グローシアの活躍
その後、寮に戻る事が出来た私は、過保護すぎる兄にベッドに無理やり寝かされ医者を呼ばれた。
「お腹がすきました・・・」
そう言うとベッドの上にテーブルをしつらえて、消化が良くかつ見栄えも味も良い料理が大量に並べられた。
次の日からは先生方や警察省の人から事情聴取の嵐。
私はクリフの事は伏せて、なるべく正直に説明した。
おかげであと4日で夏休みだというのに、3日も学校を休まされたのだ。
聴取も終わりその日の放課後に、ミリア達やリリーを寮の部屋に招待した。助けて貰ったお礼をしたいと思ったのだ。
するとクラークがディーンと何故かグローシアも呼んで、今一緒にリビングルームの大きなテーブルを囲んでいる。テーブルの上にはグローシアが持ってきてくれた外国の美味しそうなケーキや焼き菓子が並んでいた。
「皆様今回はありがとうございます。皆様のおかげで危うい所を助けられました。心からお礼を言います」
私は深々と頭を下げた。
「本当に皆のおかげだ。アリアナにもしもの事があったらと思うと、僕は・・・僕は・・・」
クラークは涙ぐんでその先が言えないようだ。あの事件以来、彼は毎日この調子なのだ。妹溺愛過ぎてちょっと怖い。
でも私の捜索に生徒である皆が加われたのは、兄のおかげだった。先生や憲兵には反対されたらしいのだが、兄が公爵家の権力で押し切ったのだ。
結果グループで行動する事を約束に私を探すのを許されたらしい。これは皆の魔力が大人以上にに強くて魔術に長けている事も考慮されたようだ。おかげで魔力の少ないノエルは参加できなかったらしいが・・・。
「それにしても私が居た場所が良く分かりましたね。もっと時間がかかると思っていました」
「グローシアですわ」
ミリアが少し悔し気に言った。
「グローシアのおかげです」
なんとあの日私が攫われた四阿の所で、例によってグローシアは隠れてストーカー並みに私を見守っていたらしいのだ。
グローシアの方に目をやると、彼女は興奮したように頬を染め、小鼻を膨らませて騎士の様に礼をした。
私がイーサンに眠らされた時、グローシアはとっさに駆けつけようとしたらしい。だがイーサンは私を担ぎあげると直ぐに姿隠し魔術を使った。
「その場でお助けできなかったのは痛恨の極みです・・・。申し訳ありません!」
グローシアがまた土下座をしようとしたので、私は慌てて止めさせた。
私を追う事が出来なくなったグローシアは、急いでクラークやミリアにその事を知らせてくれた。だから捜索を早く始める事ができたのだ。その上彼女はイーサンと一緒に居たデイビットを見つけ出してずっと見張っていたらしい。
「アリアナ様を攫った者と、また接触するかもしれないと思ったのです」
グローシアの推測は当たった。夜の8時も過ぎて、デイビットは今度は学校の空き教室に向かった。そしてイーサンはそこで待っていた。
「グローシア嬢だけじゃ夜の追跡は危険だからね。僕も付いて行ったんだ」
クラークが言った。
(そっか、クラークも姿隠しの魔術が使えるしね)
「イーサンとデイビットが分かれてから、イーサンを追跡しょうとしたのだけど、彼は裏庭辺りで姿を消してしまった。でもデイビットとの話の中で、アリアナを城下町のゲド地区に連れて行ったと言う話を聞いたんだ。だから急いで先生方や憲兵長に知らせた後、僕らも集まって捜索に加わったのさ」
「そういう事だったのですか・・・」
私は改めてグローシアに礼を言った。彼女は「主を守るのは騎士の務めです!」と言って再び騎士の礼をした。
なんか色々間違ってる気がするけど、まぁいいか。
ミリアが場の空気を変える様に「んんっ」と咳払いをし、
「それでゲド地区を捜索中に、リリーが建物の外に落ちていたアリアナ様の髪飾りを見つけたのです」
「あ、あの髪飾り!?」
(役にたったんだ・・・)
「きっとこの建物に捕らわれているに違いないと思いまして、少々荒っぽい方法でしたが壁を壊させて頂きました」
「えっ!?。あの壁の大穴はミリーが空けたのですか!?」
「はい、土魔術で少々」
私はあんぐりと口を開けた。
「驚いたわ。ミリーの魔力って凄いのね・・・」
「その気になれば、あれぐらいの建物でしたら、一瞬で瓦礫に変えて見せますわ」
ミリアは頬を少し赤らめ、冗談とも本気ともつかぬ口調でそう言った。
(これは・・・確かに大人以上だわ)
ジョージアやレティシアの魔術も、イーサンには通用しなかったとはいえ相当の強さだった。なるほどクラークが権力で押し切ったとは言え、皆が捜索に加われたわけだ・・・。
「それにしても闇の魔術が出てくるとは思いませんでしたわ・・・」
レティシアが眉を潜めながら怖そうに両手で頬を覆った。
「ああ、学園の先生方や憲兵長も魔術省や警察省に連絡するって言ってたよ。50年以上ぶりらしいよ、闇の魔術の持ち主を発見したのは。恐らく皇帝陛下にも報告が上ると思う」
クラークの目も真剣だ。
「あの時はディーン君とリリー嬢が居たから助かった。僕達だけじゃ太刀打ち出来なかったよ。本当にありがとう」
皆がうんうんと頷く中ディーンは首を振った。
「いや、私は闇魔術の攻撃を防ぐので精一杯だった。活躍したのはリリー嬢だ」
「いえそんな私は!・・・私はただ必死だっただけで」
「私もリリーは素晴らしかったと思いますわ。光魔術を使っていた時のリリー、なんだか神々しい位でしたよ」
私がそう言うと、リリーは恥ずかしそうに両手を振った
「そんな・・・褒めすぎです。・・・実は光の魔力を持っていると言われましたが、今まで自分では自覚が無くて・・・ですか光の魔術を使ったのはあの時が初めてだったのです。アリアナ様を助けたいって思ったら自然と発動したというか。皆様のお役に立てたのなら本当に幸せです」
そう言って胸の前で両手を祈る様に組んで頬を染めた。
(か、可愛い~っ!)
照れながらうつむくヒロインはもう可愛さの極値ですよ!
皆もそんなリリーを微笑ましく見ている。
(あ~こりゃもう、ディーンなんか完全にイチコロだわね)
私は若干乾いた笑みを浮かべた。
ちなみにジョージアの稲妻で感電して焦げた狐目と髭面は、憲兵に捕まって牢屋に入れられた。公爵令嬢を誘拐したのだ、恐らく外に出られるのはおじいさんになってからだろう。
(私の事ツルペタって言った罰だね。ざまぁみろ!)
乙女の心をえぐった罪は重いのだ。




