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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
第二章 悪役令嬢は巻き込まれたくない
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落ち込んだとしても

 次の日は昨日と同様良く晴れて、とても清々しい朝だった。


 そんな朝なのに、私はベッドの中で頭を抱えていた。心の底から後悔していたのだ。


 (自分から喧嘩売ってどうすんのよ・・・)


 一晩寝たら冷静になった。


 (私は悪くない・・・悪くないけど、下手な手をうってしまった)


 ディーンはきっと酷く怒っているだろう。アリアナの新しい断罪ネタでも考えているんじゃないだろうか?


 (ああ、円満婚約解消からまた遠のいてしまった・・・)


 重い気持ちで登校すると教室の中でミリア達が集まっていた。ノエルも一緒に、何か興奮した様子で話している。


 「あっ、アリアナ様!」


 私に気付くと慌てた様子で、ミリアが私の方へ駆け寄ってきた。ミリアの顔は真剣そのものだ。


 「どうしたのですか?」


 皆の様子に不安な気持ちがこみあげてくる。


 「クリフ様が急にご実家に帰られてしまったのです!。あと1週間で夏休みだというのに」


 「えっ!?」


 (どうして?)


 「昨日の朝、外から戻ってきてから急に帰るって言いだしたんだ。理由を聞いたんだけど話してくれなくてさ・・・」


 いつもおっとりしているノエルも動揺を隠せない。


 (ど、どうしたんだろう!?昨日、別れた時はそんなに変な様子では無かったのに。もしかしてあの後、ウザ声とまた会って何か言われたのだろうか?・・・くっそ、ディーンとさえ合わなければ・・・)


 私は奥歯をぎゅっと噛み締めた。


 「クリフ様、いったい何の為にご実家に帰られたのでしょう?」


 レティシアも不安そうだ。最近のクリフを見てたら誰だって心配する。


(クリフが領地に戻れば、例のウザ声の父親のアバネシー侯爵とも接触するかもしれない。どうしよう・・・やっぱりクリフは陰謀に加担してしまうの?)


 その日の授業は全く身が入らなかった・・・。


 放課後も皆で集まってみたが、クリフ無しではどうしようもない。勉強をする気にもなれず、なんだか少ししらけた気分でお開きとなった。


 私の寮は皆とは違う棟なので、寮の門の所で別れた。とぼとぼと一人で歩いて行くと、なんだか思考が良くない方へと流れていく。


 (クリフはどうしちゃったんだろう?なんで急に領地に帰ったりしたんだろう?昨日私が余計な事を言ったからだろうか・・・。やっぱりストーリーの流れは変えられないのか?)


 「・・・結局、私は何もできないんだ」


 自分の無力さに腹が立ってくる。そしてもう一つ、


 (ああもうっ!ディーンの事もそうだ!彼とはなんとか円満に「さようなら」ってしたかったのに、昨日はどうしてあんな事を言ってしまったのよぉ?ほんとに私は、なんだってこう・・・)


 ぐるぐるぐるぐる考えてもしょうがない事を考えた。両手をぐーにして、こめかみをグリグリして落ち込むだけ落ち込んでやった。


 でも、底の底まで落ち込んで、私は一旦思考を止めた。目をつぶって何度か深呼吸をしてみる。頭が少しだけクリアになって、そうしたら後は浮上するだけだ。


 「よし!自分を責めるのはこれで終わり!後悔するのもこれでやめ!でもってこれからはどうすれば最善を尽くせるか考える!そして動く!」


 私は今までもそうやってきたんだから。


 なんとなく寮にまだ戻りたくなくて私はUターンして学園の方へ戻った。そして、特になんという目的は無かったのだが例の裏庭の四阿に向かってみた。


 裏庭は休日の早朝で無くても人の気配が無かった。私は四阿のベンチに一人腰かけた。


 一人で今までの事を思い返してみる。


 (コールリッジ領の屋敷でアリアナになってから3カ月半。なんとかロリコン回避を目標にやってきたけど、それだけじゃすまなかったなぁ・・・)


 だってゲームのストーリーは容赦なくアリアナを巻き込んでくるのだ。


 最初はヒロインや攻略者とはなるべく関わらず、目立たず穏便に生きていこうと思っていた。ディーンの顔色を窺って、とにかく断罪→婚約解消の流れだけは避けようと思ってきた。


 でも成り行きだったけどリリーと仲良くなった。クリフとも知り合って友達になった。そして二人がこの世界で苦しむのを知っていたから、助けたいと思ってしまった。


 「ストーリーを知っていて、それに関わった人たちが不幸になるのを知っているんだもん。これを知らんふりして見逃すのは私の性に合わないのよ」


 リリーとクリフだけじゃない。他の登場人物だってゲームのイベントで様々な困難が用意されている。


 別に私は人よりも優しいわけじゃないし、もちろん聖人君子なんかじゃないし、正義の味方でもない。それどころか立ち位置は雑魚に近い悪役令嬢だ。


 「結局、人の為なんかじゃくて自分の為なんだよ。自分がモヤモヤするからなの!」


 見て見ぬふりが気持ちが悪い。だから、


 「自分の思うとおり、やれるだけやってみよう。幸い私は頭が良いし、皇国一の公爵家の令嬢で溺愛されてるわけよ。こうなったら親のコネでも権力でも何だって使ってやるわ!」


 もしもクリフの事でどうしようも無くなったら、父に事情を話して対処して貰おうと思っていた。ゲームの事は話せないから説明は色々難しいけどね・・・。そしてなんとかクリフが処刑だけは免れるようにお願いするつもりだった。でもこれはあくまで最後の手だ。


 「とにかく夏休みになったら、ウォーレン領までクリフに会いに行こう。ミリア達の領から近い筈だから、まずはミリアの家に遊びに行くとかで計画立てて・・・」


 そんな事を考えていたら風に乗って話し声が聞こえてきた。どうやら近くに誰か居るようだ。


 (ああ、人が来ちゃったかな?そろそろ寮に戻ろう)


 帰るのが少し遅くなった。過保護な兄がきっと心配しているだろう。そう思って立ち上がろうとしたが、聞こえてきたのが覚えのある声だと分かって私は固まった。


 「・・・クリフの野郎、急に領へ帰りやがったんだ。あいつ、何を考えてんだか」


 (このウザい声・・・デイビット!?)


 私は四阿の中からそっと外を覗いてみた。


 「まぁ、大分揺さぶりをかけたんでしょう?大丈夫じゃないですか?」


 「昨日は生意気なガキに邪魔されたんだ。・・・くそっ、公爵家がなんだってんだ!。計画がうまく行けば、俺だって!」


 「・・・。話が良く分からないですけど、あまり大きな声を出さない方が良いですよ。あまり人が来ない場所とは言え、誰か来ないとも限らないですから」


 (仰る通りです。ここに居ますよ)


 なんて心の中で突っ込んでみたけど、正直私はピンチだった。どうやらもう一人の人物もデイビットの仲間らしい。そして二人は真っすぐこの四阿に向かっている。


 (ど、どうしよう?)


 身体をなるべく小さくするように身をすくめる。私の額から汗が流れた。

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