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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
最終章 悪役令嬢は・・・
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罪の告白

 船の中で私達はトラヴィスの船室に集まった。


 私達の前には椅子に腰かけたマリオット先生がいる。なんだかまるで、今から彼の授業が始まるかのような、そんな錯覚を覚えた。


 魔力封じの腕輪をつけられ両手を鎖で縛られた先生は、不思議と穏やかな表情で、今までの凶行を彼が行ったとは思えない程だった。


 「先生、話して頂けますか?貴方がどうしてこのような事をしたのかを」


 トラヴィスが聞いた。

 先生はいつもの優しげな笑顔を浮かべた。


 「このような事とは・・・セルナク国に戦争を起こさせようとし事かな?それとも闇の組織の者達を抹殺した事?いや、違うな・・・ああ、分かった、君を暗殺しようとした事だね?」


 「・・・先生・・・」


 眉を寄せたトラヴィスにマリオット先生が苦笑した。


 「ごめんよ、そんな顔をしないでくれたまえ」


 先生は肩の力を抜く様に、少し溜息をついた。


 「軽口でも叩かないと、気持ちを抑えていられないんだ。僕の心にはまだ、じりじりと焦げ付いた思いが残っている・・・」


 そう言って、先生は扉の横で壁にもたれて立っているイーサンを見た。その視線にほんの一瞬、ゆらりと憎悪の炎が立ち昇る。


 だけどトラヴィスに目を戻した先生の瞳は、いつもの穏やかなものに戻っていた。


 「なんでも話すよ。この戦いは僕の負けだからね。さて・・・長い話になるけど良いかな?」


 マリオット先生はまるで物語を読むように話し始めた。


 「ある所にね、リーツという少年がいたんだ。彼の家は貧しくてね、両親はいつも喧嘩ばかりしていた。だけどある日、リーツ少年には平民には珍しく、強い魔力がある事が分かったんだ。しかもそれは闇の魔力だった。驚いた両親はどうしたと思う?」


 先生は皆の顔を見回した。


 「なんと大喜びで彼を売ったんだよ。闇の組織にね」


 たんたんと、よどみなく先生の話は続く。


 「闇の組織には彼の様に売られたり、捨てられてきた子供が何人かいた。みんな暗い目をしていたよ。そりゃそうだよね、自分達は親や兄弟達に厭われた為に、そこに集まっていたのだから。・・・それでもね、年の近い子供達が集まると、やっぱり仲良くはなるよね。同じ境遇で、同じ辛さを背負った仲間だからさ。リーツには友達が出来た。犯罪に手を貸すのは嫌だったけど、ここの暮らしも悪くないと思う様になった。そして今度はなんと恋人まで出来た。リーツは少し生きるのが楽しくなった・・・」


 そう言って、先生は私の方に目を向けた。


 「アリアナ君。リーツ達が闇の組織に集められた理由は分かる?」


 突然そう質問されて、私はビクッと体を震わせた。先生はにこにこしながら私が答えるのを待ってる。


 (ほんとの授業みたい・・・)


 だけどその問いに答えて丸を貰っても、私は全然嬉しくはない。それでも少し早口になりながら私は答えた。


 「理由の一つは闇の組織の人員として育てる為だと思います。闇の魔力を持つ人材や、精神魔術を使える者を組織は欲していたでしょうから」


 「そうだね、その通りだ。闇の組織はそうやって、昔から歴史の中を生き残ってきた。では、もう一つの理由は?」


 (先生、サドだな・・・)


 私はため息をついて、先生の問いに再び答えた。


 「・・・ライナス・アークとエンリル・ヴェリティの精神の器とする為、でしょうか」


 「正解!さすがアリアナ君だ」


 先生はにっこり笑った。


 「リーツ達は彼らの容れ物候補だったんだよ。君達は知らないだろうから教えてあげよう。精神の容れ物となる身体は、なるべく強い魔力や魔術を使える者の方が良いんだ。その方が蘇った時に魔術を使いやすいんだよ」


 そこまで説明して、先生の声のトーンがいきなり下がった。


 「13歳の時、僕はライナス・アークの容れ物に選ばれた」


 (えっ!?)


