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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第二章 悪役令嬢は巻き込まれたくない
33/218

暗転

 このまま中に居たらいずれ見つかってしまう。かといって、四阿の何処から出ても隠れる所は無いし・・・。


 (こうなったら、二人が入ってきた瞬間に横から出て外壁に隠れるしか・・・)


 私はしゃがみ込んで、左側の出口のベンチの陰ギリギリに身を隠した。二人が入ってくる瞬間に外にでて隠れれば、見つからないようにできるかも。


 「こんな裏庭の奥に来るのは、俺たちか、この前見たガキぐらいさ」


 話し声と足音はどんどん近づいてくる。私は息をひそめた。そして、彼らが四阿に入って来たであろう瞬間に、私はしゃがんだままサッと外に出て、四阿の壁に貼りついた。これで覗きこまれない限り見つかりはしないとだろう。


 しかし彼らがどこかに行かない限り、私は動けそうも無かった。


 (うう、お願いだからこっち見たりしないでよ)


 じっと動かず、必死で息をひそめた。彼らは四阿のベンチに座ったようだ。


 「おい、ほんとにやってくれるんだろうな?」


 「なんのことです?」


 「とぼけんなよ!お前らが皇太子の暗殺を・・・」


 「しっ!声が大きいと言ったでしょう。こういう話は校内でする事では無いですよ。それに俺は単なる繋ぎだって言ったでしょう?。紹介はしますけどね。俺は手は出さないですよ」


 皇太子の暗殺・・・その言葉を聞いて私の心臓は鼓動を速めた。


 (やっぱり、そういう流れになってるんだ!。それにしても、この人は誰だろう?。闇の組織の人間?。そんな奴がもう校内に入り込んでるって言うの?)


 やっぱり私達じゃ手に負えない。父に相談した方が良いのかも?と思った時だった。


 「全く・・・あなたの声が大きすぎて、どうやらネズミが寄って来たようですよ」


 「何?」


 (なにっ!?)


 「盗み聞きが下手ですね。気配がバレバレだ」


 そう言ってこちらに向かってくる足音が聞こえた。


 (や、ヤバい、ヤバい、ヤバい!)


 私はとっさに立ち上がって逃げようと足を踏み出した。だが、


 「えっ!?」


 驚く速さで私の前に回り込んできた人影に、立ち止まるしかなかった。


 (うそっ!早っ)


 ウザ声もやってきて、


 「あっ!こ、こいつ、い、いや、聞いてたのか?今の話を!」


 ウザい声で叫ぶ。


 「誰かな?君は」


 私の目の前に立っているもう一人が笑みを浮かべ、優しいとも言える柔らかい声でそう聞いてくる。


 彼は私達と同じくらいの年の少年だった。漆黒の髪と濃い緑の瞳。ウザ声とは対照的に奇麗な顔をしている。目じりが少したれ気味で、笑うと優しげでさえあるのに、目の奥に油断のできない何かが潜んでいた。


 私が黙っているとウザ声が


 「や、やばいよ。こいつコールリッジの娘だぜっ。話を聞かれたとなったら・・・」


 「コールリッジ?へぇ、大貴族様じゃないか」


 少年の顔から笑みが消える。彼の目に一瞬凶暴な感情が見えた気がして、私は勝手に身体が震えてしまった。


 (こいつ、ヤバい・・・)


 学園の制服を着ているからここの生徒なんだろうけど、彼の周りに漂う雰囲気はどこか異質だった。この学園によく居るぽやぽやした貴族の坊ちゃんとは違う。剥き身の刃物のような見る時のようなヒリヒリした感覚を受けるのだ。


 「あなた・・・誰?本当にここの生徒なの・・・?」


 少年の表情は変わらない。


 「お、おい、どうすんだよ!何とかしろよ。金払ってんだろ!」


 (あ~、うるっさい、ウザ声!)


 こっちは緊張で喉が貼りついているというのに!


 「とりあえず、眠ってもらおうかな?」


 冷たい感情の無い声だった。全身に鳥肌が走る。


 (殺される!)


 震える足を手で押さえて私は走りだそうとした。でも、


 「・・・あっ・・」


 身体の向きを変えた瞬間、目の前が真っ暗になった。





 (冷たい・・・)


 どうしてだろう・・・いつも暖かいベッドで寝ているはずなのに、どうしてこんなに寒いんだろう?


 (ベッドから落ちたのかしら?)


 起き上がろうとして、自分がまったく動けない事に気が付いた。


 (・・・っ)


 一瞬で、私は今までの事を思い出した。おかげで、ぎりぎり声を出さずに済んだ。


 (うう、キツイ・・・でも、今は気を失ったフリをしていた方が良い・・・。)


 私は後ろ手に縛られ、猿ぐつわも噛まされていた。


 多分、あの少年は私に眠らせるか意識を失わせる魔術をかけたのだろう。今がいつ頃か分からないけど、人を眠らせる魔術は術者の力量によって、眠りの深さや時間が変わるという。


 (あいつ・・・、相当の使い手だ)


 目を開けられないのでここが何処かは分からない。ただ、自分が石の床に寝転がされているのだけわかる。冷たい床に熱がどんどん奪われ、身体が冷え切ってしまった。唇が勝手に震えてくる・・・。


 (うう・・・、このままじゃ風邪ひいちゃうわ。せめて何か被せてくれたらいいのに・・・)


 さらわれている身としたら贅沢な要望かもしれない。冬で無かったのだけがありがたい。


 バタン!


 ドアを開け閉めする音が聞こえ、誰かが歩く足音が聞こえた。


 「おい、娘の様子はどうだ!?」


 「まだ、眠ってるみたいですぜ」


 大人の男の声だ。口調が荒々しいから貴族では無さそう。

 

 「ちっ、イーサンの野郎、面倒な事押し付けやがって」


 「どうします?この娘。いっそバラしますか」


 「いや、良く見りゃこいつは相当な器量良しだぜ。裏でさばけば結構な値段で売れそうだ」


 「ガキじゃねーすか」


 「こういうツルペタのガキがお好みの方もいらっしゃるんだよ、世の中には」


 「ほーっ、酔狂なこって」


 「おい、こいつを隣の部屋に放り込んどけ!縄は解いても良いが、鍵はしっかり閉めとけよっ」


 「へい」





 そして今、私は途方に暮れながら月明りの漏れる小さな窓を見上げているのだ。


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