生理的に・・・
アリアナの父はにこやかに笑いかけながら、話しを続ける。
「グスタフ卿は少々年は離れているが、悪い男ではないよ。仕事は出来るし色んな面で能力も高い。アリアナは覚えてないだろうが、小さい頃から世話になってるんだよ。きっと君を大事にしてくれると思うのだが・・・」
(すみません!お父様。良い悪いの問題では無いのです)
「実は・・・随分前から打診はされてたんだよ?。君がディーン君と婚約する前からね」
(いや、それいつの話よ!?ディーンと婚約したの8歳ぐらいでしょ!?それより前って幼児だよ?幼児に婚約申し込むってその時点でイカれてるでしょ!)
年の差婚が珍しくない貴族だからなのか、アリアナの父は少しも疑問に思ってないようだ。確かに父と母は一回り年が離れているけど・・・。
(いやいやその頃グスタフって既にアラサーでしょ!レベルが違うっての!)
私は声には出せない叫びを心の中で喚き散らした。
「もう一つ正直に言わせて貰うと、リガーレ家と姻戚関係になるのは我がコールリッジ家にとっても益があることなんだ。ディーン君のギャロウェイ家よりもね」
(うっ・・・それは知ってる・・・)
ゲームの設定でもそうだった。アリアナがどうしてもディーンが良いと言ったから、父も母も渋々ディーンのギャロウェイ家に婚約を打診したのだ。そしてコールリッジ家よりも立場の弱いギャロウェイ家からしたら・・・。
(断れなかったんだろうなぁ・・・)
確かその頃ディーンには婚約間際の女の子が居たはずだった。それを無理やり引き離したのだ。いまさらながらにディーンが不憫になる。
「もちろん、君の気持が優先だから無理強いするつもりはないが」
「ありがとうございます!お父様」
(あ~、溺愛設定で良かったぁぁぁ!)
「どうかな?。君の将来の伴侶として、リガーレ公爵の事も候補に入れてあげては・・・?」
以前のアリアナには父はこんな事は言わない。言っても理解できないからだ。
(泣いて、暴れて、「ディーンが良いっ!」と言って終わりだろうなぁ)
アリアナの父はアリアナが変化した事を理解した上で(中身が丸ごと変わったとは思って無いだろうけど)コールリッジ家の駒になる事を提案してきてる。それでいて強制しないところ父のアリアナへの愛情を感じた。
確かに今の私なら父の言う事が正しいって分かる。でも・・・、
私は背筋を伸ばし、アリアナの父と真っすぐに目を合わせた。
「このような言い方をするのは大変申し訳ないとは思うのですが・・・、はっきり言わせて頂きます。私、リガーレ卿は生理的に無理なのですっ!」
「は?」
頭の良い父には珍しく、理解が出来なかったようなので、
「生理的に無理なのです!」
もう一度、はっきりと言い切ってやった。
「せ、生理的・・・?」
「はい、まず彼と会うと冷や汗が出て震えが止まらなくなります。喉は渇き、頭の中には霞がかかり、思考が上手く働かなくなります。要約すると・・・私は彼と結婚すると絶対に幸せになれないのです!。もう絶対無理なのです。どうしても、どうやっても、どう考えても、ありえない程、とにかくぜ~~~~ったい、無理なのです!」
(あ~息も吸わずに言ったから、酸欠になりそう・・・)
頭がクラクラしながら息をぜーぜーさせてる私を見て、父はよほどの事と思ったのだろう。少し呆然としつつも「分かった・・・」と言い、それ以上は無理強いしなかった。
父は場を取り直すように「んんっ」と咳払いし、
「それからもう一つ、噂を聞いているんだがね。・・・君はウォーレン家の子息とも仲が良いらしいね?」
「クリフ様ですか?クリフ様はライバルですよ」
「は・・・?ラ、ライバル?」
今度は何故か目を丸くしている。
「はい!学年一位という目標を同じくするライバルです。なかなかの強敵なので大変ですが、私は戦うのを楽しみにしているのです!」
「そ、そうか・・・。」
アリアナの父はどう言う訳か頭を抱えてしまった。
「お父様?」
(そんな、変な事言ったかな?)
だけど彼はすぐ顔を上げた。
、
「くっくっく・・・分かったよ、アリアナ。リガーレ卿は生理的に合わない。ウォーレン子息はライバル・・・と。私の娘は可愛い上にユニークだ」
そう言って彼は私にウィンクし、
「さぁ、もう休みなさい。明日はお友達が沢山来るんだろう?」
「あっ、はい」
「君が前よりもずっと元気になって、それに友人が沢山出来て本当にうれしいと思っているんだよ・・・。アリアナ」
「はい。」
「本当に良かったと思ってる。それは忘れないでくれ。・・・成長したね」
父はそう言って、私の頭にふわりと大きな手を乗せた。
私はなんだか、心がじわじわと温かくなった気がした。そして少し恥ずかしかった。多分これはアリアナと私、二人が持つ感情なのだ。