 皆も驚きに目を見開いている。さっきまで普通だった先生の顔に、自嘲する様な皮肉な笑みが浮かぶ。


 「僕は仲間の中では一番魔力が強かったし、精神魔術も使えた。器として適していると判断されたんだ。・・・嫌だったけど、仕方ないと思ったよ。どうせ親にも見捨てられた命だ。仲間達や恋人と別れるのは辛かったけど、彼らが選ばれるよりましだと思った・・・なのに・・・」


 マリオット先生は暗い炎が燃えるような目で、イーサンを睨んだ。


 「僕に光の魔力がある事が分かって、役を外される事になったんだ。ふふっ・・・皮肉だろ?闇の組織に光の魔力の持ち主がいるなんて。組織の上の奴らは、僕には他に使い道があるって考えた。そして、代わりに僕の友達・・・親友のイーサン・ベルフォートがライナスの器に選ばれたんだ!」


 私達の視線がイーサンに集まった。彼は黙ったまま無表情にマリオット先生を見ている。

 だけど、私はそこである矛盾に気が付いた。


 「え・・・でも、年齢が・・・。イーサンは私達と同じくくらいにしか見えないし・・・」


 だけどそこまで言って、さらなる疑問に思い至った。イーサンに初めて会ってから2年。私達は成長しているのに、彼は会った時の姿のままだ。

 私の疑問に答える様に、イーサンが口を開いた。


 「器になった者は成長しない。その体は年月と共に朽ちて行くだけだ・・・」


 ゾクリとした。


 (・・・なんだよ、それ)


 やっぱりこの魔術は禁術だと思った。


 するとトラヴィスが訝しそうに声を上げた。


 「ではアリアナはどういう事だ?今いる彼女は異世界から呼び寄せられた精神だ。だけどアリアナの身体は成長している」


 (うん・・・成長したのは去年の夏からだけどね)


 私とアリアナが意識の世界で会った時からだ。


 「彼女は二人でヘンルーカだったからだろう」


 イーサンは俯きながらそう言った。


 「・・・最初に見た時に気付くべきだった。ヘンルーカの精神を引き裂いたのは俺なんだから。蘇りの魔術から逃れた彼女の精神は、輪廻の輪に入り何度か生まれ変わった。そして残った欠片は像に封印されたのち、15年前にアリアナとして転生した。だけど元は同じヘンルーカの精神だ。それに少しずつ溶け合っている・・・」


 するとイーサンの言葉に被せる様に、マリオット先生が突然大きな声を上げた。


 「ああそうだ!僕はそのヘンルーカにも恨みがあってね」


 今度はぎらぎらとした目で私を見た。


 「ライナスよ・・・2年前にエンリルがお前の為に用意した、ヘンルーカの器を覚えているか!?お前たちはヘンルーカを蘇らせる魔術を行っただろう?」


 先生の目は私を見つめたままだ。


 (2年前?だったらもう、ヘンルーカの欠片はアリアナに転生していたはず)


 イーサンは珍しく苦痛に耐えるように表情を歪めて、苦し気に答えた。


 「・・・エンリルは魔術が失敗するのを分かっていた。なのに、俺にヘンルーカを諦めさせるかのように、何度も器を用意してきたんだ。本人の精神が追い出された抜け殻の身体を・・・2年前もそうだった・・・」


 (げ!マジか!?)


 エンリルはそんな悪趣味な事してたのか!?

 狂気に歪んだ彼女の表情を思い出した。


 マリオット先生が椅子をガタンッと倒しなから立ち上がった。


 「そうだ!そしてその身体は僕の愛した人のものだった!」


 先生がそう叫んだ。その声は苦痛と悔恨と憎しみが混ざり合いながら、船室の中に悲しく響いた。

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