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モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい  作者: 優摘
最終章 悪役令嬢は・・・
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ゲームの終わり

 その後はとにかくバタバタだった。


 意識を取り戻したイーサンに頼み込み、私の力を使ってエメラインの精神を本人の身体に戻して貰った。


 「・・・こんな最悪の体調でやる魔術じゃないぞ・・・」


 イーサンがぶつくさと文句を言って、私を睨みつけた。


 「ごめん!でも、イーサンしか出来ないじゃん」


 エメラインの身体も、時間的にぎりぎりだったのだ。長時間、精神が空っぽだった彼女の身体は、そこそこのダメージを受けていた様だった。


 エメラインは自分の身体に戻っても、最初立ち上がる事が出来ず、リリーは続けて彼女の治癒も行った。


 そして驚いた事に、回復したエメラインが最初に言った言葉は、


 「わたくしは、貴方達の味方になりますわ!」


 「は?」


 「わたくし、この方に大恩を受けましたの。だから、これからはこの方の為に生きていきますわ!」


 そう宣言して私を扇で指し示した。


 「はぁ!?」


 エメラインは宣言通り、セルナク国での私達の待遇を一新させた。

 なんだかんだで落ち着いた時には、もう時刻は明け方に近くなっていたのだけど、エメラインは使用人達を叩き起こして、私達が休む部屋を新しくしつらえてくれたのだ。

 おかげで牢屋では無い豪華な部屋で、私はリリーとグローシアと一緒にゆっくりと休む事ができた。トラヴィスとディーンも、そしていつの間にか増えた?護衛のクリフも隣の部屋で休んでいるはずだ。


 だけどイーサンは、「船の部屋を借りる」と言って、私達が乗ってきた船に転移していった。


 (イーサンの事だから、またふらっと姿を消すのではないかと思ったんだけど・・・)


 彼も、今回の事件では気になる事があるようだ。


 (やっぱマリオット先生の事だろうな。何せヘンルーカの像を壊したのは先生だもんなぁ)


 マリオット先生は今、セルナク城の地下牢に入れられている。彼はアンファエルン皇国に連れ帰った後、裁きを受ける事になるだろう。


 (先生は、どうしてこんな事をしてしまったんだろう・・・)


 先生が闇の組織と関係していた事も驚きだった。だけど、これが乙女ゲーム「アンファエルンの光の聖女」が隠していた裏設定だったのかもしれない。

 

 (なんて残酷なシナリオなんだよ。全く・・・)


 あのゲームが無かったら、もしかしたらこの世界は生まれなかったのかもしれないけど、やっぱり製作者のことを恨みたくなる。


 私達の担任をしていた頃のマリオット先生は、ほんとに・・・本当に良い先生だったのだ。


 そんな事をうだうだ考えながらも、色んな事があり過ぎて疲れ切っていた私は、いつの間にか眠ってしまっていた。

 夢の中で、マリオット先生が「ごめんよ、あれは全部冗談だったんだ」と笑っている夢を見た。「先生、酷いですよ!」と怒りながら、なぜか私は切ない気持ちでいっぱいだった。




 次の日、エンリルの精神魔術から解放されたセルナク国王は、真っ青になって私達に非礼を詫びた。


 「・・・トラヴィス殿においては誠に・・・その・・・申し訳なく・・・どうしてこうなったのか・・・コールリッジ公爵家の令嬢にも・・・何がなにやら・・・とにかく我が国としては貴国とは友好的に・・・」


 大汗をかきながら、しどろもどろである。


 (まっ当然だよな。精神魔術で操られていたんだし、それに戦争になってたらこの国だって只じゃすまなかったんだもんね)


 しかも、最も私達に敵愾心を燃やしていたエメラインが、コロッと態度が変わってしまった事に、セルナク王は驚きを隠せないようだった。すっかり私達に友好的になった自分の娘を見て彼は戸惑い、狼狽え、ずっと顔が引きつっていた。


 そしてあの鼻につく宰相は正気に戻っても、やっぱり少し嫌な奴だった。


 「あの美しい侍女の方はどちらに行かれたのですかな?姿を見かけませんが、船に戻ってしまったのでしょうか?もう一度お会いしたいのですが、お願いできませんかね。せめて、居場所を教えてくれませんか。ええ、ええ、もちろん、悪い様にはしませんから」


 としきりに私に尋ね、その度にクリフの表情が無になっていた。



 二日後、来た時とは正反対の丁寧で盛大な見送りの中、私達は岐路に着いた。

 船に乗る前、エメラインは私を抱きしめて、


 「ねぇ、私の弟の妃にならない?そうしたら、わたくしと貴女は姉妹になれてよ。そうなさいなさいな」


 私はエメラインの豊満な胸に顔を押しつぶされながら、必死で声を上げた。


 「・・・誠に光栄なお申し出ですけど、王女の弟君はまだ御年3歳ですよね?」


 これでは私の方がショタコンの変態である。


 それでも放してくれないエメラインの腕の中でもがいていると、ディーンがベリッと音が鳴りそうな勢いで私とエメラインから引き剥がした。そして儀礼的な笑みを浮かべて、


 「申し訳ありませんが、アリアナには私という婚約者がいますので」


 「あら、私はアリアナに言ってるわけじゃ無いわ。もう一人の彼女に言ってるのよ」


 ディーンの笑みがピシッと凍り付き、冷え切った目でエメラインを見すえる。


 (ま、まずい!)


 私はディーンが何か言いだす前に、慌てて彼を引っ張って、タラップに押しやりながらエメラインに頭を下げた。


 「そ、それではエメライン王女。お世話になりました。またご挨拶に来ますね」


 「きっとよ。いいえ!その前にわたくしの方が貴女に会いに行くわっ!」


 私は引きつった笑みを返しながら、急いで船に乗り込んだ。


 「な、なんでこうなった?」


 エメラインの変化に一番に戸惑っているのは、セルナク王よりも私の方だ。


 「アリアナに輪廻の世界で、アリアナに助けられたからだろうな」


 看板の上で、トラヴィスがニヤニヤしながらそう言った。


 「良かったじゃないか。エメラインは敵に回すと面倒だけど、味方なら心強いぞ」


 「そんな事言ってますけど、エメライン王女の関心が自分から逸れたのがうれしいだけなんじゃないですか?」


 私がじろっと睨むと、トラヴィスペはイタズラそうな目でペロッと舌を出して、船尾の方へ行ってしまった。くそっ、ねーさんめ!


 後ろ姿にあかんべーをしていると、船はゆっくりと動き始めた。セルナクを離れ、明日の朝には皇国に着くだろう。


 (最悪の事態は免れたはず。ゲームの世界はこれで終わりだよね)


 ここからは、シナリオは無い。私達が自分達の手でストーリーを作っていくのだ。

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