に古くて妙に艶めかしかった。
(この世界では普通の言い方なのか?)
私が一人でドギマギしてると、ミリアが呆れたように、
「またレティったら、変な事言って・・・」
しかしそう言う彼女もなんだか頬が赤い。
「あら、ミリー!女生徒の間では話題になっているのよ。知らないの!?」
レティの言葉に私達は顔を寄せて、こっそり男子テーブルを盗み見た。




