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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
最終章 悪役令嬢は・・・
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レナルド・マリオット

 私はテーブルの上にあった手をそっと膝に移動させた。

震えていることを、皆に見られたくなかったからだ。


 (もしかして・・・2年前、私がこの世界に来たのは・・・・)


 イーサンとエンリルの二人がヘンルーカを蘇らせようとしたから!?


 当時、私は過労で命を終え・・・そしてアリアナは馬車の事故で命を落としかけていた。

 そしてまるで導かれるように、蘇りの魔術で私達は呼ばれたのだ。ヘンルーカの器として選ばれたマリオット先生の恋人の体に。 


 (偶然?いや・・・)


 こんなの何かの力が働いたとしか思えない。それはイーサンやエンリルですら、気づかなかったこと・・・もしかしたらゲームのシナリオ!?


 シナリオもヘンルーカを蘇らせようとしたのだろうか!?


 (・・・だけど私は今、アリアナの体にいる。ストーリーはゲームとは違う方向に逸れてしまった。修復できないレベルで。全然、覚えてなんかいないけど、私は蘇りの魔術を拒んだんだ)


 あの時のヘンルーカの様に。

 ヘンルーカの引き裂かれた精神は、今はアリアナの中で一緒に存在する。お互いの足りない部分を補い合いながら。


 だけどマリオット先生を憎悪の闇に沈ませたのは・・・マリオット先生の恋人が私たちの容れものにされそうになったからだ。


 (ちくしょう・・・先生がヘンルーカを・・・私達を憎むのは当たり前じゃないか)


 アリアナの心が傷つき苦しんでいるのが分かる。同じ気持ちの私の心に溶け合いながら鈍く広がっていく。



 マリオット先生の倒れた椅子をディーンが起こした。先生はゆっくりと椅子に座り直した。


 「どうだい?僕がこんなことした理由が分かったかい?僕は闇の組織に関わる奴も、闇の組織を生んだアンファエルン皇国も憎くて堪らない。だから全部潰してやろうって思ったのさ」


 先生はもう、いつもの優しくて穏やかな表情に戻っていた。だけど目はどこか虚ろで、光を映さなくなっている。


 私はそれが悲しかった。だから言わずにはいられなかった。


 「先生・・・先生のやろうとした事は、誰も望んでないはずです。先生の友達のイーサン・ベルフォートも、先生の恋人だって・・・」


 言いながら思う。なんて月並みな台詞なんだ。


 「知ってるよ。僕だってそれくらい。これは僕の・・・僕だけの憎しみだ。単なる私怨なんだよ」


 先生はそう言って笑った。


 (そんな・・・)


 乙女ゲーム『アンファエルンの光の聖女』はストーリーの裏にこんな悲劇を隠していたと言うのか?それともここは、ゲームとは全く違う異世界なの?


 確かめる事なんて出来ないけど、それでもゲームでマリオット先生を攻略するルートには、ヒロインと幸せになるエンドだってあったんだ。


 やるせない気持ちで私は聞いた。


 「先生は迷わなかったのですか?・・・やっぱり止めようって、途中で思い返したりしなかったのですか?」


 マリオット先生の顔に一瞬、迷うような表情浮かんだ。


 「・・・思ったさ」


 瞳にほんの少し光が戻る。


 「学園で君達の先生として過ごした事は、偽りの生活ではあったけど、僕が生きてきた中で一番穏やかな日々だったからね。ふふ・・・去年の初日は大変だったなぁ」


 (マーリンが私に噛みついて来た日の事か)


 なんだか随分、昔の事のようだ。あの騒動ですら懐かしく感じてしまう。


 「あれはね、エンリルが勝手にやったんだよ。ライナスに気に入られてるアリアナ君を、苦しめたかったのだろうね。それとも君からヘンルーカの気配を感じ取っていたのかな?・・・今となっては分からないけどね」


 「先生、私は・・・!」


 「うん、君はヘンルーカじゃない。それもちゃんと分かってるよ」


 先生は私から顔を隠す様に俯いた。彼は今どんな表情を浮かべているのだろう・・・


 「君達の先生でいるのは楽しかった。だから僕は君達から正体を隠した。できれば、レナルド・マリオットは君達の先生のままで覚えておいて欲しかったんだ。・・・例えそれが卑怯で独りよがりの望みだとしてもね」


 「先生・・・」


 だったらどうして、そのまま私達の先生でいてくれなかったのさ。


 (馬鹿だよ先生は。学園にいるのが楽しかったんでしょ。先生でいる事が幸せだったんだよ・・・)


 そう言いたかったけど、口には出せなかった。言ってもどうしようも無い事だ。


 先生は選択肢を誤った。彼がこの世界で選ぶ道筋は無数にあったはずなのに。だけど、彼の辛い過去を聞いた後で、彼がやって来た事を間違いだったと責められるだろうか・・・?


 (難しいな)


 もし私が彼と同じ立場だったら・・・


 「さぁ、これで僕の話は終わりだ。・・・そろそろ休ませてくれるかい」


 そう言って顔を上げた先生は、力無く憔悴しているように見えた。トラヴィスが扉の外の騎士を呼び、先生を連れて行こうとした時、私は思わず立ち上がって彼に言った。


 「先生はやっぱり間違ってた。自分を不幸にしちゃ駄目なんです!先生を好きだった人の為に、絶対に幸せにならなきゃいけなかったんだ!」


 先生は少し目を見開いた。そして静かに笑みを浮かべて、


 「僕はその事に気づけなかったよ。アリアナ君、君はやっぱり聡明だね。だけど君は僕を許しちゃいけないよ。僕は自分の恋人がされたのと同じ事を、君にしてしまったのだから・・・」


 そう言って振り向くことなく、騎士達に連れて行かれた。

 私達はしばらく黙ったまま、先生が出て行った扉を見つめていた。


 「アリアナ・・・」


 リリーが泣いている。なのに彼女はポケットから出したハンカチを、何故か私の頬にそっとをあてた。


 「え・・・」


 自分も涙を流している事に、私はその時初めて気付いたのだ。



             ◇◇◇



 皇国に帰国した私達は、何故か国民や貴族達に大歓声で迎えられた。ラッパのファンファーレと紙吹雪の中、私達は用意された豪華な馬車に乗り込む。


 「な、何なんですか!?この騒ぎは・・・」


 トラヴィスが国民に手を振りながら、皇太子の笑みを崩さずに小声で教えてくれた。


 「魔術を使って伝令を飛ばしたのよ。私達が隣国との戦争を防いだって事になってるから」


 実際そうだしね、と言ってウィンクする。


 戦争をしかけようとしていたセルナク国は態度を180度変えた。あの後、トラヴィスは皇国にかなり有利な条件で同盟を提案したのだが、セルナク王もその周囲の貴族も全く文句を言わなかった。いや、言えなかったのだ。


 (何せ、ほとんどの人が精神魔術に汚染されてたんだもんね)


 セルナク国の内情は、ぐちゃぐちゃになっていたのだ。


 だけど、私達が戻って1週間ほど経ってから、セルナクから手紙が届いた。

同盟の条件を飲む代わりにと願い出てきたことが1つ。


 トラヴィスは苦笑しながら内容を教えてくれた。


 「エメライン王女を、学園に復学させる様に言ってきたわ」


 「げっ!」


 同盟を強く勧めてきたのも、どうやらエメラインらしい。


 (確かに皇国にまた来るとは言ってたけど、なんちゅう行動の速さ・・・)


 「来学期には皇国に来るそうよ」


 さすが、真正悪役王女?



 そしてさらに1カ月経って、アンファエルン学園は夏休みに入った。

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