アリアナ様
次の日、やっと登校できた学校で私は頭を抱えた。
(いやでも、やっぱりマズいんじゃないの!?こうなるとディーンとの婚約解消は難しいよ?なにせ婚約解消を切り出そうとすると声が出なくなるんだから。それどころか危うく息の根まで止められそうになるし・・・。やばっ、これってもう詰んでる・・・いやいや諦めるな!他の逃げ道を考えるんだ・・・!)
「アリアナ様、どうかなされましたか?」
どうやら食事が来ても私は考え込んでいたらしい。お昼休みの食堂でリリーは怪訝そうに私を見ている。
「あ、な、なんでもありませんわ!お、美味しそうですわね、今日のランチ」
いつもはシェフの作ってくれたお弁当を食べているのだけど、今日は皆と学園のカフェテリアに来ていた。テストが終わったお祝いである。
「本当に美味しいです!テストが終わったから余計に。それにしても初めてのテストは思ったよりも難しかったと思いませんか?」
ジョージアは既にランチのチキンステーキをどんどん口に運んでいる。食べながら目線を皿に向けたまま皆と会話するという器用な真似をしていた。しかも彼女だけ大盛のランチだ。彼女は男の子並みによく食べるのだ。
「私は、あまりできませんでしたわ・・・。過去問が無かったら、太刀打ちできませんでしたわ」
レティシアが溜息をつきながら顔を曇らせた。
「来年のクラス分けに向けて、毎年4回のテストは難しく設定されているそうですよ。私も過去問がなかったら、厳しかったですわ。アリアナ様とリリーさんはどうでした?」
そう言いながらもミリアは結構自信がありそうだ。試験中も終始落ち着いていた。
「難しかったです。皆さんに過去問の事を教えて頂いて良かったですわ」
私は謙虚にそう答えておいた。しかし正直に言うと私は過去問が無くてもテストは楽勝だっただろう。
(ふふふ、ガリ勉をなめないで貰いたい)
皇国の歴史や魔法学に薬草学など、前の世界には無かった課目ばかりだが勉強法は通用する。それに数学に関しては中学生レベルだったから勉強せずとも余裕だった。
そして私はリリーも結構できたはずだと予想していた。なんてったって彼女はヒロイン。この世界の主人公なんだから。
リリーは頬を染めながら、
「私は皆さんと一緒に勉強させて頂いたおかげで、テスト期間中も楽しく過ごせました」
そう言って微笑んだ。
その可憐さ清純さに私は撃ち抜かれた。
(おほっ、可愛いぃぃ!)
乙女ゲームの主人公には割と天真爛漫な少女が多いが、「アンファエルンの光の聖女」のヒロインは違っていた。
謙虚で控えめながらも、優しく芯が強いという設定だ。私はゲームでこのヒロイン像に夢中になっていた。そして彼女は魅了の魔術を使わなくても人の心を掴む事ができるのだ。
(いかんいかん)
顔がデレてしまそうになるのを必死で引き締める。リリーはそんな私には気づかないで、
「皆様どうか私の事はリリーとお呼びください。敬称なぞいらないですよ」
と眩しい笑みを浮かべた。
「あら、でしたら私達の事もミリー、ジョー、レティとお呼びくださいな。私達はそう呼び合ってますから。アリアナ様もぜひ」
(あ、良いわね。すごく友達っぽいわ)
ミリアの提案に私の心は浮き立った。
「では私の事もアリアナと呼んでくださ!敬称抜きで」
嬉々として私がそう言うと、はたっと突然皆の動きが止まった。
え?なんで?
「アリアナ様、それは・・・なんだか恐れ多いですわ」
「そうそう、アリアナ様を呼び捨てにするなんて・・・」
「身分が違いすぎますし」
ミリア達三人が口々にそう言って顔を見合わせている。
。
(え~~~!?そんなぁ、私だけ様付け?)
「み、身分なんて気にしなくても良いですよ!」
だって皆は愛称で呼んでるのに、自分だけアリアナ様なんて凄く疎外感を感じるんだけど・・・。
(しかもさ、周りから見ると私が無理やり『様』付けで呼ばせているように見えるんじゃない?)
なんて悪役令嬢っぽい・・・。
同意を求めてリリーの方を見る。だけど彼女も皆の言葉にうんうんと頷いているじゃないの!
「そうですよね・・・アリアナ様はアリアナ様って感じがします。だって、とても高潔な雰囲気をお持ちですもの」
美しい声で笑いながら私を見つめた。
(いや、リリー!そんなきらきらした目で見られても・・・。ヒロインで聖女候補の貴方の方がずっと高潔なんだよ?!)
「私もそう思いますわ!アリアナ様って私達とは何か違うのです」
(いや、ミリー!だからそれは私が違う世界から来たからであって・・・)
「公爵令嬢なのに働こうだなんて、革新的なお考えをおもちですしねっ!」
(いや、ジョー!前世じゃ私、完全なる庶民なんだよ。庶民は働かないと生きてけないんだよっ!)
「勉学も、誰よりもお出来になりますし」
(いや、レティ!それは私がガリ勉だからだよっ。・・・まぁ、勉強だけは自信あるんだけどさ)
最後は皆で声を揃える様に、
「どうか、アリアナ様は私達の事を愛称でおよび下さませ。でも私達はアリアナ様をアリアナ様とお呼びしたいのです」
「あ・・・はい、・・・わかりました・・・」
心の中の反論むなしく、皆の真剣な目に押し切られてしまいました・・・がくっ。




